【インジャスティス】

 俺は回り道をしてレイヴン軍本陣の近くまで忍び込んだ。

(そろそろスキル解除してもいいか。)


 俺は"インビジブル"のスキルを解除して本陣の前に現れた。

(部隊の名前と同じスキルか…なんか感慨深いな。)


 案の定、敵の本陣は手薄になっていて楽に侵入できた。


「俺は炎帝神威!

 氷帝ノエル!一騎討ちを申し込む!!」

 俺は本陣の前に陣取ると声を上げた。


 本陣の護りについていた兵が驚きながら俺を取り囲む。


「俺は氷帝に用があるんだ。

 お前達を相手にしている暇はないんだが?」

 俺が剣を鞘から引き抜くと俺の周りに炎が迸る。


 取り囲む兵はたじろき後ずさる。


「"アイス ロード"!」

 迸る炎の一角を切り裂き氷の道ができる。


 氷の絨毯を悠然と歩き歩みでる男がいた。

「僕が氷帝ノエルだ。

 君が炎帝神威か…思っていたよりはやるようだね。

 でもここまでだ。

 僕が君を殺してあげるよ。」

 ノエルから冷気が迸る。


(氷帝ノエル…アシエルの手の者…。)

 俺が剣を構えるとノエルも剣を構えた。



「「勝負!!」」

 レーヴァテインとアルマスがぶつかり合う。


 アルマスから迸る冷気がキラキラと氷粉になり、レーヴァテインから迸る火花が氷粉を溶かす。


 互いに剣を振るい何度も剣身がぶつかり合う。


「ふむ、なかなかにやるようだ。」

 ノエルは後方に飛ぶと髪をかきあげた。

「ならば少し力を見せてやろう。

 "アイシクル レイン"!」

 ノエルが剣をかざすと上空に氷の塊が無数に現れ、剣を振り下ろすと氷の塊は俺を目掛けて飛んできた。


 俺は飛んでくる氷を斬り落とす。

 しかし手数が追いつかない。

「小賢しいな…!

 "ブレイズ ウォール"!」

 俺が剣を地面に突き刺すと目の前に炎が上がり飛んでくる氷を溶かしていった。


「まあこれくらいは防げて当然だよね。

 じゃあ次はどうかな?」

 ノエルは俺に向かって突きを放つ。

「"アイシクル ランサー"!」

 アルマスの剣身を氷が包み、鋭利な槍先になり俺の眼前に迫る。


 俺は半身になりかわすとレーヴァテインに魔力を込めた。

「"ヴァーミリオン フレイム"」

 ノエルに向かって剣を振り下ろす。


「ちぃ!」

 ノエルは舌打ちをしながら後方に飛んだ。


 斬り裂いたと思った場所には氷が貼られ、ノエルには届いていなかった。



「"アイス メイル"まで使わされるとはね…。

 君を見くびっていたよ。」

 ノエルの空気が変わる。

「アルマス解放!」

 アルマスの剣身は青い光を放つ。

 青い剣身に銀色の装飾が浮かび上がり氷の結晶が剣身を取り巻く。


「アルマスの解放か…。

 なら俺も…解放!」

 剣身に銀色の装飾が浮かび上がり剣身が紅く光る。

 蒼白い炎が剣身を取り巻く。



 同時に踏み込むと剣と剣がぶつかり合う。

 冷気と炎がぶつかり合い、辺りに衝撃波が広がる。


 勝負を呆然と見ていた兵は衝撃波に耐えられず次々と飛ばされていく。


 鍔迫り合いが続き、互いに後ろへ飛ぶとスキルを発動した。

「"アイシクル ランサー"!」


「"ヴァーミリオン フレイム"!」

 放ったスキルがぶつかり合い相殺された。

 氷を溶かし発生した水蒸気が辺りを白く染める。



 しかし戦闘は続き、水蒸気の中から剣と剣のぶつかり合う音が響く。


 姿が見えないが音だけが響く空間で兵達は呟く。

「なんて戦いだよ…。

 やっぱり帝がいるなら俺達なんて要らないじゃないか…。

 ノエルさんが最初から戦えば、仲間は死なずにすんだのに!」

 周りの兵もざわめきだす。


 すると水蒸気の中から氷の塊が飛んできて兵に刺さる。

「え…?」

 兵は血を吐きその場に倒れた。



 水蒸気が薄れ2人の姿が見えてきた。


 神威とノエルは距離を取り睨み合っていた。

 しかしノエルの殺気は周りの兵に向けられていた。



「僕に戦えと?お前達さえしっかりしてれば僕が出なくても済むんだよ?

