【炎帝と黒帝】


 俺は訓練所に籠り剣を振っていた。

 最近、思考にモヤがかかったように頭が重くなる時がある。


 あの夢を見てから特にだ。


 明日には氷帝との対峙があるのに…。

 不安に駆られる…。

 もしも万が一の事があったら?

 姫達はどうなる?


 俺は不安を払う様に剣を振り下ろす。



 頭に声が響く。


『神威様!お忙しいところごめんなさい!

 宿屋に騎士団長の遣いと言う方がきて神威様に伝言をと。』

 アーサーの声が響く。


「シャイネスからの伝言?」

 俺は剣を収め汗を拭った。


『はい。なんでも急ぎ伝えたい事があるから、騎士団宿舎まで来て欲しいと…。』


「分かった。今から宿舎に向かうと伝えておいてくれ。」


『分かりました!』

 アーサーとの直通が終わり俺はシャワーを浴びて騎士団宿舎へ向かった。



 *****



 俺は宿舎の団長室の前にいた。

 部屋のドアをノックするとシャイネスの声が聞こえた。


 俺は部屋に入るとソファーに通された。


「わざわざ呼び出してすまない。

 明日の作戦の事で少し話しておきたかったのだ。」

 シャイネスも俺の対面のソファーに座る。


 俺が面は取らないのかと聞くと

「やはり面が無いと人とは話せないさ。」

 と笑っていた。



「明日は私が倭の国との戦線を預かる。

 神威殿率いるギルドはレイヴンとの戦線をおまかせする。

 神威殿が相手にする氷帝だが…。

 私も何度か剣を交えた事があるのだが、少々変わった所があるが剣の腕は確かだ。

 お互いに魔剣の解放はしていないが、決着は今のところついてはいない。」

 シャイネスは俺を真っ直ぐ見つめた。

「神威殿なら万に一つも負ける事は無いと思うが、得体の知れない力を持つ人だ気をつけて欲しい。

 氷帝…名は"ノエル"。

 魔剣アルマスの使い手だ。

 魔剣アルマスは持ち主を冷気で護り、切り付けた対象を内部から凍らせ動きを奪う。

 神威殿のレーヴァテインとは反対の属性の魔剣だ。」


(やはりアルマスか…この世界にある女神の5振りはトリガーの世界の属性最強武器と同じなのか?

 だか…そうなると数がおかしいな…。

 闇の魔剣"ストームブリンガー"。

 氷の魔剣"アルマス"。

 炎の魔剣"レーヴァテイン"。

 雷の魔剣"千鳥"

 そして、トリガーなら光の魔剣"エクスカリバー"だ。

 嵐の魔剣と呼ばれる剣は存在しなかった…。

 雷の魔剣なら所有者は元フレンドだったけど。

 この世界ではエクスカリバーは存在しないのか?)


 俺が考え込んでいる様子を見てシャイネスは口を開いた。

「魔剣の話しを聞いても驚かないのだな。

 まるで知っているかの様な…。

 神威殿は本当に不思議な方だな。」


 俺は背もたれによさりかかる。

「少し魔剣に関しては情報を持っているだけだ。

 ただ嵐の魔剣の情報は皆無だ。

 それと光の魔剣…聞いた事はないか?」

 俺がシャイネスに尋ねるとシャイネスは考え込んだ。


「嵐の魔剣は倭の国の嵐帝"咲耶(さくや)"が持つとされる、魔剣"テンペスト"。

 風や雨を操り嵐を起こすとされているし、雷帝の"雷切丸"と嵐帝の"テンペスト"は元は1つの剣だったとも言われている。

 光の魔剣…聞いた事は無いな。

 ただ神話には光の女神が最後に使った剣が光を放ち消滅したと書かれた話もあるので、もしかしたらそれが光の魔剣かも知れないな…。」

 シャイネスは顎に手を当て考えながら話した。


「そうか…。」

(雷切丸?千鳥じゃないのか…。

 仮に女神が使った剣がエクスカリバーだとすると、解放して力を使い切り消滅したからこの世界には存在しない可能性もあるのか…。)



 シャイネスは何かソワソワしている。

「どうした?明日の事が不安なのか?」

 俺は首を傾げる。


「正直に言うと不安だ。

 私の力が他の帝達に通用するのか…。

 モルドラと競売所で会ってから不安で仕方ないのだ…。

 私は成長しているのかと…。

 確かにストームブリンガーの力を解放すれば力を得られる。

 だがそれは剣の力だ。

 私自身が強くならなければ意味が無いのだ。」

 シャイネスは指を組み合わせ俯いた。


「明日に影響が出ない程度なら付き合うぞ?

 互いに少しは体を動かせば楽になる部分もあるだろう。」

 俺はソファーから立ち上がるとシャイネスの腕を掴み訓練所に連れて行った。


「神威殿は強引なんだな…。」

 シャイネスは少し驚いた様子だが素直に着いたてきた。



 訓練所に着くと俺とシャイネスは魔剣を構えた。

「本当にこの剣で撃ち合うのか?

