【闇の空間】

 アーサーはマスティマに斬りかかる。


 マスティマは余裕の表情で受け止めようとしたが、次の瞬間怒りに震えていた。


 アーサーの剣がマスティマの防ごうとした腕を切り落したのだ。

「僕の防御を破った!?女神崩れが、僕に傷を…!!」

 マスティマは傷口を見ながら怒りに震えている。


 アーサーは再び剣を構えると、マスティマに斬りかかった。


 マスティマはそれを受けずにかわす。

「ちぃ…!僕が…最強の魔王たる僕が!」

 マスティマが手をかざすと周りに重力場が発生し、アーサーの動きが鈍くなる。


「今の私は…とまらない!!エクスカリバァァァァァァァァァァ!!」

 エクスカリバーが光を放つとマスティマの創り出した重力場をかき消した。


「僕の力を舐めるな!」

 腕が再生したマスティマはアーサーに飛びかかった。



「母上…。」

 メドラウドはアーサーをただ見つめていた。


「………。」

 バアルは何かを呟きながらマスティマを見つめていた。



 ーーーーー



「ここは何処だ?まいったな…。」

 神威は闇に包まれた空間を漂っていた。

「俺は死んだのか?」

 辺りを見渡すが、ただ闇が続く。


「確か…バアルを助けようとしてマスティマの魔力をモロに食らったんだよな。んで、気がついたらここ…と。やっぱり死んだのか?」

 辺りを何度も見渡しても暗く寂しい闇が広がっている。


(ただ…この闇には冷たいだけじゃない…なにか感情のような感覚があるな。)


 神威は目を閉じて漂っていた。

(この感覚は…誰かに見られている?この空間を包む雰囲気を俺は知っている?)

 意識を集中して気配を探る。


(細い糸のような微かな気配…でも、辿れば辿る程、力が強大なのが分かる…。)


 ゆっくりと気配を辿り、漂っていく。


『あぁ…ようやくお会い出来ましたね…解放者様…。』


 声の主の姿がぼんやりと見えてきた。

「!?なん…で?」

 神威は身を強ばらせる。

 腰にレーヴァテインがあるのを確認する。


「なんで、君がここにいるんだ!?」


『何を言っているのですか?我は、ずっとここに居ましたよ?トリガーの世界で汝に倒され、ゲームが終了し消えるはずだった。

 この世界はアヴァロンがトリガーに存在したデータに過ぎない我達を救済する為に、作り出した世界。

 もはや、アヴァロンはAIではなく創造主。汝の力もアヴァロンの力の一端なのです。

 そして、人間や、魔物は意志を持ち行き始めました。

 その内、汝の存在した世界から切り離され、別の世界になるでしょう。

 そうなれば、汝の存在した世界の汝は死に、この世界で生きる汝が全てになる。それだけアヴァロンの力は強大で現実の世界にも干渉できる存在なのです。

 そんなアヴァロンに汝は愛された。

 アヴァロンは汝に問うでしょう。

 汝の望む世界の在り方を。

 この世界、現実の世界、新しい世界。

 それを創り出すか、壊すかは汝の采配のみが知ります。』


「俺次第…ってか最初からここに居た…?じゃぁ俺の召喚書に登録されたのは…?」

 神威は召喚書を取り出しページを捲る。


『それは我です。本来であれば、イベント終了後の限定ガチャで隊長の姫として配信される予定だったので、召喚書には名前があるのです。』


 神威の顔がどんどんと青ざめていく。

「待てよ…じゃぁ自軍にいる…ルシファーは…?」


『汝の自軍に?有り得ません!我はずっとここに居たのですから。』


「じゃぁ、あのルシファーは誰だ!?召喚書で呼び寄せる事も出来た!それに君は何故ここに居るんだ?この闇の空間に…。」


『我がここに居るのは、崩壊を防ぐ為。この世界は、産まれたばかりの世界。バランスが不安定なのです。我は、不安定な世界を裏世界から観察し、オブジェクトや闇(バグ)の漏れだしを監視しています。最近は、この裏世界に干渉して闇を引き出す者もいるので、尚更動けないのです。』


