【第三章】世界の中心 編

【様々な違和感】

 俺は今アーサーとフォカロルと共に倭の国へ来ている。


 半蔵はニアと共にゴーレムを動かしたのではないかと疑いのある機械国ギアの調査をしている。


 クシャシーはギルドのメンバーと共に未だ攻めてくるレイヴンの残党狩り。

 レイヴンの残党といっても国の兵ではなく、ノエルの配下だった者達だ。

 レイヴン自体はなりを潜めてる。


 傭兵部隊インビジブルの拠点である自軍エリアは引き続き、ルシファーとジャンヌが中心となり守りながら魔王達や正体不明の存在を調査している。



「ここが倭の国か…国の名前や咲耶姫の格好からして昔の日本を想像してたけど…少し違うようだな…。」

 女王咲耶は女王と呼ばれるのが嫌らしく、姫と読んでくれと言っていた。

 本当ならば自軍の姫達以外を姫とは呼びたくないが一国の主の機嫌を損ねる訳にはいかないと、アーサーやルシファーに説得され咲耶姫と呼ぶ事にした。


 倭の国は昔の日本のように木造長屋が主な街並みだ。

 しかし何処か不思議な光景も混じっている。

 長屋なのに機械があったり、魔道書が売られていたり。


 刀の様な武器もあるが、基本は剣だ。

 鎧も和風な甲冑ではなく、西洋の騎士のような鎧が並ぶ。


(不思議な感じだ…。)

 俺は街並みを眺めながら城へ進んだ。

 アーサーは周りをキョロキョロしながら不思議そうな顔をしている。

「見たことも無いような衣服の住人や、建物…違う世界に来たことを今更再実感した気分です。」


 フォカロルは商店に並ぶ食べ物に目を輝かせていた。

「隊長様!あれは何ですか!?

 赤黒く丸い物体を皆美味しそうに食べていますよ!?

 白い伸びる物まで!」


 フォカロルもアーサーも子供のようにはしゃぎ目を輝かせていた。


「咲耶姫との話が終わったら少し時間も作れる。

 そうしたら街を見て回ろう。」

 俺が2人に笑いかけると2人は嬉しそうな顔をして俺を急かした。



 穏やかな時間。

 今はまだ…。



 ーーーーー



 俺は咲耶に謁見する為に城門の前に来た。

「おぉ…!」

 見事な城門に思わず声が漏れる。


 高麗門を抜け櫓門に差し掛かると上から見ていた兵が急いで降りてきた。

「炎帝神威殿ですね!お待ちしておりました。

 どうぞ此方へ…!」


 見事な庭園を抜け、天守を横目に本丸にある大広間に通された。


(やはり造りは日本の城みたいだ…。

 なんだか懐かしさもあるな…。)

 大広間に通され、咲耶姫がくるまで待つことになった。


 アーサーとフォカロルは見慣れない造りの部屋をキョロキョロして落ち着かない様子だ。


 俺は跪坐をし目を閉じた。

(何だか懐かしいな…。

 実家の道場みたいだ…。

 でも、もう無い…。

 学者をしていた両親は物心ついた時には交通事故で亡くなった。

 祖父に引き取られ古武術の道場の跡取りとして育てられたけど、祖父も病気で亡くなり身内の居なくなった俺は施設に預けられた。

 両親の居ない俺は中学ではイジメの対象になった。

 祖父に鍛えられたお陰で多少の苦は耐える事が出来た。

 そしてそのまま高校へ上がり平凡な生活を送り、大学へ行った。

 大学でも周りと馴染めず1人で過ごした。

 卒業して社会にでたが会社でも業績が伸びずに怒られ残業の毎日。

 そんな時にリリースされたトリガーの広告を見た。

 無邪気に笑うアーサーに一目惚れした。

 俺はその足でゴーグルギアとソフトを買い、隊長神威としてトリガーの世界に降り立った。)

 俺はゆっくりと目を開くとアーサーを見つめた。


 アーサーは不思議そうな顔をして首を傾げたが、あの時と同じ笑顔を俺に向けた。


(今は真宮 神威じゃない…。

 傭兵部隊インビジブルの隊長神威だ。

 俺は姫達と共にこの世界を生きるんだ!)



