【登場!ギルドマスター】

 俺達はギルド本部の会議室にいた。

 会議室の円卓を囲むように数人座っている。


 見知った顔もあれば知らない顔もあった。


 クシャシーやニアも招集されたようだ。



 俺の後ろにはアーサーが立っている。

 半蔵とフォカロルにはシャイネスに頼まれた騎士団の強化指導に向かって貰っている。


 アーサーは円卓を見つめ何やら考え込んでいるようだ。

「どうしたアーサー?」

 俺は振り向きアーサーに問いかけた。


「いえ…大した事ではないのですが、円卓を見ていたら昔を思い出して…。

 ベディヴィアとトリスタン、ランスロットは私達の隊に在籍しているのですが他の騎士達は何をしているのだろうと…。」

 アーサーは遠い目をしている。


「他の円卓の騎士達か。

 なかなか召喚に実装されずやきもきしていたよ。

 ガラハッドとモルドレッドは実装されていたが隊には召喚出来なかったんだったな。

 すまないな。

 力が及ばずに。」

 俺の言葉を遮るようにアーサーは俺を見た。

「神威様が謝る様な事ではありません!

 ただ…。」

 アーサーの声に円卓を囲む傭兵や冒険者達がこちらを向いた。

「あ…!」

 アーサーは見られている事に気づき慌てて口を手で塞いだ。


 俺達の存在に気付いた会議室がざわめき出す。

「あれが炎帝か…。」

「実力はシャイネス騎士団長のお墨付きらしいが…。」

「感知魔法で見る限り確かに魔力量や能力量は高いが…。」

「だが実際に炎の魔剣を所持しているらしい。」

「実力が無ければ、あの騎士団長が認める訳はない。」

「思っていたよりは若いんだな…。」

「だが所詮は噂。」

「すぐに化けの皮が剥がれるさ。」


 皆が俺に聞こえてないと思っているのか口々に噂話を始めた。

(聞こえてるっつーの。

 居心地悪いな…。)


 俺は腕を組み背もたれによさりかかる。


 隣に座るニアから歯軋りが聞こえてきそうな程の苛立ちが見て取れた。


 クシャシーも何か言いた気に周りを睨む。


 噂話をしていた男達は自分達に向けられている殺気に気づき黙り込んだ。


(番犬かコイツら…。

 ニアは分かるけどクシャシーまで。

 確かクシャシーはSランクでも上位の実力者だったな。

 周りにも一目置かれてるんだよな。)

 俺はクシャシーを見つめた。


 するとクシャシーは俺に見られているのに気づき顔を伏せた。

 その様子を見ていたニアが更に不機嫌オーラを振りまく。



 すると会議室のドアが開き、2人組の男達が入ってきた。

 1人は見覚えのある顔だ。

(確か…Aランクの統括責任者だったか…。

 名前は…そうだ、クルトンか。)


 もう1人は見覚えのない若い男だ。


(クルトンがやけにヘコヘコしているな。

 重役を案内する中間管理職って感じだな。)

 俺は2人を眺めていた。

 クルトンは俺に気づき頭を下げる。


 クルトンと男は円卓の上座に行くと、男が座りクルトンは後ろに立った。



 クルトンが手を叩き室内を見渡した。

「本日はお忙しい中お集まり頂きありがとうございます。

 Sランクの皆様にお話が御座いまして本日は御集まり頂きました。

 ではギルドマスター様よりお話があります。」

 クルトンが男に目配せをすると男は頷き話し出した。

「日々皆の協力のおかげで街の治安やモンスターの被害も減ってきている。

 感謝するよ。

 初めましての人もそうでない人も僕がギルドマスターの"グラリエス"だ。

 まずは、我がギルドにも帝が誕生した。

 伝説とされた炎の魔剣レーヴァテインを所持し、黒帝シャイネス殿に自分を遥かに超える実力者だと言わしめた炎帝"神威"殿だ。

 今回の話は神威殿を中心に頼みたい事があり集まって貰った。」

 グラリエスは円卓につくSランク達を見渡す。


 会議室内がざわつく。

「まだ中には神威殿の実力を目の当たりにしていない者もいて納得できない事もあるだろうが、僕が今までの功績や実力者からの評価。

 炎の魔剣の所持、全てを踏まえた上でSSランクに神威殿を据えた。

 これから神威にはギルドの枠を超えた苦労をかける事になるが、皆にはサポートして貰いたい。」



(本人の意思はお構い無しか…。)

