【血を啜る魔剣】

 俺達は裏口から侵入し地下への道を探した。

 俺はニアと一緒にいる半蔵に連絡をとる。


『拙者達は今、競売所の待機室にいます。

 地下への入口はーーーーー』


 俺は半蔵から地下への降り方を聞き、シャイネスと向かった。



 地下入口には見張りが立っていた。

「どうする?今騒ぎを起こす訳には…。」

 俺とシャイネスは身を隠しながら話し合っていた。


「俺に任せろ。

 "スリーピング ミスト"」

 俺は見張りに向け眠りの魔法を放った。



「凄いな…剣術だけじゃなく魔法まで使いこなせるのか…。」

 俺達は眠りにつく見張りを横目に地下へ降りていった。



 部屋の隅にニアと半蔵を見つけ合流した。

 俺はニアと半蔵にシャイネスを紹介した。


 半蔵は興味が無い様子で軽く挨拶をかわし、辺りの警戒にあたった。


 ニアは興味深々のようだが。


「初めまして帝国騎士団長殿。

 私はギルド所属Aランク冒険者ニアです。

 お会いできて光栄です。」

 ニアは改まりシャイネスに挨拶をした。


「いやいや。ニア殿の噂はよく耳にしていたよ。

 Aランクでありながら試験官を務め、実力もSランクに匹敵すると。

 今後、神威殿と協力関係なら様々な依頼をお願いすると思うが宜しく頼む。」

 ニアとシャイネスは握手をかわしている。


(2人とも顔を隠してるけど、素顔なら美少女達なんだよなぁ…。)

 俺はなんだか微笑ましく感じて2人を眺めていた。

(はたから見たら怪い絵面だが。)


 しばらく情報の交換をしていたら周りがざわめき出す。


「はじまるみたいだな。

 恐らくアノニマスの幹部は別室に居るだろう。

 半蔵、探せるか?」

 俺達は競売室へ向かいながら話をしていた。


「無論です。」

 半蔵は返事をするな否や姿を消した。


 シャイネスは驚きの声をあげた。

「神威殿の仲間は優秀なのだな…。

 神威殿にしてあの仲間ありか。」


 すると何故かニアが自慢気な顔をしている。

「ご主人様は凄いのですよ。

 今やギルド本部所属の傭兵部隊の中でも最高の部隊。

 帝国騎士団にだって負けませんから。」


(恥ずかしい…ってか、何故ニアが自慢気なんだ?)

 俺とシャイネスは苦笑いを浮かべながら席に着いた。

「半蔵がこの競売の黒幕を見つけ次第、俺が暴れる。

 その隙を見て半蔵と合流して黒幕の確保を頼む。

 このフロアにいる護衛達なら俺一人で十分だ。

 恐らく、黒幕には護衛がついて居るはずだ。

 もし何かあれば半蔵から俺に連絡を入れてくれ。」

 俺はニアとシャイネスに小声で話すと、2人は頷いた。


 会場は静まり競売が始まった。




 出品されている剣はまだ量産品だったり、ありふれた剣ばかりだ。


 中にはそれなりの魔剣もあったが目を引く物でも無かった。




 競売も中盤に差し掛かり目玉となる魔剣も登場し始めた。



「続きましての商品はこちらです!

 名剣"ヴォルケーノ"!」

 会場がざわめき出す。


「あの剣は…!」

 シャイネスが反応した。


「こちらの魔剣はラクシス帝国に保管されていた紛れもない本物!

 とある伝手から入手した一振りです!

 この魔剣は伝説の5振りには劣る物の、確かな伝承を数多く残す魔剣です!

 では1000万からスタートです!!」

 司会のアナウンスが終わるとどんどん入札が始まり瞬く間に値段が跳ね上がっていく。


「あれが帝国から盗まれた内の一振りか…。」

 俺はシャイネスに耳打ちをするとシャイネスは頷いた。


「落札者を覚えておこう…。

 シャイネスが直接動くのはまずい。

 俺達傭兵なら例え汚れ仕事でも問題は無い。」

 俺とニアは顔を見合せ頷いた。



 魔剣ヴォルケーノは9億という莫大な金額で落札された。



 すると半蔵から連絡が入る。

 どうやら黒幕がいる部屋を突き止めたらしい。


 丁度、競売も一時休憩を挟む様だ。

 俺達は飲み物を取りに行く振りをして二手に別れた。


 俺はヴォルケーノを落札した者の近くに。


 ニアとシャイネスは裏口を探し、黒幕がいる部屋へ。





 ヴォルケーノを落札したのはどうやら機械国ギアの国属発明家らしい。

 アノニマスと機械国は繋がりがあるらしく、出品される物の情報は先に聞いていたらしい。

 ヴォルケーノを目当てに今回の競売に参加したようだ。

 ヴォルケーノから発生する溶岩の熱を動力にする機械兵の実験の為に落札したようだ。

 俺は"チャーム"の魔法を使い情報を聞き出した。

 アーサーのスキル"エンペラー アイ"の様に持続して洗脳できる訳ではないが、一時的に情報を聞き出したりする分には十分だ。




 俺は発明家から距離を置くとチャームを解いた。

(なるほど…アノニマスは各国と裏では繋がっているようだな。

 となるとアノニマスの幹部の身柄を拘束しても国には任せられないな…。

 シャイネスに聞いて俺に任せると言うなら、メフィストと玉藻前に引き渡して情報を引き出させるか。)

「さてそろそろ騒ぎを起こすかな…。

 本職は剣士でも魔法使いでもない。

 召喚士だということを見せてやるさ…!」

(誰に!?