 俺達が暫く待機していると奥の襖が開き咲耶姫が姿を現した。


 以前会った時の戦闘用の装束ではなく、煌びやかな和装の様な格好だった。


 アーサーは咲耶姫の姿を見て呟いた。

「綺麗…。」

 自分が言葉を零した事に気づき顔を赤らめ俯いた。



(確かに戦場で会った時の存在感とも違う、品のある佇まいだな。

 これか本来の咲耶姫なのか?)

 俺が咲耶姫を見つめていると、

「なんじゃ?見惚れたか?もっとちこう寄って良いぞ?

 オヌシなら許そう。

 ほれほれ!一国の主を好きに出来るチャンスじゃぞ!」

 咲耶姫はイタズラっぽく笑うと裾を持ち上げ素足を見せる。


(前言撤回!なんら変わらない!

 黙っていれば清楚な美人なのに…。)

 咲耶姫の傍に控えた従者らしき女性が咲耶姫を制止した。

「咲耶様、御戯れも程々に。

 和平の使者殿に失礼の無いように…。」


 咲耶姫は口を尖らせ上座に座った。

「なんじゃ!"鳴江(なえ)"は相変わらずの堅物よ!

 黒帝といい勝負じゃ!」


 俺達は苦笑いを浮かべた。


「して、オヌシ。

 神威殿はこの辺りの生まれなのか?

 名前といい、仕草といい…まるでこの国を知っているかのようじゃ。」

 咲耶姫は跪坐をする俺を見た。


「いや…この国の生まれではないよ。

 ただ似た文化を持った国に生まれたからそう感じるのかも知れないな。」

(間違っては居ないはず。)

 俺は真っ直ぐ咲耶姫を見つめながら話した。


「そうか…では本題に入ろうかの。」

 咲耶姫が鳴江に目配せをすると鳴江は一枚の紙を俺に差し出した。


 俺は紙を受け取り目を落とした。

「これは…地図?」


「そうじゃ。

 先日の戦の後、突如として現れた建物の場所を印した物じゃ。

 ラクシス帝国と倭の国の国境にあるヘルズ平野の真ん中に突如として巨大な塔が出現したのじゃ。

 その塔の調査を神威殿に頼みたい。

 ミカエラス王との話も既についておる。

 わっちの国から調査隊を出したのだが、何故か塔に辿り着く事も出来ぬのじゃ。

 神威殿ならば塔に辿り着き調査を行う事が出来るのではないかとの話になった故に調査を頼みたい。」

 咲耶姫は俺を見つめた。


「…幻術か何かで護られているのか?

 なるほど…わかりました。

 使者として勅命賜りました。」

 俺は一礼するとアーサーとフォカロルを連れて城を出た。



 フォカロルが先を歩き振り返る。

「その塔って何なんですかね?

 幻術で護られているなら何か重要な役割がある塔なんですかね?」

 首を傾げながらフラフラと歩く。


 俺は腕を組みながら後を追い歩く。

「前を見ないと危ないぞ…。

 まぁ恐らくだけど魔王か何かに関連する物だとは思うが…。」

 俺が顎に手を当て考えているとアーサーは何かを訴えた。

「あの…神威様…。

 私の気の所為ならいいのですが…。

 先程の鳴江という方から闇の気配を感じた気がして…。」

 アーサーは目を伏せる。


(アーサーは光属性だから闇属性には敏感だ…もしかすると塔と鳴江という女性が関係あるのか?)

「俺には分からなかったが…アーサーが言うなら注意してた方が良さそうだな…。

 まぁ行ってみれば何か分かるさ。

 さて、出発は明日だ。

 今日は街を見て回るか!」

 俺は気持ちを切り替えて2人に笑いかける。



 その後、色々な露店を見て回ったり、倭の国の衣装に身を包むアーサーやフォカロルに心を撃ち抜かれたりしながら過ごした。

(スクショ機能が欲しかった…!!