 僕が今回の作戦に参加したのは神威に会うためだ。

 お前達なんてどうでもいいんだよ。

 勝手に雑魚兵同士殺しあえよ。」

 ノエルは倒れる兵に冷たく言い放ち神威を見た。

「待たせたね。さあ、続きだよ。

 あの方が君を警戒しているんだ。

 その力を僕に見せておくれよ。」



「あの方…アシエルか…。

 やはりアイツがお前の飼い主か。

 どうせアシエルの事だお前に力を与えてるんだろ?

 だったらお前も見せてみろよ。

 魔王アシエルから貰った力を!」

 俺はノエルを挑発した。


 ノエルは俯き周りの空気が冷気を纏う。

「…だと?…神威…貴様の様な人間如きがアシエル様を呼び捨てだと…?

 それに僕を…見下すなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ノエルの目が赤く光り、背中に氷の羽が生えた。


「ダークサイド!?

 アシエルはルシフェルと同じ力が操れるのか!?」

 俺の驚く姿を見てノエルはニヤリと笑う。


「さっきまでの余裕はどうしたんだい?

 これがアシエル様に頂いた闇の力だよ。

 そうだね…氷の魔神ノエルって所かな?」

 ノエルの魔力が膨れ上がり辺りに冷気が迸る。

 俺は冷気に押され、身を守る。


 ノエルの姿を見て兵がざわめきだす。

「うるさいな。

 僕がギルドに居たのは地上での情報を集めてアシエル様にお伝えする為だよ。

 お前達の様なゴミ共と馴れ合うのはもう終わりだ。

 今ここで僕が神威を殺せばもうアシエル様の邪魔になる奴はいない。」

 ノエルが羽を広げると無数の氷の刃が周りの兵達を貫く。

 兵達は逃げ惑い次々と倒れていく。


 俺は飛んでくる氷の刃を打ち払いながらノエルを見つめた。


「もうお前達ゴミに用はないよ。

 僕がこの戦場の全てを壊して終了だ。

 そうすれば目撃者も居なくなるし、神威も殺せるしで一石二鳥だしね。

 という訳で先ずはゴミ掃除からかな?」

 ノエルは上空に飛び上がると魔法を放った。

「"アイス ワールド"!」

 ノエルの羽から飛び散る氷粉が辺りの景色を白銀に染めていく。


 逃げ惑う両軍の兵も凍りつき動かなくなっていく。


「あはは!

 炎帝なんて呼ばれてても手も足も出ないじゃないか!!

 所詮、"裏神(うらがみ)"の居ない帝なんてこの程度なんだよ!」

 ノエルは上空から俺を見下して笑みを浮かべる。


 俺は身を守る様に庇った腕の間からノエルを見つめた。

(裏神?アシエルの事か…?

 帝と関係があるようだけど…やはり俺の予感は当たったのか?)


 次第に足元が凍りつき、動かなくなっていく。

「教えてくれ。

 裏神とはなんだ?帝には全て裏神がいるのか?」

 俺は俯きノエルに問い掛けた。


 ノエルは俺を見下して嘲笑う。

「哀れだよ。

 加護のない帝なんて哀れだよ。

 最後に教えてやるよ。

 来世ではちゃんと加護を受けれるといいな。

 裏神は4国に存在する魔王の事だ。

 各国の帝は魔王の加護を受ける。

 そして魔王は自分達が争えない代わりに、帝に戦わせる。

 そうして全ての帝を倒した者が全ての魔剣を手にし女神の加護を受けれる。

 女神の加護を受けた者は加護を与えてくれた魔王と共に魔王は神として帝は王として世界に君臨する。

 僕がアシエル様を神にするんだ。

 今まではレーヴァテインが存在しなかったから女神の加護なんて御伽噺だったけど、君が現れた事でレーヴァテインも現れた。」

 アルマスに魔力が集まり、剣身の装飾が金色に変わる。

「氷剣よ僕の敵を貫け!

 "アイシクル レクイエム"!!」

 アルマスから放たれた氷が砕けキラキラと散りながら俺に降り注ぐ。


 俺の周りに集まった氷の粒が胸元に集まり杭を形作る。

「さよならだよ神威。」

 ノエルが剣を振ると氷の杭が俺を貫く。


「がはっ…!」

 俺は口から血を吐きその場に項垂れる。




 ノエルは地上に降りレーヴァテインを回収しようと神威に歩み寄る。



 ノエルは神威の傍にたち、顔を覗き込む。

 しかし神威の表情をみてノエルは後ずさった。

「笑っている…だと?

 こんな状況でも自分の死を理解出来ないほどの馬鹿なのか!?」

 ノエルは青ざめた顔でアルマスを構えた。

「だったら何度でも串刺しにしてやるよ!