 …………自分の言葉に自分でツッコミを入れるのは寂しいな…。)


 俺は少し気恥ずかしくなりながら召喚書を取り出し開いた。

「我が名は神威。

 召喚士の名において汝に命ずる、召喚に応じ我に従え!"カースド ナイト"」

 魔法陣が浮かび上がり3体の呪われた鎧の騎士が現れる。

「行け!」

 俺が身を隠すとカースドナイトがフロアの中で暴れ出す。


 フロアの中に居た人々は慌てふためき騒ぎ出した。



 *****



「どうやらご主人様が動いた様ですね。」

 ニア達は半蔵と合流し部屋の近くに隠れていた。


「見張りは拙者が眠らせます。

 ニアとシャイネス殿は突入し対象を確保して下さい。」

 半蔵は影に潜り見張りの死角に現れた。

 見張りを手刀で気絶させると合図をだした。


(本当に神威殿の部下は優秀だ。)

 シャイネスは口元を緩ませたが気を引き締め直しニアと共に部屋に突入した。



「やっときたか。

 帝国騎士団長、絶武人シャイネス。

 待ちくたびれたぜ。」

 競売フロアの映像を見ていた男が椅子に座りながら振り向く。



「なんで…?」

 シャイネスは驚きの声を上げた。


 ニアは剣を構え睨みつける。


 男はゆっくりと立ち上がり近ずいてきた。

「いい殺気だヴァンパイアの小娘。

 だが…隙だらけだぜ。」

 男の姿が一瞬歪んだ。


 次の瞬間、ニアの体が弾き飛ばされる。

「なっ…!」

 ニアはそのまま壁に叩きつけられた。


 男は呆然と立ち尽くすシャイネスに近ずいていく。



「何故貴方がここにいるのですか!?

 答えなさい!前騎士団長"モルドラ"!!」

 シャイネスは我に返り剣を構える。


 モルドラはニヤリと笑いシャイネスを見下ろした。

「俺は強い奴と戦いたかったんだ。

 騎士団にいても退屈な日々、だから俺はアノニマスに入った。

 アノニマスに居れば退屈しないんだよ。

 お前が育つのを待ってた。

 お前は俺の予想通り才に恵まれている。

 お前が皇帝から黒の魔剣を授かり、力をつけるのを…。

 さぁ…成長したお前の力を見せてくれよ…。

 俺を楽しませてみせろ!!

 そして黒の魔剣は俺がいただく!!」


 モルドラの姿が歪むと、シャイネスは頭上に剣を構えた。

 すると金属音が響き渡りモルドラの剣がシャイネスの剣に受け止められていた。

「くっ…!」

 しかしモルドラの蹴りがシャイネスの腹を蹴り上げる。


 シャイネスの体は吹き飛びニアに重なるように倒れ込む。


「シャイネス。

 昔も言っただろ?騎士道に乗っ取った戦い方では限界がある。

 手足を組み込んで自分に優位になるように勝負を運べって。

 確かに形にハマった戦い方でも強い奴は強い。

 だがお前は小柄だから体格差のある相手にはスピードを活かせと忠告したのを忘れたのか?」

 モルドラは溜め息をつきながらゆっくり歩み寄る。

「お前には期待していたんだぜ。

 帝国最強の武と言われていたのも、周りが弱すぎたんだな。

 失望したよ…お前には黒の魔剣を使いこなす事は出来ない。

 その魔剣は俺が貰い受ける。」

 モルドラはシャイネスの手を踏みつけた。


 シャイネスはそれでも帝国の至宝である黒の魔剣を渡すまいと柄を握りしめる。


 モルドラはシャイネスを見下ろし、剣を抜き放つ。

 その瞬間シャイネスの陰からニアがモルドラ目掛けて突きを放つ。


「ほぉ…!小娘も中々の筋だ。

 お前達2人がかりでかかって来いよ!