 期待したが流石にそんなスキルは獲得出来なかったか…。)



 ーーーーー



 次の日、俺達は地図に印された塔を目指した。

「目視で確認出来るのに近ずけない…。

 やはり幻術か…フォカロル。」

 俺がフォカロルを見るとフォカロルは返事をして杖を構える。


「眷族よ我が目と成り、本物を映せ。

 "イビル アイ"!」

 塔の周りに紫色のドームの様な物が現れる。


 段々と収束していくと塔の輪郭がぼやけ始める。


 俺達が塔の場所にたどり着くとそこには魔法陣が印されていた。


「この文字の羅列は転送陣か…。

 2人とも準備はいいか?」

 俺が2人の顔を見ると2人は頷いた。


「よし…行くぞ!」

 魔法陣に入ると体が光だし転送が開始された。



 ーーーーー



 塔の内部に侵入する事は出来た。

 だがアーサー達とはぐれてしまったらしい。

 俺は壁に触れてみた。

「窓はないが明るい…。

 壁の音の響からして地下ダンジョンか…。」

 俺は辺りを見渡したが同じような道が続く。

「取り敢えずアーサー達と合流しないとな。」


 俺は脳内マップのスキルを使用し、今居るフロアのマッピングを始めた。



 暫く歩き回り違和感に気づく。

「このダンジョン…来た事がある?

 歩いて居ないはずの場所がマッピングされている…。

 それに…。」

 目の前にモンスターが現れる。

「"虚ろう者"か…このモンスターはダンジョン専用モンスターだったな。」

 剣を引き抜き虚ろう者を斬り捨てる。

 虚ろう者は断面から燃えだし消滅する。


「この先に…やはり次のフロアへの魔法陣があったか…。

 って事は…。」

 俺はトリガーでの記憶を遡る。

 記憶の中に一致するダンジョンを思い出す。


「まさか…このダンジョンって…!

 だとしたらアーサー達が危ない!!

 早く合流しないと!」

 俺は次のフロアへ急いだ。



 ーーーーー




 アーサーは鏡張りのフロアにいた。

「ここは…?神威様ともはぐれてしまったみたいだし…。」

 合わせ鏡の様に鏡が連なり、道を作っている。


 手探りで道を探しながら歩いていると目の前に神威が現れた。

「神威様!ご無事だったんですね!」

 アーサーが神威に駆け寄るとそれは鏡だった。

「鏡…?神威様は鏡の中に?」

 アーサーが鏡に触れると鏡が光だし、辺りを白く染めた。


 あまりの眩しさにアーサーは目を瞑り顔を隠す。



 暫く光は続き収まった時にゆっくりと目を開けた。


 すると鏡は消え、白い空間に神威が立っていた。

「神威様!」

 アーサーは神威に駆け寄る。


 しかし神威はアーサーを見るだけで返事をしなかった。


「…どうしたのですか?」

 アーサーは首を傾げた。

 暫く沈黙が続く。

「あの…神威様?ここは何処なのでしょう?

 フォカロルは一緒では無いのですか?」

 アーサーの問いかけに神威は無言で首を振る。


 アーサーはいたたまれなくなり辺りを見渡した。

 すると奥に扉の様な物が見えた。

「神威様!あそこに扉があります!

 この部屋からの出口かもしれませんよ!」

 アーサーは神威の手を掴み走り出そうとしたが神威の手が冷たい事に驚き手を離す。


「…神威様じゃない?

 姿形は神威様だけど…神威様の温かさが無い…。」

 アーサーは警戒して剣の柄に手をかける。


「アーサー酷いな。

 俺は神威だ。

 傭兵部隊インビジブルの隊長神威だ。」

 神威は俯き声を発した。


「違う…!

 お前は何者だ!?

 神威様の姿をかたるとは…!」

 アーサーは剣を抜き構えた。


「俺は神威。」

 神威も剣を抜き構える。

「敵となるならアーサーでも斬るぞ。」


「偽物に私が斬られるものか!!

 エクスカリバァァァァァ!!」

 アーサーの剣が光る。

 光を纏う剣を振りかぶり神威に飛びかかる。


「"無影斬"」

 神威の剣がアーサーの剣を弾く。


 アーサーは体勢を崩しながらも次の剣を振るう。

「やぁぁぁぁぁ!!」

 しかし次々と繰り出す攻撃も弾かれ、かわされ神威には届かずにいた。



 アーサーは肩で息をしながらも神威を見据える。

「はぁはぁはぁ…。

 これでは本物の神威様と同じ…。」


 神威は剣を振りかぶる。

「俺は神威だ。

 アーサー、お仕置だよ。」



 神威が剣を振り下ろすとアーサーから血飛沫があがる。

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