 訓練用の武器でも…。」

 シャイネスはストームブリンガーを使うのを躊躇った。


「明日は実戦だ。

 いざと言う時に魔剣の力を解放出来なかったらどうする?

 それに俺なら心配は要らない。

 シャイネスにも怪我はさせないから。

 俺の実力は絶武人が認めてくれたんだろ?」

 俺はイタズラっぽく笑いかける。


 シャイネスは溜息をつくと苦笑した。

「本当に強引だな。

 だけど…ありがとう神威殿。

 黒帝シャイネス!いざ参る!」

 シャイネスから威圧感が溢れる。


(これが絶武人と言われる黒帝シャイネスの本気か…。

 おもしろい…。)

「炎帝神威参る!」

 2人の覇気がぶつかり合う。


「「勝負!!」」


 シャイネスは合図と同時にフルプレートの鎧を纏っているとは思えないスピードで斬りかかってきた。


 俺は剣身で受け流すとそのまま斬り掛かる。

 しかしシャイネスは俺の剣を握る手を蹴り間合いを取った。


「やるなぁ。」

(やばい少し楽しくなってきた…。)

「次は俺の番だ!」

 俺はシャイネスに向かって突きを放つ。


 シャイネスは体を傾け俺の側面に回り込む。


 俺はそのまま横薙ぎの斬撃で追撃する。


 しかしシャイネスは剣身で受け止める。

 俺は腰の鞘を握りしめシャイネスに振り下ろす。


 シャイネスの仮面を掠めるが、空を切る。

 俺は剣を構えた。


「我流剣術…か…。

 型にハマった戦い方より実戦向きの戦い方だ。

 勉強になる…。」


 俺とシャイネスは暫く撃ち合った。


 どちらも決定打は入らず決着はつかずにいた。



 シャイネスは飲み込みが早く、俺の動きをどんどん吸収していった。


「天賦の才か…。」

 俺は剣を構えた。


「やはり底が見えない…。

 まだまだ余力を残しているようだ。」

 シャイネスも剣を構える。


 シャイネスはストームブリンガーを地面に突き刺した。

「解放!」

 ストームブリンガーが大地から闇の魔力を吸い上げる。


 禍々しい光を放ち黒い剣身に金色の装飾が散りばめられた大剣にかわる。



「それがストームブリンガーの本来の姿か…。

 トリガーでは手に入れられなかったんだよな。

 なら俺も少し本気を出そう。

 解放!!」

 レーヴァテインが紅く光り、銀色の装飾が浮かび上がり、剣身を蒼白い炎が取り巻く。



 シャイネスはストームブリンガーを軽々と担ぐと斬りかかってきた。

「"ダークネス ワルツ"!」

 流れるような動きで大剣を軽々と振り回し連撃を繰り出す。


 俺は幻影歩行を使い連撃をかわしていく。

「"ブレイズ ザ サークル"!」

 俺が剣を振ると炎の輪が広がりシャイネスに襲いかかる。


 シャイネスは剣先を地面に突き刺す。

「"闇の盾"」

 シャイネスの周りを闇の魔力が取り囲み炎を遮る。

 俺はそのまま踏み込んだ。

「"ヴァーミリオン フレイム"!」

 俺が剣を振り下ろすとシャイネスを取り囲む闇の魔力を炎が切断する。


 闇の切れ間からシャイネスが突きを放つ。

 俺は首を傾け交わすと下から斬りあげた。


 シャイネスは半身になり斬りあげをかわすと距離をとった。



「そろそろ終わりにしておこうか…。

 明日が本番だからな。」

 俺はシャイネスの動きに合わせる。


「"幻神剣(げんしんけん)"」

 シャイネスが後ろに飛び俺が剣を仕舞うとシャイネスの仮面が2つに割れた。


「なっ…!?」

 シャイネスは驚いて目を見開く。

「見えなかった…。

 これが神威殿の実力…しかもまだ底を見せていない…。

 やはり神威殿こそが炎帝として相応しい。」

 シャイネスは呆然としていたが、ふと我に返り顔を赤らめ伏せた。


「か…神威殿…。」

 シャイネスはその場に顔を隠しながら座り込む。


 俺はイタズラっぽく笑いかける。

「これで勝負はお預けだな。」


「か…神威殿…これはズルくないか?」

 シャイネスは恥ずかしそうに顔を隠したままだ。


 俺はシャイネスに歩み寄り手を取った。

「まぁ引き分けだからよしとしてくれ。」

 顔を隠すシャイネスの手を掴み団長室まで連れて行った。


 部屋に入るなりシャイネスはスペアの仮面をすぐさま被り一息ついた。




「やはり神威殿は強いな、私では歯が立たない。」

 俺とシャイネスはソファーに座り話していた。



「そんな事はないさ。

 ほんの少しだけ、俺の方が強かっただけだ。」

 俺の言葉にシャイネスは苦笑いを浮かべていた。


「神威殿は神話に登場する"縁帝(えんてい)"の生まれ変わりかもしれないな。

 炎帝は今まで存在しなかった炎の魔剣を所持する者を指す。

 しかし、炎帝は本来縁帝と呼び光と闇の縁を結ぶ者なのだ。

 光の女神と闇の女神を繋いだ人間。

 それが縁帝だ。」

 シャイネスは窓の外を眺めた。


「もうこんな時間か!

