【意外な弱点】

 今日は久し振りにギルドに顔を出していた。

 依頼の掲示板は素通りしてカウンターへ向かう。


 ギルドに所属する傭兵や冒険者達からの羨望の眼差しが気持ちよかった。

(ははは!氷帝を倒し、アノニマス六芒星も2人倒したから炎帝として認められたのかな?

 気分いいな!今までの人生でこんな経験はなかったからな!

 トリガーの世界ではどちらかと言うと妬みや恨みだったからな…。)


 カウンターに居る受付に話し掛けると初めて見る顔だった。

「神威です。指名の依頼があると聞いて来たのですが…。」


 カウンターの少女は慌てた様子で書類を漁り出した。

「神威…炎帝様!少々お待ち下さいませ!」


 隣のカウンターで受付をしている女性は心配そうに何度も少女を見ている。


「別に慌てなくて大丈夫だよ。」

 俺は落ち着かせようと声を掛けたつもりだったが、逆効果だったらしい。


 テーブルに積んであった書類をひっくり返す。

「ごめんなさい!あっ…申し訳ございません!」

 言葉遣いを言われているのだろうか少女はしきりに言い直しをしている。


 失礼かと思ったが自然と笑みが溢れてきた。

「俺に対しては普段の言葉で大丈夫だから、気にせす、取り敢えず落ち着こうな?」

 俺は少女に笑いかけた。

(なんだか雰囲気がアーサーに似ているな。)


 少女は半泣きになりながら書類を拾い上げている。


 …。

 ……。

 ………。


「落ち着いたか?それで指名の依頼とは?」

 席に座り直し深呼吸している少女に話し掛けた。


「はっ…はい!大変お待たせ致しました!

 こちらがギルドマスター様より、炎帝神威様への依頼になります!」

 少女が差し出した依頼書を手に取った。


「ギルドマスターからの依頼?」

(確か…グラリエスだったっけ。)

「依頼内容は…魔王アシエルの捕獲!?」

(マジかよ…。)

「帝国の領土とレイヴンの国境にあるバーンの谷に魔王アシエルの居城に繋がると思わしき結界を発見。

 俺と黒帝シャイネスで現地に急行し調査をしろと…。」

(アシエルの居城…フェンリルやパズズが居るはずだ…。

 アシエル…俺の力で倒せるか?)