 俺は背もたれによさりかかりながら話しを聞いていた。


 グラリエスは俺を見て笑いかける。

「神威殿には苦労をかけるが、ギルドという組織に所属し対価を得ている以上、拒否権はないよ。

 それが組織だ。

 周りに妬まれようと、自身が反感を覚えようと組織に所属している限り神威殿はSSランクの傭兵部隊の隊長として動いてもらう。

 それが嫌ならギルドを去って頂いても構わないよ。

 ただ、その後はギルドのサポートは一切適応されないがね。」

 グラリエスは手を口元で組み合わせている。


(会社や組織なんてどこの世界も同じか…。

 確かに首を切られると生活がある以上、従うしかないが…。

 だが俺にはこの世界なら組織のサポートなしでも生きていける情報も名声も既に得ている。

 グラリエスは脅しのつもりだろうが、脅しをかけるタイミングが遅いな。

 俺が世界に認知されるまえに行うべきだった。

 繋がりを持つ前にするべきだった。

 だがまぁ…目くじら立てて反発するような事もない。

 今はまだ利用価値もあるさ。

 グラリエスか…ただのガキだな。

 これがギルドマスターか…トリガーの世界でも1度だけギルドに所属した事もあるけど、あの時のマスターはすごい人だったな。

 頭の回転が早くて、一つ一つの行動に意味を持ってた。

 ギルドメンバーも少数精鋭で所属するメンバーはほとんどがイベントランカー。

 だけれど何も通達もなくギルドは解散されマスターは引退。

 その後、マスターは死んだだのと噂が飛び交ってたっけ。

 実際の所は分からないままだったけど。)

 俺はグラリエスを見据えた。

「俺は構いませんよ。

 流れ者の俺達、インビジブルを認めてくれた恩もある。

 多少苦労した所で俺には優秀な仲間も居ますから。

 御期待に添える様に頑張ってはみますよ。」


 グラリエスは俺の言葉に頷くと周りを見渡した。

「さて本題に入ろうか。

 今回集まって貰ったのは帝国からの依頼だ。

 近年、国々の小競り合いが激化している。

 このままでは大きな戦争になるのも時間の問題だろう。

 しかも他国は帝を戦地へ送り込み始めた。

 本格的な戦闘が始まっている。

 帝が戦線へでると言うことはその戦線は負けが決まったような物。

 それほどまでに帝という存在は名実共に大きい存在なのだ。

 今までは騎士団長シャイネス殿が戦線を駆け回り帝の相手をしてくれていたが、倭の国と魔法国家レイヴンが手を組み我がラクシス帝国に進行してきている。

 幸いラクシス帝国には黒帝シャイネス殿と炎帝神威殿の2人の帝が存在する。

 だから、手分けして帝の相手をする事になった。

 帝国騎士団には倭の国の"嵐帝"側を相手して貰い、我々ギルドはレイヴンの"氷帝"側を相手する事になる。

 我々はギルドの最高戦力である炎帝神威殿を中心にSランクの実力者でチームを作りレイヴンの戦線を押し返す。

 帝国騎士団の兵が配置されてはいるが、Sランクの君達からすれば期待はできないだろう。

 レイヴンの戦力も氷帝を初め、レイヴンのギルドから派遣されたチームが主力のようだ…。」

 グラリエスの説明が進んでいく。


(ギルド対抗戦みたいな物かな?

 ギルドの選抜メンバー同士で争ったイベントだったな。

 元々、集団戦闘より個人戦を得意とするメンバーばかりだったっけ…。

 あの時はマスターが指示をくれたから優勝できたような物だけど。

 まぁいざとなれば裏からルシファー達にも動いて貰えば負けることは無いだろう。)


 俺が色々考えている内にグラリエスの説明が終わったようだ。

「…と言うわけで開戦は1週間後、各々準備を怠らぬように。

 神威殿。

 頼みましたよ。」

 円卓に座る全ての視線が集まる。


(うわぁ…この感じなんか嫌。)

「分かりました。

 俺が必ず氷帝は抑えてみせます。

 Sランクの皆様宜しくお願いします。」

 中にはまだ不服そうな顔も見えるがニアとクシャシーは力強く頷いた。


(さて…どうなる事やら…。)


