【炎帝】


 シャイネスが叫ぶ。

 モルドラが笑う。


 ニアは死を覚悟して目を閉じていた。

 周りが静寂に包まれる。



 しかし痛みはない。

(死とは刹那のモノなのか…?案外呆気ないモノだな…。)



 周りがなんだか騒がしい。

 ニアはゆっくりと目を開けた。


 するとニアの後ろの壁から蒼白い炎を纏った剣が突き出し、モルドラの肩を貫いていた。


「なんだこりゃ?」

 モルドラも壁から突き出た剣に驚いていた。

「おいおいおい…!この炎の剣は!?

 女神の5振りの内の一振り…炎の魔剣レーヴァテインじゃねぇか!?

 この世界には既に存在しないって言われてたのに!?」

 モルドラが剣身を掴もうとするが引き抜かれ壁の中に引っ込んだ。


「この剣は…ご主人様の……まさか!!」

 ニアは何かを察知して呆けるシャイネスを抱えて飛び退く。




 すると壁を突き破り炎を纏った突きを放つ神威がモルドラに飛び掛った。


 モルドラは避けきれず、同じ傷口に再度剣身が刺さる。


「痛えじゃねぇか!!てめぇはナニモンだ!?」

 モルドラは後ろに飛び退き神威を睨んだ。




「俺は神威、別に覚えなくていい。

 あんたとはもう会うことはない。」

 俺は剣を構え斬り掛かる。

「レーヴァテイン解放!」

 レーヴァテインに魔力を送ると、紅い剣身に銀色の装飾が浮かび上がる。


 剣身を包む様に蒼白い炎を纏った。



 モルドラの体が揺らめく。

 しかし俺の攻撃が先に届く。


「ちぃっ!!」

 モルドラも剣身で受け止めようとするが、レーヴァテインがモルドラの剣を溶かし剣ごとモルドラの左手を斬り飛ばす。



「てめぇ…!」

 モルドラは俺から距離をとった。


 するとモルドラは大声で笑いだした。

「やるじゃねぇか!初めてだぜ。

 人間相手にこんなに楽しいのは!」

 モルドラの額に魔導石が浮かび上がると、肩の傷が塞がり腕が再生する。

「神威って言ったな?

 お前が最近帝国のギルドで噂になってる傭兵だな?

 なるほど…確かに噂になるのを納得する強さだぜ!

 だが惜しいな、お前はただの人間だ。

 魔導石を取り込み人間を超越した俺には勝てねぇぜ!!」

 モルドラは口から瘴気を吹き出す。


 俺は口元を歪ませ笑う。

「人間を辞めたのか…。

 まぁ俺も似た様なモノだな。」

 ボソリと呟き半蔵を呼ぶ。


「ニアとシャイネスを連れて避難してくれ。

 巻き込んでしまいそうだ。」

 俺は俯き前髪で顔が隠れる。

 しかし口元は笑っていた。


 半蔵は2人を抱え部屋から脱出した。




「さて邪魔もいなくなったし本音で話そうか。

 大体は半蔵から聞いて知っている。

 あんたが前任の騎士団長モルドラか…確かに騎士団長ってツラだな…だがツラだけだ。

 中身はクズだよ。

 シャイネスはあんたを慕っていた。

 あんたが居なくなって、どんな思いをしていたか分かるか?」

 剣を握る手に力が入る。


 モルドラはおどけてみせる。

「俺はあいつに愛着も未練もねぇぜ?

 ただあいつなら俺を楽しませる事が出来るんじゃねぇかなと期待してたんだがな。

 期待外れだったぜ。

 もうあいつには用はねぇ。

 今俺が興味あんのはお前だよ神威!」

 モルドラは溶けて折れた剣を投げ捨て腰に下げてある剣を引き抜く。


「この剣は黒の魔剣には劣るがそれなりの魔剣だ。

 黒の魔剣とお前のレーヴァテインは俺がいただく!

俺が"炎帝"になるんだ!!」

 モルドラは剣先を突き出し独特な構えをとる。


「力のみを求めて人間を辞めたのか…。

救いようがないな。

…フェンシングの様な構えだな。

 突きが主体の攻撃か…。」

 剣を構え睨み合う。



 モルドラの剣先が揺れる。

 すると鋭い突きが眼前に迫る。


 俺は首を傾けかわすと、剣を振り上げる。

 しかしモルドラには当たらず空を切る。

 返しの剣で斬り掛かるがまた空を切る。


「当たらねぇよ!」

 モルドラの声が後ろから聞こえる。


 俺は振り向きざまに剣を振るが、先にモルドラの剣が脇腹にささる。


「ははっ!痛いか?ん?」

 モルドラは口元を歪ませながら笑う。


 俺は黙ったままモルドラに剣を振る。



「無反応かよ、つまらねぇ。」

 しかしモルドラには当たらない。

 姿を斬っても剣は空を切りモルドラの剣だけが届く。

 次第に俺の体には傷が増えていく。


 モルドラの剣が頭上から振り下ろされる。

「終わりだよ神威!やっぱお前も大して楽しめなかったぜ!