 俺は腕を組み考え込んだ。


 その姿を見て少女は不安気にしている。


「すまない、考え事をしていた。

 黒帝シャイネスにはもう連絡はついているのか?」

 俺が問いかけると同時に後ろから声をかけられる。


「もう連絡は来ているよ神威殿。」


 俺が振り返るとそこには相変わらずのフルプレートの鎧を纏うシャイネスが立っていた。


「早いなシャイネス。

 もう準備万端って感じだな。」

 俺はおどけて見せた。


「神威殿は相変わらずの余裕だな。

 私なんか魔王アシエルの居城と聞いて緊張しているのに…。」

 シャイネスは兜の顎部分に手を当てた。


「よし。ギルドマスターからの依頼承った。

 受理申請を頼む。」

 俺は依頼書を少女に返した。


「はい!すぐに処理致します!」

 少女は慌てて依頼を処理し始めた。


 シャイネスはそんな少女を見て声を掛けた。

「タニアは相変わらず、緊張しっぱなしだな。

 少しは神威殿を見習って余裕を…これは無理な話か…。神威殿は特別製だからな。」

 シャイネスはフフフと笑う。


「それは酷くないか?俺だって緊張位はするさ。」

 俺も笑い返した。


 炎帝と黒帝が並んでいる事もあり、受付のカウンターの周りは騒めきと共にクレーターの様になっていた。


 タニアと呼ばれた少女が依頼の受理申請を処理し終えた様だ。

「炎帝神威様!お待たせ致しました!依頼の受理申請が完了致しましたので、炎帝神威様に正式に依頼をお願い致します!」


「ああ…分かったよ。ありがとうタニア?」

 俺は勢いにおされながらタニアに笑いかける。


 タニアは顔を赤らめながら俯いてしまう。


「さあ!神威殿!行きますよ!」

 シャイネスは声を張り上げ俺の手を引っ張って行く。



 ーーーーー


 バーンの谷へ向かっている最中に馬車の中でシャイネスから話を聞いていた。


 タニアは元々はレイヴンの出身でアノニマスの奴隷売買によりギアに買われたらしい。

 俺が潜入した時にアノニマスから逃走していたニアに助けられ保護された様だ。


 そしてニアの仲介でギルドの受付として働いているらしい。


 シャイネスとはギルドと騎士団の情報の共有の際の通信者として仲良くなったみたいだ。


「あの子が奴隷ねぇ…。」

 俺は腕を組み首を傾げた。


 シャイネスは不思議そうな顔をして首を傾げる。

 シャイネスは馬車の中で俺と二人きりならと仮面を外していた。

「タニアがなにか?」


「気が付かなかったか?あの子…かなりの剣の使い手だぞ?

 ドジや緊張は生まれ持った物だろうけど…ふとした時に出る足の運びや体の動かし方、剣の握りによって出来る鍛えられた手だった。

 実力までは分からないが相当な使い手なのは間違いないだろうな。」


 俺の言葉にシャイネスは驚いていた。

「あのタニアが…。」


 しばらくすると馬車は止まり、目的地のバーンの谷へ着いた。


「以前、ギルドの依頼で来た時は確か…あそこだ。

 あの道で下に降りられる。行こう。」

 俺が道を指さすとシャイネスは頷いて後を着いてきた。


「依頼書によると、谷底のレイヴン側に結界に護られた洞窟があるらしいですね。」

 シャイネスは辺りを見渡しながら歩いた。


「そうだ、シャイネス!

 ストームブリンガーを返しておく。

 もし本当にアシエルの居城なら戦闘は避けられないだろうからな。」

 俺はシャイネスを呼び止めるとゲートからストームブリンガーを取り出しシャイネスに渡した。


「ありがとう神威殿。

 やはり愛剣が手元に無いと落ち着かないよ。」

 シャイネスはストームブリンガーを腰に差し感触を確かめている。


(確かに…普段ある重みがないと違和感はあるな…。

 剣によって握りも違うし…。)

 俺も無意識にレーヴァテインに手を添えていた。


 しばらく谷底を探索していたが洞窟らしき物は見当たらない。


「おかしいな?結界が貼られてるような場所も見当たらなかったが…。手分けして探してみるか…。」

 俺とシャイネスは手分けして探してみる事にした。


 辺りを感知魔法を使いながら探索するが、それらしき場所は見当たらなかった。


「こっちにはどうやら無さそうだな…シャイネスの方はどうだろう?」

 俺はギルド支給の通信用タリスマンを取り出しシャイネスに連絡をとろうとした。


 しかし繋がらなかった。


(谷底に防壁でも貼られているのか?

 それにしても…何かがおかしい…。)

 俺は来た道を引き返し、シャイネスを探した。



 ーーーーー



「結界か…私はどちらかと言えば魔法は苦手なんだけどな…物理的に破壊してしまう方が手っ取り早い!」

 シャイネスは辺りを見渡しながら歩いていた。

「それにこう言う静かな場所は私には不向きだよ…鎧の音が響くし、それに…。」


 シャイネスは自分が蹴ってしまった石が転がる音に体が硬直した。


「ゴースト系のモンスターとかアンデッド系は苦手なんだよ…。」

 シャイネスはストームブリンガーを抜き握り締めるとゆっくりと歩き出した。

 そして小声で喚く。

「神威殿~、神威殿~。

 私を独りにしないでおくれ~。

 怖いよ~、やだよ~。」


 その時、急に通信用タリスマンが光り出す。


 シャイネスは突然の事に動揺しタリスマンを手から滑らせてしまった。

「あっ…!」

 慌てて受け止めようとするが無常にも地面に叩きつけられ割れてしまった。

「えぇぇぇぇ!?」

 シャイネスは泣きそうな声を発しながら項垂れる。


「もうやだよぉ…。」

 辺りは静まり返り暗闇が続く。


 シャイネスは不安になり息を飲む。

 普段は見せない年相応な少女の素顔。


 そんなシャイネスを遠くから見つめる影があった。


(こうして見るとやっぱりただの少女なんだよなぁ…フルプレートの鎧を着てるけど。)

 神威は腕を組みシャイネスを見ていた。



 その後、シャイネスに見つかり暫く口を聞いて貰えなかったようだ。




 神威とシャイネスは合流して再度谷底を探索し始めた。






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