 "アイシクル レクイエム"!」

 何度も何度も杭を形作る氷が神威の体を貫く。




「ハアハアハア…!

 なんで…なんで笑っているんだ!?

 何故死なない!?なんなんだお前は!?」

 ノエルは息を切らし青ざめ後ずさる。



 氷の杭は溶けて蒸発した。

「お前の攻撃では俺には届かない。

 氷の魔神だっけ?

 ダークサイドに氷の魔力を足したのか…。

 なら…!」

 俺は自分の体にレーヴァテインを突き刺した。


 レーヴァテインの魔力が体に流れ込む。

「なるほどな。

 "魔王化"!」

 俺の体を炎が包む。


 紅い炎は青白く変わり、次第に黒い炎になっていく。

 羽は黒い炎が形作り、角は太く巨大に。

 尻尾は二つに分かれ燃え続ける。

「炎の魔王"神威"降臨って所かな?」

 俺はレーヴァテインを体から引き抜きノエルに突き付ける。

 レーヴァテインは黒い炎を纏い妖しく光る。


 俺の姿を見たノエルはその場に座り込む。

「魔王化…?馬鹿な…人間が魔王になるなんて…有り得ない…!

 あははははははっ!無理だ…!

 僕なんかじゃ…魔王には勝てない…。

 アシエル様…。」


「今の姿は他人を見下し続けたお前にはお似合いだよ。

 さあ…死んでくれ。

 "インフェルノ インジャスティス"」

 俺はノエルに剣を振り下ろした。




 ーーーーー



 ノエルを倒しアルマスを回収して本陣に戻ると、ノエルの氷が解除されたニアとクシャシー、そしてラクシス軍の仲間達が出迎えてくれた。

 レイヴン軍はノエルの敗北により戦意を失い降伏した。


 俺達はレイヴンとの戦闘に勝利し、首都ラクシスへ凱旋した。


 しかしシャイネスが苦戦しているとの報告が入り、俺はニアと共にシャイネスの元へ向かった。

(今はまだシャイネスを問い詰めるべきではないか…。

 様子を探り、タイミングを見てカマをかけてみるか。)



 ーーーーー



 ラクシス軍本陣ではシャイネスが攻めあぐねていた。

「戦線を維持するのだ!

 今少し持ち堪えてくれ!炎帝神威殿の援軍がくる!」

 シャイネスは兵達に激を飛ばす。


 しかし次第に前線は押され倭の国が攻めてくる。


「兵同士の戦闘は分が悪いか…。

 レイヴン軍との戦闘は神威殿が単騎で敵本陣に攻め込み氷帝ノエルを討ち取ったらしいが。

 流石は神威殿と言う所か…。

 私では氷帝との勝負に決着は付けれなかっただろう。

 現に嵐帝咲耶にも押されているしな…。」

 シャイネスは本陣の椅子に座り歯軋りをする。

「騎士団長という立場がなければ前線にでて単騎がけも出来るのだけれど…全軍指揮の立場上動けないのも歯がゆいな。」

 すると突如敵軍の中から悲鳴があがり本陣に傷だらけの兵が走ってきた。

「緊急事態です!」



 シャイネスに不安が過ぎる。

「なにごとだ!?」

 椅子から立ち上がり兵に駆け寄った。


 兵はシャイネスの前に跪き声を上げた。

「報告します!

 突如として魔狼山脈方面から正体不明の飛翔型ゴーレムが飛来し、我が軍と敵軍の双方に壊滅的なダメージを与え尚も残存の兵を蹂躙しています!!

 両軍共に前線崩壊し、現在は倭の国の嵐帝咲耶が対峙しているとの事。

 ですが単騎での戦力では飛翔型ゴーレムを押さえるだけに留まっている様子!

 黒帝シャイネス様に休戦の打診と共に共闘要請が届いています!」


 シャイネスは驚いた様子だが冷静に周りの兵達に指示を出す。

「私は嵐帝咲耶の救援に向かう!

 残りの兵達は負傷者を回収し手当を頼む!

 もし神威殿がきたら事情を説明し、指示を仰いでくれ!」

 シャイネスは黒の魔剣を腰に下げると、ゴーレムの居る場所へ向かった。



 ーーーーー



 俺が戦場に駆けつけると昔教科書でみた野戦病院の写真の様な光景が広がっていた。


「シャイネスはどこだ!?」

 俺が治療に当たっている兵に話し掛けると兵は縋るように頼んできた。

「団長を助けてくれ!!

 団長は俺達一般の兵を避難させた後、嵐帝と共に飛翔型ゴーレムの足止めをしている。

 団長は俺達を逃がす為に…!」

 俺はゴーレムの場所を聞くとニアには治療部隊にまわるよう指示を出してゴーレムの居る場所に向かった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る