【剛剣少女vs脳筋少女 そして空気】

 辺りを感知魔法を使いながら見渡すが結界は見当たらない。

「おかしい…。」

 俺は腕を組み考え込んだ。

(これだけ探して見当たらないとなると、かつがれたか?でもそうなると、俺だけならともかくシャイネスまで呼び出す理由が分からないな…。)

 俺は側でビクビクしながらキョロキョロしているシャイネスを見た。

(まてよ…グラリエスが依頼を出てきたが、この地にあるのがアシエルの居城だという裏付けはどこから?

 考えると腑に落ちないな…。

 仮にギルドマスターとしての依頼なら、俺はともかく、皇帝直属の騎士団長であるシャイネスに文面だけの依頼をするのはギルドとしても失礼にあたる。

 タニアが情報提供の為に連絡していたとしても、本来であればグラリエスが直々にシャイネスに会いに行き話をするはずだ…。)

「シャイネス…一つ聞いていいか?」


 シャイネスは一瞬ビクリとしながら俺を見上げた。

「はい?」


「この依頼はグラリエス…ギルドマスターとの直接的な依頼だよな?シャイネスはグラリエスに会ったか?」

 俺はどんどん不安が大きくなる。


「そう言えば、ギルドマスター殿には今回はお会いしてはいないですね。

 タリスマンに連絡が入り、タニアが代理として依頼をしてきました。」

 シャイネスは思い出しながら話していた。


「やはりか…。」

 俺の中で確信に変わった。

「シャイネス…今回の依頼は罠だ。

 俺達をここに誘き寄せるための…!」

 俺は振り向き闇に向かって魔法で創り出した炎の槍を投げた。


「なぁーんだ…バレてたのか…。」

 炎の槍は掻き消え暗闇から声が響く。


「馬車を降りた辺りから、視線を感じては居たんだけどな…。

 まんまとアシエルを餌におびき出された訳か…。」

 俺はレーヴァテインに手を掛けながら闇を睨む。

「だっ誰かいるのか!?す…姿を見せろ!」

 シャイネスは俺の後ろに隠れながら威嚇する。


(ビビリな子犬かよ!)

 俺は笑いが込み上げてくるのを我慢しながらレーヴァテインを引き抜く。

「シャイネス…相手はちゃんと人間だよ。」

 俺の言葉に半信半疑でシャイネスは目を凝らし、闇を見つめた。


「シャイネス様は可愛らしいねぇ…それに引き換え…神威、お前は可愛くないな。

 いつも冷静に判断を下し、対処する。

 でも…なんだかその冷静な態度が嘘っぽいんだよなぁ…。」

 闇の中から剣を担いだタニアが姿を現した。

「神威、お前は弱さを隠しているのか?」

 剣先を俺に向けニヤリと笑った。


「タニア…?貴女が何故!?」

 シャイネスは信じられないと言う態度でタニアに呼び掛ける。


 タニアは剣を担ぎ直し口元を歪ませた。

「俺は、シャイネスの素顔に興味があったからさ!誰も見た事のない、絶武人の素顔を見たとなれば、剣士としての箔が付く。

 だから…黒帝シャイネス!俺と勝負しろ!

 神威…お前はその後だ。」


 シャイネスは俯いて黙り込んでしまった。


「シャイネス様ー?私と戦っては下さらないのですかー?」

 タニアは剣を振り回しながらシャイネスを挑発する。


「スキルや魔法は無し…純粋な剣術勝負…それだったら戦うよタニア。」

 シャイネスは俯いたままだ。


「はなからそのつもりだよ!でも、魔剣の解放はちゃんとしてくれよ?後で本気じゃなかったとか言われたくないからな!」

 タニアは担いだ剣を構えるとシャイネスに向かって走り出す。


(これは1体1の決闘か…邪魔はしない方が良さそうだな。)

 俺は2人から離れた。


 シャイネスはストームブリンガーを抜き放つ。

「タニア…貴女が、私に解放させるくらい強ければな!」

 シャイネスが剣を振るうと剣圧でタニアは押されて後退る。

「なるほど…やっぱ、帝ってのは伊達じゃないんだな!!」

 タニアは剣を構え直すと再び突進する。

「ははは!楽しいぞ!シャイネス!やっぱり貴女も呼んで正解だったよ!!ラクシス帝国の炎帝と黒帝、その2人を俺が粉砕してやるよ!!」


 シャイネスは再び剣を振るとタニアは剣圧で近ずけなかった。

 するとタニアは腰を落とし、剣を構え直す。


「何度も剣圧だけで…舐めるなァァァ!」

 タニアはそのまま剣を振り下ろすと剣圧でシャイネスを押し返す。


「やるなタニア…!」

 シャイネスは剣を構え直すとタニアに向かって走り出した。


(少女同士の戦いだから華麗な戦いになるかと思ったけど…むちゃくちゃ、剛剣と剛剣のぶつかり合いじゃないか…。)