 すまなかったな神威殿。

 明日は氷帝との戦いがあるのに…。」

 シャイネスは申し訳なさそうに俯く。


 俺は大丈夫と言って立ち上がる。

「まぁそれでもそろそろ明日に備えて英気を養うよ。」


 俺はシャイネスに別れを告げて宿へ戻る事にした。




 宿に戻る途中で占い師らしき人物に声を掛けられた。

「もし、そこの剣士さん。

 貴方には何やら不穏な空気が見える。

 宜しければ占って差し上げますよ?」

 頭から深めのローブを被り、顔は見えないが明らかに胡散臭い。


「悪いが占いとかは信じないんだ。」

 俺はそのまま通り過ぎた。

(学生の頃、周りは朝の占いの話で盛り上がってたっけな…。)


「相変わらずだね神威くん。

 じゃぁお節介で一つだけ。

 死神が君の大切な人に迫っている。

 失いたくないならしっかり護ってあげてね…。」

 占い師の言葉に俺はハッとして振り向いたが占い師の姿は消えていた。


「今の声…何処かで…?

 死神…?」

 俺は占い師がいた場所を見つめた。



 *****



 宿に戻るとアーサーが飛び付いてきた。

(たまらん!!)

「じゃなくて…どうしたアーサー?」

 俺は冷静を装いアーサーに話しかけた。


「半蔵が…半蔵が…!!」

 俺の心臓が跳ねる。

 さっきの占い師の言葉が頭に浮かぶ。


「まさか…!」

 俺は姫達の部屋へ走った。

 ドアを開け部屋に入る。


「半蔵!?」

 すると…。



「あ!隊長どのぉー!今までどこにいらんれすかぁ?」

 目がすわっている半蔵がフラフラと近ずいてきた。


「半蔵?これはいったい…。」

 アーサーの方を向くとアーサーが説明してくれた。


 今日は3人で簡単な依頼をこなしていたらしいのだが、報酬にオマケでチョコを貰ったらしい。


 部屋に戻り3人で報酬のチョコを食べていたら、フォカロルは寝てしまって半蔵はあの様子。


 アーサーも頭が回らなくなってきたらしい。


「チョコ?…まさか…毒か!?」

 俺はチョコの袋を確認した。


 ほんのりアルコールの匂いがする。


「………酔ったのか…。」

 フォカロルは床で寝てしまっている。

 半蔵も床に倒れ込み「世界は回っている」とか言っている。


 アーサーは俺に抱きついて離れない。

(何この状況!?)


 俺はアーサーに抱きつかれたまま、フォカロルと半蔵をベッドに運び寝かした。



 アーサーも寝かそうとベッドまで運ぶと、アーサーが手を首に巻き付けてきた。

(え!?…ちょっ!?ちかっ!!)

 アーサーの顔がすぐ近くにある。

 アルコールのせいなのか少し赤みを帯びた頬がアーサーを一段と可愛く見せた。


(うわっ…!やばいやばいやばい!!めちゃくちゃ可愛い!)

「アーサー?」

 アーサーは俺を引き寄せ俺の頭を抱えた。


「神威様…今だけ…今だけはこのままで…。

 貴方の体温を…感じさせて下さい…。」

 アーサーの心臓の音が聞こえる。


 むしろ自分の心臓の音がうるさいくらい跳ねている。


 次第にアーサーの腕の力が抜けていく。



 俺はアーサーの腕から抜けるとアーサーに布団をかけて部屋に戻った。


「っ…!」

 自分の顔が熱い。

 胸が高鳴る。


 俺は頭を冷やすためシャワーを浴びてベッドに横になった。


「あれは反則だろ…俺、寝れるかな?」

 枕に顔をうずめ俺は悶えた。



 *****



 次の日、俺は戦地へ向かった。

 案の定寝不足だ。


 ギルド本部まで馬車が迎えに来た。


 戦地はバーンの谷の先にあるブリタ平原。

 俺は着くまでの間、眠りについた。




 俺が到着すると既に他のギルドメンバーは揃っていた。



 馬車から降りるとクシャシーとニアが駆け寄ってきた。

「神威殿大丈夫ですか?なんだか眠そうですが…。」

 クシャシーが心配そうに顔を覗き込む。


「大丈夫ですよ。

 支障はないので。」

 俺は欠伸を噛み殺し辺りを見渡した。


 帝国の兵やギルドのメンバーが各々に準備を進めていた。


「ご主人様は我々と敵の本陣に突撃します。

 一般の兵はギルドメンバーや騎士団に任せ、我々は本陣にいる氷帝を叩きます。」

 ニアが指さす先にレイヴンの旗と、ギルドの紋章が見えた。



「いよいよか…。」

 俺は敵陣を見つめた。


 暫くすると銅鑼がなり開戦の合図が響き渡った。






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