 ギルド会議は解散され各々が部屋を出て行った。



 俺とアーサーも宿に戻る事にした。

 ニアは俺に着いてこようとしたが、クシャシーとチームを組み依頼に当たる予定があるようでクシャシーに引き剥がされていた。



 *****



 俺は宿に戻りベッドに横になっていた。

(氷帝か…シャイネスと同程度の強さなら問題は無いだろうが…。

 問題は属性相性だよな。

 まぁレーヴァテインの解放出力を上げれば、氷属性は溶かせるからトリガーの世界と同じ能力なら、解放すれば5属性は相殺できるから剣の能力は対等か。

 後は個人の能力だけか…。)

「なんか色々考えるのが面倒臭いな…。

 作戦とかは姫達に丸投げの方が効率がいい気がしてきた。

 俺は戦闘専門とか?でも姫達は俺を召喚主として慕ってくれてるから期待は裏切れないよな…。」

 俺ははぁと溜息をつきながら目を閉じた。

(最近眠くてしょうがないな…。

 なんか体に変化があるのかな?

 ただの疲れならいいけど…。)

 俺はそのまま眠りについてしまった。



 *****



(なんだか懐かしい…。

 ここは?)

 俺は風が吹き抜ける草原にいた。

 起き上がり辺りを見渡すと強大な泉の畔。


 遠くから呼ばれている気がした。

 俺は声の主を探すが見つからない。


 また違う声がした。

 2つの声は言い合っているようにも聞こえるが、なんだか微笑ましく感じる。


「仲良いよな…アイツら…。」

 俺は笑いを堪えている。

(アイツら?俺は知っている?声の主達を。)


 遠くに2人の影が見えた。

 逆光で顔は見えない。


 2人は俺に手を振っている。

 俺は2人に手を振り返す。


 俺は再び大の字に寝転がり目を閉じた。

「この時間が続けばいいのにな…。」

(…あの2人は…?これは俺の記憶なのか?)


 2人の足音が近ずいてくる。

「いつまで寝てるのです?はやく行きましょう。」

 俺はその声に聞き覚えがあった。

「そうですよ。

 バアル達も待ってます。」

 もう1人の声にも。


「そうだな…。

 皆を待たしているのは分かってるんだけど…。

 風が気持ちよくてさ。

 お前達もどうだ?気持ちいいぞ。」

 俺は寝転がったまま動かない。


「駄目です。

 貴方はいつもそうです。

 まったく…本当に自由なんですから…。」

 俺はすまないなと笑うと起き上がり泉を見つめた。

「またここに来ような…。

 3人で…。」



 *****



 俺は息苦しさで目が覚めた。


 俺の首に何か乗っている。

 俺は首元の何かをどかそうと手を伸ばした。


「これ!いきなり尻尾を掴むな!」

 バアルだ。


「バアル…何してるんだよ。」

 俺はバアルを抱えると起き上がり座った。


「なぁに少し近くまで来たものだからな、遊びにきただけだ。」

 バアルは撫でろと言わんばかりに頭を擦り寄せて来る。


 俺がバアルの頭を撫でるとバアルは喉を鳴らした。

「夢を見ていたよ…。

 何だか懐かしい様な夢だ…。

 見覚えのないはずなのに何だか懐かしい様な…夢だ。」


 バアルは黙って聞いていた。


「不思議と居心地が良かった。

 2人の声と頬を撫でる風が心地よくて…。」


 バアルは俺の顔を見上げた。

「小僧…。」


 俺は気がつくとバアルを抱きしめていた。

「あれ…?何で俺…泣いてんだ?」

 頬を涙が伝う。


(急激な力の解放に記憶の蓋が開き始めているのか?

 まだ思い出させるには早すぎる。)

 バアルは俺の顔を舐める。


「夢に感情を揺さぶられるとは小僧は感受性豊かだな。

 だが夢は夢だ。

 小僧の生きる世界は今はここだ。

 アーサーやルシフェル様を不安にさせることは言うなよ?」

 バアルが顔を擦り寄せてくる。


「ああ…。」


「さて!私はそろそろ行くが、小僧。

 ヌシが氷帝と対峙する時は見学させて貰うとするからな。

 気を付けろよ…ヌシが負ける事は有り得ないが、奴はアシエルの息がかかっている。

 何を企んでいるか解らぬ。」

 バアルはベッドから飛び降りると窓から出て行った。


「魔王アシエル…それに氷帝…。」

 俺はバアルの出て行った窓を見つめた。



(さっきの夢はいったい…。

 朧気でハッキリは思い出せないな…。

 ただ…忘れてはいけない。

 そんな気がする…。)

 俺は再びベッドに横になった。


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