お前を殺したらあいつらを追いかけて皆殺しだ!」




 しかしモルドラの剣が空を切り地面に突き刺さる。



「"幻影歩行"だっけか?

 確かトリガーでもあった回避スキルだ。

 姿を歪ませ自分への認知を分散させて死角に入り込むスキルだったよな。

 攻撃には魔剣の能力をつかってるのか。」

 俺がモルドラの後ろに回り込み声をかけるとモルドラは振り向きざまに剣を振る。


 しかし剣は空を切る。


「あまり使わないスキルだったから、忘れていたよ。」

 モルドラが俺を見つけた時には俺の傷は塞がっていた。

「やっぱりダメージは入らないか…。

 久々の強敵かもと期待したんだけどな。

 こいつも不可侵領域を越えられないか…。」

 俺は溜め息をついた。



「まさか…お前も…?」

 モルドラは俺を見て真面目な顔をする。


「やめてくれよ。

 俺のはあくまで防御スキルだ。

 仲間を見捨て力を求めるあんたとは違う!」

 俺はモルドラの額に目掛けて突きを放つ。


 すると剣が頭を貫通し、モルドラの頭から魔導石を押し出す。


 俺が剣を引き抜くと額から血が吹き出しモルドラは頭を押さえ苦しみ出した。


「俺が力を求めるのは仲間の為だ。

 姫達を護る為ならば人間だって辞めてやるさ。」

 俺はレーヴァテインに魔力を込める。

 剣身に浮かんでいた銀色の装飾が金色に変わる。


「だが人間を辞めたとしても俺は仲間を護るために戦う!」

 俺はモルドラに斬り掛かる。


「俺が負ける訳がねぇんだ!!」

 モルドラは剣を振るが足元が定まらずふらつく。

「ちくしょう…もっと楽しませて…くれよ。」


「あんたにかける慈悲はない!

 "ヴァーミリオン フレイム"!!」

 俺が剣を振り抜くと、モルドラの体から炎が上がる。


 モルドラはその場に膝をつき倒れ込む。

 しばらく燃え続け灰になっていった。


「一応、ニアも仲間なんでな。

 散々痛めつけてくれた礼だ。」

 俺はレーヴァテインを鞘に納めると出口に向かった。



 *****



 俺が出口に着くと、半蔵とニア、シャイネスが待っていた。

 半蔵は男を縛り上げ足蹴にしている。

「そいつが競売の元締めか?」

 俺が男の前に立つと男の顔は恐怖に染まっていた。


「あ…アンタ、モルドラの旦那は…?」

 男は震えながら俺を見上げた。


「殺してきた。

 お前が競売の元締めだな?聞きたいことが山程あるんだ、協力してくれるよな?」

 俺が見下し問いかけると男は首がちぎれんばかりに首を縦に振る。


「シャイネス、この男は俺の方で尋問する。

 問題は無いか?」

 俺は俯くシャイネスを見た。


「…私は何もできなかった。

 神威殿が全て判断してくれ。」

 シャイネスは今にも泣き出しそうな声を出した。

「そうか…シャイネス。

 1つ質問してもいいか?」

 シャイネスは俯いたまま頷いた。


「何故本気を出さなかった?

 君の実力は本当ならモルドラを超えているはずだ。

 それに黒の魔剣、いや…闇の魔剣ストームブリンガーは大剣の筈だ。

 君なら剣を使いこなせるはずにも関わらず何故、解放しなかった?」

 俺の問にシャイネスは肩を震わせた。

「やはり…シャイネス…君は甘すぎる。

 モルドラに情けを掛けたのか?

 例え相手が旧知の仲でも、クズに成り下がった者でも全力を求める相手に対する侮辱だ。

 時に甘さは自分だけでなく周りも危険に晒す。

 騎士団長として部下を…皇帝を護りたいなら甘さを捨てろとは言わないが、いざと言う時は邪魔になる事を覚えておいてくれ。」

 シャイネスは黙り込み俯いたままだった。


(なんて偉そう言っても騎士道とか騎士の礼儀とか全然わかんないしな。

 それっぽい事並べたけど…どうなんだろうな。

 少しは勉強しとけば良かったなぁ。

 俺の知識なんてゲームの軍略とかキャラのセリフとかの知識だからな。)

 俺は我に返りニアを見た。


「ニア、シャイネスを頼む。

 俺はコイツから話しを聞かないといけないからな。」

 俺は男を見ると男は愛想笑いを浮かべながら震えている。



 俺はニアにシャイネスを騎士団詰所に送り届けるのを頼み、半蔵と自軍に戻った。



 *****




 競売の元締めの男をメフィストと玉藻前に預け尋問させている。


 俺は隊長室のソファーに寝転がる。

(アノニマスについての情報があればいいけどな。

 モルドラは殺さずに無力化できればよかったんだけど…。

 やっぱ駄目だなぁ…カッとなるとPvPでも手加減出来なかったんだよな。

 まだトリガーの世界なら多少のデスペナで済んだけど…。

 前はよくフレンドさんが止めてくれたけど、今は止めてくれる人が居ないからな。

 気をつけないと。

 まだゲーム感覚が抜けてないのかな…。

 人を殺したのに実感がない、何も感じない。

 感情までこの世界に染まってきたのかな?)



