【動き出す世界】

 シャイネスは片足を無くし横たわる兵を護るように立っていた。

「誰か動ける者が居たら負傷者の回収を頼む!」

 周りには傷つき倒れる兵が敵味方入り交じっていた。


「黒帝!今は兵を気にしている余裕などない!

 あのゴーレムを止めねば両国が蹂躙されるぞ!!」

 黒く長い髪を後ろで束ね手に持つ剣とは似合わぬ格好の嵐帝咲耶がゴーレムに斬り掛かる。


「嵐帝…人は国の宝だ!陛下の宝だ!私は陛下の剣!

 皇帝陛下の…国の宝を護るのが騎士団長の役目だ!!」

 ゴーレムの腕が薙ぎ払うようにシャイネス目掛けて振り回される。

 シャイネスは解放したストームブリンガーの腹で何とか受け止める。

「ぐっ…!」


 シャイネスが受け止めた腕に飛び乗り咲耶はゴーレムを駆け上がる。

「はぁぁぁぁ!!」

 咲耶がテンペストに魔力を込めると剣身を真空の刃が包む。


 しかしゴーレムの肩に刺さるだけで切り落とせはしなかった。

「硬すぎるじゃろ!」

 咲耶は動き出すゴーレムから飛び降りるとシャイネスの隣に着地した。

「黒帝!ヌシも攻撃に参加せぬか!」

 咲耶はゴーレムから飛んでくる岩を切り落としながらシャイネスに促す。

「この兵はまだ息がある!見捨てるなどできない!」

 シャイネスは大剣を構えた。


「ええい!堅物め!ヌシは昔からそうじゃ!

 初めて会った時も周りの兵ばかり庇ってまともに攻撃すらしてこなんだ!」

 咲耶はゴーレムの目から放たれたレーザーを避けるとゴーレムの足に斬り掛かる。


「すまないな嵐帝。

 これが私なんだ。

 陛下の剣であり民の盾だ!」

 シャイネスはレーザーの着弾の爆発から兵を護るように大剣の腹で防御する。



 咲耶がゴーレムに攻撃を仕掛け、シャイネスは倒れた兵を護る。


 しかしゴーレムは硬く咲耶の攻撃は致命打にはならなかった。

 じりじりと帝2人の体力は削られていく。



 ーーーーー



 ゴーレムの居る場所へ俺は走っていた。

(せっかく色々な手掛かりが掴めそうなのに…!

 ここでシャイネスが死んだら元も子も無いぞ!)

 倒れ息絶えた兵たちの亡骸を横目に俺は走っていた。


 すると前方で爆発が起こる。

「爆発?ゴーレムは火薬でも積んでるのか!?」

 砂煙が立ち込める場所にはゴーレムと対峙する2つの影が見えた。

「あれか!」



 俺は砂煙が晴れてきた場所にたどり着くとシャイネスに駆け寄る。

「シャイネス!無事か!?」


「神威殿!?来てくれたのだな!」

 シャイネスは傷だらけの鎧で剣を支えに立っていた。

 俺がゴーレムの方を向くとゴーレムの攻撃を紙一重でかわし、反撃を繰り返す咲耶がいた。

「あれが嵐帝咲耶か…。

 ところであのゴーレムはいったい…?」

 俺はシャイネスに回復の魔法を掛けながら辺りを見渡した。

(あのゴーレムは確か…魔導兵?

 クリスタルガードみたいにイベントで出てきた敵だな。

 魔導石を動力に雷の力で動く機械兵だったっけ。

 雷刀"千鳥"の獲得出来るイベントだったな…俺は2位で獲得出来なかったけど…。)


 シャイネスはよろめきながら立ち上がる。

「恐らくは機械国ギアの開発していた魔導兵だ。

 魔導石の魔力を動力にしていたが制御が出来ず完成したとは聞いてはいなかったが…。

 先日の競売で手に入れた魔剣ヴォルケーノの力で魔導石の核を閉じ込め流動する魔力で肢体を制御しているのだろう。

 神威殿…すまぬがこの兵も助けては貰えないか?」

 シャイネスは後ろの兵を見た。

 片足を失い気を失っているが息はあるようだ。

「助けるのは構わないが…シャイネス。

 助けてどうする?