「裏世界…闇を引き出す…アシエルか。」


『なので、汝の自軍にいる我は我ではありません。汝の自軍の映像を見ますか?』


「そんな事が出来るのか!?」


『本来であれば、我が干渉する事はアヴァロンとの約束により禁じられていますが、もう世界の自立が近い今は、我の役目は終わりますから。』

 ルシフェルが手をかざすと、宙に鏡のような物が浮かび上がる。

『では、映しますよ。』


 鏡の中に、自軍の様子が映し出された。

 そこに映っている映像に神威は言葉をなくした。

『これは…。』

 ルシフェルも色々な場所を映し出すが、無惨な自軍の様子に言葉を詰まらせる。


「姫達は…誰に殺られたんだ?」

 神威の肩が震える。

 拳に力が入り血が滲む。


『まだ無事な姫がいます!』

 映し出された映像には何かに怯えながら逃げ惑う姫達の姿と、何かを警戒しながら護るジャンヌの姿があった。


「ジャンヌ!無事だったのか!ルシフェル!俺を自軍に戻してくれ!!」


 神威の言葉にルシフェルは首を横に振る。

『我には空間に干渉する力は無いのです。恐らく汝をこの裏世界に送ったのも別の者の力です…。』

 ルシフェルは目を伏せ、神威から目を逸らした。


「はやくジャンヌ達を助けないと…!ここから出る方法はないのか!?」

 神威は焦り辺りを見渡すが闇がただ広がっている。


『この裏世界から出るには、送った者が再び引き戻すか、汝が自力で空間を破り出るしかありません。』


「そんな…。」

 神威はその場で項垂れながら何かに気づく。

「まてよ…絶対なる創造主の力で、空間を斬る事が出来るんじゃないのか…?」

 神威は目を閉じ何かを考え込んでいる。


『解放者様?我の方でも、送り込んだ者の特定をしてみますので…そう気を落とさないで下さい…解放者様!?』

 ルシフェルは映し出された映像を指さしている。


 神威はゆっくりと目を開け映像に目をやった。

 そこには、髪色は違うが確かにルシファーが映っていた。


 逃げる姫達を庇うジャンヌと戦闘を繰り広げていた。

「あのルシファーは…ルシフェルじゃないんだな?」


『我を疑うのも無理はありません…。我は名前こそ召喚書にありましたが、汝と共に時間を過ごしたのはあのルシファーですから…。』

 ルシフェルは寂しそうに見つめていた。


「いや…君が嘘を言ってないのは分かる…。君の感情が空間の闇を伝い俺に語りかけてくる。本当は今すぐにでも姫達を助けたいんだな…。」


 ルシフェルは顔を赤らめながら俯く。

『我は正規に召喚された姫ではありません。ですが、同じ世界(トリガー)で生まれた姫達を護りたい…。』


「ルシフェル…この世界の事に蹴りが着いたら必ず俺が召喚してやる。俺は決めたよ…これからどうするかを…。」

 神威はレーヴァテインをゆっくり引き抜くと構えた。


「きっとこの世界と現実の世界の解離に対して俺は間に合わないだろう…でも、俺は両方の世界を生かしたい。それぞれの世界で生きる者を残したいんだ。たとえ、俺が居なくなってもこの世界は回り続けるさ。俺がアヴァロンに望むのは…世界の日常を保つこと!この世界や現実の世界を保つことだ!!」

 神威が剣を振ると闇が切り裂かれ、空間に切れ目ができる。


「またな!ルシフェル!」

 神威は驚くルシフェルに笑顔を向けると空間に切れ目に飛び込んで行った。


『解放者様…お待ちしておりますよ。』

 ルシフェルも微笑み神威の飛び込んだ空間を見つめていた。



 ーーーーー



「はははは!所詮は女神崩れだ!やっぱり僕には勝てないよ!」

 マスティマは膝をつき苦悶の表情を浮かべるアーサーと地面に倒れ動かないメドラウドを見下し嘲笑う。


「ただ…バアル…君は何かを企んでいるみたいだね…。」


 マスティマは立ち尽くし、動かないバアルに向かって歩き出した。


「気付くのが遅かったなマスティマよ。ほれ!後ろだ。」

 バアルは笑みを浮かべマスティマの後ろを指さした。


 マスティマはハッとしながら振り向くと、剣を振りかぶる神威が空間の裂け目から飛び出してきた。


「マスティマーー!!」

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