 部屋にドアをノックする音が響き渡る。



「入れ。」

 俺はソファーに座り直すとドアの方を向いた。



 ドアを開けルシファーが入ってきた。

「失礼します。」


「事ある毎に呼び出してすまないな。

 情報の擦り合わせをしたい。

 大丈夫か?」

 ルシファーは頷くと俺の対面に座った。


 俺はルシファーと話をして情報の交換を行っていた。

「なるほどな…。」


 ルシファーはスクロールを開き書き込んである情報を教えてくれた。

「神威様がお会いになった帝国騎士団長シャイネスですが、黒帝とも呼ばれて居るようです。

 本来なら各国で保管される女神の5振りの使い手に因んだ呼び名があるそうで、ラクシス帝国には"黒の魔剣の黒帝"。

 機械国ギアには"雷の魔剣の雷帝"。

 魔法国家レイヴンには"氷の魔剣の氷帝"。

 そして倭の国には"嵐の魔剣の嵐帝"です。

 炎の魔剣がこの世界には存在しないとされていたのは、神話に登場する2人の女神が取り合った人間が所持していたとされているからです。

 しかし、神威様の魔剣レーヴァテインがその炎の魔剣である事が分かりました。

 ですので既に噂は広まりつつあり、神威様が"炎帝"と呼ばれています。

 各国の帝と付く者は最強の武を持つとされシャイネスの様に騎士団長の座についていたり、ギルドの最高戦力SSランクに登録されて居るようです。

 神威様も既にシャイネスの推薦によりSSランクに登録されました。」

 ルシファーは淡々と話す。


 俺は黙って頷く。

(は?炎帝?SSランク?なにそれ…。

 俺、全然知らないんだけど??

 話広がるの早くない?

 リアルの世界でも情報が拡散されるのは早かったけど…。

 国のトップや組織のトップは判断を下すのにもっと時間かかってたよ?

 ってかルシファー優秀な!

 情報集めるのはや過ぎない??)

「…そうか。

 やはりレーヴァテインが女神の5振りの炎の魔剣なんだな。

 俺が炎帝か…。」

(なんだか厨二心が疼く感じになってきたな!)

 俺は興奮を押さえ冷静を装う。


 ルシファーは少し言いずらそうに話しを進めた。

「恐らく今後、帝国から国同士の小競り合い等の際に相手方に帝がいた場合、神威様がシャイネスと共に招集される可能性が高いですね。

 そして神威様の存在によって現在の国同士の力の均衡が崩れかけ諍いが激化する恐れもあります。

 ラクシス帝国には現在2振りの女神の魔剣が存在している事になるので、各国から狙われやすくなります。

 特に神威様のレーヴァテインは今までは神話の中だけの魔剣だったのに実在するとなると皆、躍起になって求めるでしょう。

 まあ、神威様からレーヴァテインを奪える者などこの世界に存在するとは思えませんが…。」

 ルシファーはスクロールを丸め直すと俺に差し出した。


「ありがとうルシファー。

 そうなってくると今後、俺の方で情報を集めるのも楽になりそうだ。

 各国の動きにも注意しつつ、いかにインビジブルを守るか考えないとな。

 ルシファーには引き続き苦労をかけるが宜しく頼む。」

 俺はルシファーからスクロールを受け取ると胸元へしまいルシファーへ笑いかけた。


「勿論です!

 私は神威様に尽くせるのなら例えどんな事でも成し遂げて参ります!

 もし世界を手に入れろと仰るならば、私の全てを掛けて手に入れて参ります!」

 ルシファーは潤んだ瞳で力強く見つめてきた。


(やっぱ美人!)

「ありがとうルシファー。

 だが、俺は今のところ世界を掌握しようとは思ってはいないよ。

 だけどインビジブルの…俺の…いや、ルシファーや姫達の敵に世界がなるのならば、全力で叩き潰す。」

 俺はルシファーを見つめ返した。


 ルシファーは立ち上がると俺の前にきた。

「神威様…。

 こちらの世界に来られてからの神威様はどんどん強くなられていらっしゃいますね。

 私はルシフェルとして何度か相対させて頂きましたが、貴方様に倒され貴方様の配下として仕えさせて頂く事に間違いは御座いませんでした。

 今後も私達を導いて下さい。」

 ルシファーは跪いた。



「君の忠実な心を裏切らないように頑張るさ。」

 俺はルシファーの髪に触れた。

「綺麗な髪だ。」

(俺、無意識に何してんの!?)


「この髪も、体も心も全て神威様の物で御座います。」

 ルシファーは潤んだ瞳で見上げた。


 俺は唾を飲み込んだ。

「ルシファー…。」


 しばらく見つめ合い部屋は静寂に包まれた。



 すると部屋にドアをノックする音が響き渡る。


 俺とルシファーは我に返り、お互いソファーに座り直すと返事をした。


「入れ。」

(あぶねぇぇぇ!)



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