 今この場で助けたとしても、この兵は足を引っ張るだけだぞ?

 さっきまでの君を見ればこの兵を護るだけで精一杯だったじゃないか。

 前にも言ったが、君の甘さは命取りになる。

 君が護りたいのは国か?人か?

 確かに国は人が居なければ成り立たない。

 たが、時には犠牲はつきものだ。

 全てを護る事などできない。

 今の君にはその実力も無い。」

(それにあの出血量では…。)

 俺の言葉にシャイネスは俯いてしまう。

「君の覚悟はその程度か?

 否定されれば折れてしまうのか?

 少なくとも俺だったら否定されようと自分の信じた道を行く!

 仲間を助けたいなら全力で!

 心と体が折れるまで仲間を護る!!」

 俺はレーヴァテインに魔力を注いだ。

 レーヴァテインを黒い炎が取り巻く。

「シャイネス!国も、人も助けたいのなら戦え!!

 それが盾であり剣である騎士団長の勤めだ!!」


 俺は兵に簡易の回復魔法を掛け、障壁をシャイネスと兵に掛けた。


 そのまま咲耶の元へ駆け寄った。


 シャイネスは障壁の中で呆然としていた。



 咲耶は俺に気づくとゴーレムの攻撃をかわしながら駆け寄ってきた。

「話は済んだか?

 オヌシが炎帝じゃな?

 わっちは咲耶、倭の国の嵐帝じゃ。

 ゴーレムを倒すのに手を貸してくれんか?」

 テンペストを構え風を起こしゴーレムに打ち込んだ。


「無論そのつもりで来た。

 シャイネスは一時離脱だ。

 代わりに俺がゴーレムを壊す!」

 俺はゴーレムの足に斬り掛かる。

「斬神剣-魔導-!」

 俺が剣を振り抜くとゴーレムの足が切断されゴーレムが傾く。


「なんと!あのゴーレムを斬りおった!」

 咲耶は驚きながらも追撃を繰り出した。


 俺も次々とゴーレムに攻撃を仕掛ける。


 次第にゴーレムの動きが鈍くなりだした。

「あと少しじゃ!」

 咲耶がゴーレムに飛び掛った時、ゴーレムは上空に飛び上がり外皮が剥がれ落ち砲門の様な物が剥き出しになる。


(まさか!?)

 ゴーレムの砲門に魔力が集まり地上に向けて魔力が発射された。


 俺は咄嗟に咲耶を庇う。



 ーーーーー



 シャイネスは障壁の中で佇んでいた。

(私は何をしているんだ…国を…陛下を護るのが私の役目なのに…。

 あのゴーレムを倒さなければ国に被害がでる。

 そうすれば民も死ぬ。

 分かってはいるのだ…だが目の前で倒れている兵を護れずに国が護れるのか?

 神威殿の言うように私は甘いのか…。

 兵を見捨て、ゴーレムを倒すことに専念するべきなのか…。)