 俺は離れた場所で2人を眺めていた。

(俺は空気か…。今は邪魔せず見てよう…。

 参考になる動きもありそうだ。)

 俺は気配を殺し、眺めていることにした。



 黒い剣と銀色の剣がぶつかり合い火花を散らす。


 シャイネスの攻撃がタニアのスカートにかする。

「よくそんなギルドの受付の制服で戦えるな。感心するよ。

 私には無縁な洋服だ…。」

 シャイネスは少し寂しそうな声でタニアの切れたスカートを眺めた。


「俺だって好き好んでこんなヒラヒラな服来てるわけじゃない!"換装"!」

 タニアから光が放たれ、服は消え、銀色に輝く鎧を纏っていた。

「やっぱこっちの方が落ち着くな…。」


 シャイネスの黒い鎧、タニアの銀色の鎧。

 対極のような姿の2人だが何故か見ていてしっくり来た。

(2人とも立派な剣士なんだな…俺みたいなチート的な存在じゃないんだな…。)

 何故か泣きそうだ。


「改めて名乗らせてもらうぜ。

 俺は、メドラウド…アノニマスのボスとしてやらせて貰ってる。」

 メドラウドは口元を歪ませながら剣を肩に担いだ。

「黒帝シャイネス。先に言っておく。

 俺は雷帝より強いぞ?」

 メドラウドの鋭い突きが放たれる。


 シャイネスは剣の腹でメドラウドの攻撃をギリギリの所で受け流す。

「メドラウド…アノニマスの首領。

 女神の血筋を名乗る剣士か…!

 …なら帝国騎士団長としても見逃せない!ストームブリンガー"解放"!」

 シャイネスの持つストームブリンガーに魔力が集まり金色の装飾が刻まれた大剣になる。


「それが闇の魔剣ストームブリンガーか…。」

 メドラウドはストームブリンガーを凝視した。

「いい剣だ…モルドラが欲しがったのも頷ける。黒帝を倒せば俺が黒帝になるんだよな?

 ならシャイネスを倒し、俺が黒帝となってやろう。」

 メドラウドの目が妖しく光る。


 次の瞬間強烈な一撃がシャイネスに襲いかかる。

「ぐっ…!」

 シャイネスは大剣の腹で受け止めるがメドラウドの一撃は重く、体が泳いだ。

 メドラウドは体を回転させて次の一撃を放つ。


 シャイネスも深く踏み込み体制を立て直すと下から切り上げた。


 剣と剣が交差して甲高い金属音が谷底に木霊した。



 …。

 ………。

 ……………。



 一進一退の攻防が続く。


 しかしメドラウドの方が優位に立ち回っていた。

「絶武人と言ってもこの程度か…雷帝トルハンと対して変わらないか…期待してたんだけどな…。」

 メドラウドの突きがシャイネスの脇腹に突き刺さる。


「ぐっ…!」

 シャイネスから声が漏れる。


 メドラウドは剣を引き抜くと上段に構え振り下ろした。

「さぁ…ご対面だ。」


 シャイネスの仮面が割れ地に落ちた。



 シャイネスは恨めしそうに脇腹を押さえながらメドラウドを睨みつける。

「ほぉ…こんな少女が絶武人だったとはね…。」

 メドラウドは剣を肩に担ぐと口元を歪ませた。


(メドラウド…お前も見た目は少女だぞ?)

 思わず声に出しそうになるのを堪えた。


「うっさいぞ神威!お前、絶対今ツッコミ入れただろ!」

 メドラウドは俺に剣先を向けて怒鳴る。


(!?)

 俺は慌てて首を振る。


 するとシャイネスは小さく笑い口を開いた。

「ふふふ…メドラウド…貴女も十分、少女じゃないか。

 神威殿は顔に出やすいからな…。

 冷静を装っていてもよく見れば分かりやすい…。」

 シャイネスはメドラウドの剣を弾き上げる。


「まだ終わってはいない!」

 シャイネスは剣を構え直す。


「もう…終わらせてやるよ。

 黒帝シャイネス…もう飽きちまった。

 ここからは本気で行くぜ?」

 メドラウドの纏う空気が変わる。


(空気が変わった…なんだこの感じ…本当にアーサーに似ている…喋り方や動きは違うんだけど纏う空気が…。)

 俺はメドラウドを見つめ息を飲んだ。




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