 そうすれば少しは楽しめそうだ。」

 モルドラはニアの突きをかわし、後方へ飛んだ。


「大丈夫ですか騎士団長殿。」

 ニアはモルドラを見据えたままシャイネスを支える。

「すまない。

 ニア殿、気を付けてくれ。

 奴は前任の騎士団長…あの長身を活かして上段の死角からの攻撃を得意とする。

 しかし、剣撃をフェイクに体術も使う。

 騎士団長時代の通り名は"幻撃(げんげき)のモルドラ"。

 揺らぎと同時に見えない攻撃が襲ってくる。」

 シャイネスはよろめきながら立ち上がり、モルドラを睨みつける。


「らしいぜ。

 俺の戦い方を聞いたんだ、少しくらいは楽しませてくれよ?」

 モルドラから殺気が迸る。


 ニアは剣を鞘に納めると仮面を外し自分の腕に噛み付いた。

 流れる血が剣を形作る。

「魔剣ブラッド」

 ニアは血でできた剣を構えるとモルドラに向かって飛びかかった。


「魔剣精製能力か。

 レアな能力だな!小娘、お前純血か!!」

 モルドラはニアの攻撃を受け流しながらニヤリと笑う。

「今日はついてるな!

 黒の魔剣と純血のヴァンパイアの2つも手に入るなんて!」

 かわしていたモルドラの体が揺らめく。


「上か!?」

 ニアは頭上からの攻撃を警戒した。


「残念、斬り降ろしだけじゃねぇんだよ!」

 モルドラの剣がニアの左腕に刺さる。


 ニアは後ろに飛び退き辛うじて貫通は免れた。

 しかし出血が酷く、ニアの左腕を紅く染めた。



「ニア殿、すまないが貴女の血を少しわけてくれないか?」

 シャイネスはニアに近ずいた。


 ニアは左手の傷口を押さえながら驚く。

「騎士団長殿は同族ではないと思うのだが…。」


 シャイネスは首を横に振ると剣を差し出す。

「この剣にだ。

 この剣は血を啜る魔剣。

 神話の女神が所持したとされる5振りの内の一振り。

 "闇の魔剣 ストームブリンガー"

 この剣で斬られた者の血を啜り持ち主に力を分け与えるのだ。」

 シャイネスは剣を鞘から抜き、ニアに剣身を差し出す。


「この剣が…わかりました。」

 ニアは左手から垂れる血をストームブリンガーの剣身に垂らす。


 すると黒一色だった剣は金色の紋様が浮かび上がる。



「ありがとう。

 ニア殿は後ろで回復に専念してくれ。」

 シャイネスは暇を持て余しイライラした様子のモルドラを見据えた。

「待たせたなモルドラ。」


「やっとか。

 じゃぁ解放された黒の魔剣の力を見せてくれよ!」

 モルドラの体が揺らめく。

 しかしモルドラが動くより早くシャイネスが斬り掛かる。


「おっと!」

 モルドラはシャイネスの剣を剣身で受け止める。


「なるほど。

 そこのヴァンパイアの血を吸ったからヴァンパイアのスピードを持ち主に与えたのか。

 やはり面白い剣だ。

 欲しいぜ…!」

 モルドラはシャイネスの剣を受け流し返しの剣で斬り掛かる。


 しかしモルドラの剣は空を斬り、シャイネスはモルドラを蹴り後方へ飛んだ。


「いい動きだシャイネス。

 もっとだもっと楽しませてくれよ!」

 モルドラから瘴気が滲み出る。


「瘴気…?まさかモルドラ…貴様…!!禁呪に手を出したのか!?」

 シャイネスは剣を構えモルドラに斬り掛かった。


 モルドラはシャイネスの剣を手で受け止める。

「俺は力が欲しかった…。

 騎士団を抜け、アノニマスに入り世界が変わったよ。

 アノニマスには強い奴がゴロゴロいやがる。

 俺は人間では限界まで強くなった。

 だがまだ足りねぇんだ。

 もっともっと力が欲しい!そして魔王をも超える!

 俺が新しい魔王になるんだ!今の世界の均衡を壊し、力が全ての世界に作り替えてやる!!」

 モルドラはシャイネスの剣を掴んだまま振り回し、シャイネスを壁に叩きつける。


「騎士団長殿!!」

 ニアが助けに入ろうとするが、モルドラの蹴りがニアを吹き飛ばす。



「シャイネス…。

 まだ足りねぇな。

 この剣であのヴァンパイアを殺せばもっとマシになるのか?

 もっと黒の魔剣に血をくれてやればお前も強くなるんだよな?

 だったら手伝ってやるよ!」

 モルドラはシャイネスの腕を掴み引きずって倒れ込むニアに近ずいて行く。



「やめろ!モルドラ!やめろ!」

 シャイネスは暴れるがモルドラはビクともしない。




「さぁ…血を啜れよ!ストームブリンガー!

 強くなれシャイネス!!」

 モルドラはシャイネスの手を振りかざした。



「やめろーーー!!!」

 シャイネスの叫びが部屋中に響き渡り、シャイネスの手に握られたストームブリンガーがニアに振り下ろされる。



 ニアは死を覚悟し目を閉じた。







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