 シャイネスは自分の手を見つめていた。


 すると倒れていた兵の目が開く。

「団…長…。

 あのゴーレムを倒して…ください。

 俺はどのみちもう長く…持ちません…。

 死んで逝った仲間…達の為にも…仲間達が護ろうとした…者の為にも…。

 団長ならきっと出来るはず…。

 どうか…ラクシス帝国を…団長の手で…。」

 兵は動かぬ体で涙を流しながらシャイネスにうったえる。


 シャイネスは今一度気を失った兵の手を取った。

「私は…護れなかった兵達の分まで戦わねばならないのか…。

 重いな…だが私はその覚悟を決めないといけないな…。

 ラクシス帝国騎士団長として…。

 黒帝シャイネスとして…!!」

 シャイネスは決意を固めストームブリンガーを手に取った。


 その時、空中に飛んだゴーレムが魔力の弾を放った。


 ーーーーー



 俺は咄嗟に咲耶を庇った。

「"インフェルノ シールド"!!」

 蒼白い炎の盾が俺と咲耶を護る。


「オヌシ…!」

 咲耶は俺の後ろで身を屈めている。

「俺の後ろにいろ!」

 着弾点から炎が上がり爆風が舞い上がる。


(俺だけなら無効化できるが嵐帝を護らないと後味が悪い!!)

 インフェルノ シールドに亀裂が入る。

「ちぃっ!?押されるか…!」

 次第にインフェルノ シールドの亀裂が大きくなる。


「あのゴーレム…アホみたいに魔力を注ぎおってからに!」

 咲耶もテンペストの魔力でシールドを張るが直ぐに消えてしまう。

「わっちの命運もここまでか…。

 倭の国の王として締まらない最後だったのじゃ…。」

 咲耶はその場に項垂れた。


(ん?倭の国の王?)

「嵐帝!お前は倭の国の王なのか!?

 なら尚更ここで死なせる訳にはいかないじゃないか!

 突然カミングアウトしやがって!!」

 俺はインフェルノ シールドに魔力を追加する。

 しかし亀裂は広がり今にも砕けそうだ。


(めんどうだな!!

 この魔力ごとゴーレムを吹き飛ばすか?)

 段々と耐えるのが焦れったくなってきた。



「嵐帝!神威殿!!」

 シャイネスの声が響く。


「はぁぁぁぁぁ!!

 "ダークネス ヴォイド"!!」

 爆風の彼方から闇が魔力を侵食し飲み込んでいく。



 ストームブリンガーから放たれた闇の剣閃がゴーレムの放った魔力を飲み込んだ。



「私は…もう迷いません!ラクシス帝国騎士団長シャイネス!

 帝国の敵となる者を斬る!

 はぁぁぁぁぁ!!」

 シャイネスがゴーレムに大剣を振ると闇の剣閃がゴーレムの砲門を斬り裂いた。


「黒帝…!ようやっと目覚めたのか!

 炎帝!今じゃ!

 ゴーレムを一気に叩くぞい!」

 咲耶は地面に叩きつけられるゴーレムに向かって走り出す。

 シャイネスも大剣を肩に担ぎ走り出した。


「やれやれ…。」

 俺は迷いの消えたシャイネスを見つめた。

「まだ少女だからな…迷うこともあるさ。

 道に迷っても自分の信じた道を歩めばいいさ。

 それがいずれ正解になるから。」

 俺はレーヴァテインを構えゴーレムに走り出した。




 3人が一斉に斬り掛かる。


 3人の剣閃が重なり、ゴーレムの核を斬り裂く。



 ゴーレムの体から魔力が吹き出し次第に崩れ始めた。



 崩れたゴーレムの破片から黒いモヤが滲み出る。

 3人は気がついていなかった。


「黒帝やっと本来の力を引き出せる様になったみたいじゃな。

 炎帝も底の見えぬ強さよ…。

 わっちを守りながらもまだ何かを隠しているようじゃ。

 よし!決めたのじゃ!

 倭の国はラクシス帝国へ和平協定を申し入れる!

 黒帝のみならず炎帝まで国力になるならば、わっち達の倭の国に勝ち目はない。

 ならば友好関係を築いた方が得策じゃ!」

 咲耶はケラケラと笑いながらシャイネスの肩を叩く。

「貴女は昔からそうやって大事な事を簡単に…。」

 シャイネスは肩を落としながら溜息をつく。


 俺は首を傾げる。

「俺は確かにラクシス帝国のギルドに席を置いては居るが、ラクシス帝国の所属じゃないぞ?

 あくまで仕事を貰うために席を置いているだけだ。

 それに名前が売れた今、ギルドのSSランクという肩書きも不要だよな…。」

 俺が腕を組み考えているとシャイネスは慌てたように俺の口を塞ぐ。


 それを見た咲耶はニヤリと笑い俺の傍に来た。

「どうじゃ?倭の国の剣客にならぬか?

 オヌシならば相応の地位を約束するぞい?

 それにわっちもオヌシを気に入った!

 どうじゃわっちの婿にならぬか?」

 咲耶は胸を俺の腕に押し当てる。

(なんだか独特な喋り方で掴みづらい感じだけど確かに美人だよなぁ…。)

 俺が唾を飲み込むとシャイネスが俺の足を踏む。


「咲耶殿!和平協定を結ぶなら一度国へ帰り、皇帝陛下への謁見をお願いします!!

 神威殿もニア殿や半蔵殿が待っているのでしょう!?

 戻りますよ!」

 俺は腕をシャイネスに捕まれ半ば強制的に軍を引き上げ、帰路に着いた。


 咲耶はホホホホと笑うと後日皇帝へお目通りを願うと言い軍を引き上げた。



 ーーーーー



 玉座に座る少女が神威達が映し出される水晶を見つめる。

「流石は小僧だな。

 サタナエルの使い魔を難無く撃退したか。

 今はベリアルと名乗っていたか…。

 それにしてもどういうつもりだベリアル…。

 自分の帝である咲耶を襲わせるなど、それに私のシャイネスまで巻き込んで…。

 奴の事だ何かしらの思惑があって動いていると思うが…。

 でも今回ギアの魔導兵を使った事で、ラクシス帝国と倭の国の共通の敵にされたギア…。

 そういう事か…ベリアルめ…あくどい事を考える。

 小僧…世界が動き出すぞ。

 気をつけろよ。」

 玉座に座る少女が水晶に手を伸ばしなでた。



 ーーーーー




 俺は今何故が玉座の間にいる。

 シャイネスやアーサーと並び、皇帝の護衛を任された。

(俺、国属じゃないんだけど!?

 なんでここにいるの!?)


 倭の国の女王咲耶がラクシス帝国の皇帝"ミカエラス=フォン=ラクシス"に和平協定を結びにやって来ていた。


 アーサーは玉座に座る事はあったが護衛をやった事はないからやってみたいとノリノリで名乗りを上げた。

(確かにアーサーはトリガーではこの姿の少女だけど、本来はブリタニアの英雄王アーサーなんだよな。)


 粛々と和平協定は結ばれ、倭の国とラクシス帝国の戦いは終わった。


 両国の中立な立場として何故が俺が使者にされた。

 咲耶とシャイネスの推薦だ。


 咲耶は倭の国の宝である嵐の魔剣テンペストを。

 皇帝ミカエラスはラクシス帝国の宝である闇の魔剣ストームブリンガーを俺に預けた。

 国の最強兵器になり得る魔剣を中立な者に預け、互いに和平の契りとするらしい。


 有事の際には俺が咲耶とシャイネスに渡す。

 それ以外の時は俺が保管する。


 何故俺が?

 と疑問をぶつけたが、皇帝ミカエラスも女王咲耶も現在の大陸中で俺から剣を奪える者は居ないから、国で保管するよりも一番安全だと言いきった。


(国の管理より安全な個人てなんだよ!?)


 氷の魔剣アルマスも俺の手元にあるのが決め手らしい。


 現在、2本の魔剣を所持するのは俺だけらしい。

(でも、後はギアの雷の魔剣も手に入れちゃえば俺が女神の加護を受けられるのでは?)

 と不遜な考えも頭をよぎる。



 暫くは、ラクシス帝国と倭の国の和平の使者として両国を行ったりきたりになるだろう。


(まだ不確定な物事が沢山ある。

 気になる事も沢山ある。

 だけど、今は進むしかない。

 クリスさんの言ったアヴァロン…。

 俺に何を求めるのか…。)

「さて…これからどうなるのかな…。」



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