【裏切りの騎士】

 俺はラクシス帝国の騎士団訓練所にいた。


 目の前には様々な武器を持った騎士が4人。

 それぞれが名乗りを上げ、一斉に俺に攻撃を仕掛けてきた。




 *****




 数時間前、俺はギルド本部に呼び出されSランクの腕章を受け取った。

 すると帝国騎士団長が今日なら大丈夫だと丁度連絡がきた。


 俺は帝国騎士団宿舎の騎士団長室に向かう事にした。


 騎士団長室に入ると左右に2人づつ大柄の騎士が立ち、真ん中の机にはフルフェイスの鎧を来た人物が座っていた。

(確かにただ者ではなさそうだな…。)


「貴殿が神威殿か。

 初めまして私は帝国騎士団長を努めさせて頂いてる、シャイネスだ。

 ところで…その猫は貴殿の猫か?」

 シャイネスの言葉に俺はハッとしてまさかと思いながら足元を見た。


「にゃー♪︎」

 黒猫が俺の足に尻尾を巻き付け擦り寄っていた。


(バアル=ゼブル!?なんで!?いつの間に?)

「いや…その…………はい。

 俺の猫…では無いのですが…懐かれてまして…。」

 俺は頭をかきながら苦笑いを浮かべた。



 俺は咳払いをして気を取り直し冷静になる。

「この度はお時間を頂きありがとうございます。

 この度、Sランクに昇格しラクシス帝国のご依頼に参加する資格を得ましたのでご挨拶をさせて頂きます。

 傭兵隊長インビジブルの隊長、神威です。

 今後、ギルドのSランク傭兵として帝国からのご依頼等でお会いすることもあると存じますので以後お見知り置きを。」



 シャイネスは頷くと立ち上がり近ずいてきた。

(意外に小さいな。

 アーサーと同じくらいか?)


「改まらなくてもよい。

 これからは共に戦う仲間だ。

 ギルドの方々と我々帝国騎士団は対等だ。

 よろしく頼む神威殿。」

 シャイネスは俺の前に立つと握手を求めてきた。


 俺はシャイネスに応え握手を交わす。



「ところで…神威殿…お願いがあるのだが…。」

 シャイネスは気恥しそうに俯く。

 俺は首をかしげた。


「そっ…その…その猫を抱かせては貰えないか?

 私は動物が好きなのだが、私から溢れる魔力に怯え逃げられてしまうのだ…。

 しかしこの猫は逃げない。

 もしかしたら触れられるのではと…。」

 シャイネスはフルフェイスの隙間から優しげな瞳を覗かせた。


 俺は吹き出しそうになるのを堪え。バアルを抱えるとシャイネスに差し出した。

「結構気紛れな猫なので懐くか保証は出来ませんが…。」


 シャイネスの後ろに立つ4人は俺を睨みつけている。

(あまり快くは思われて居ないようだな。

 大人しくしててくれよ…。)

 シャイネスは恐る恐るバアルに手を伸ばした。



 しかしやはりバアルは暴れ、シャイネスの仮面に飛びかかる。

「シャー!」

(私は私が認めた者しか触れさせはしない!)



「キャッ!」

 シャイネスの悲鳴と共にフルフェイスの兜が外れ、地面に落ちた。


(少女!?年齢的にはニアと変わらないように見えるが…。

 ってかこの歳で騎士団長!?まじかぁ…。)

 シャイネスは自分の素顔が見えている事に気づき俯いてしまう。


「み…見ないで下さい…。

 恥ずかしくて…。」

 シャイネスは兜を拾い上げ顔を真っ赤にしながら被り直した。



 バアルは嘲笑うかのように思念を俺に飛ばしながら窓から逃げていく。

(ほほぅ…かの騎士団長はこのような小娘であったのか…面白いモノが見れたな!そのシャイネスは天性の才であらゆる武具を使いこなす。

 それ故に、絶武人と呼ばれている。

 後ろの四騎士は…オマケ程度の雑魚だよ。

 小僧、また遊びにくるぞ!さらば!)


 俺はバアルを目で追っていた。

(トリガーの世界の姿と同じならお前も見た目は小娘だろうが!!

 やれやれ…さてどうなるかな。)



 シャイネスは無言で俯いてしまっている。

「団長!貴様…団長の素顔を見たな…!」

「団長は極度の恥ずかしがり屋なんだ!」

「仮面を外すと人の顔すら見れない!」

「お前のようなギルドの傭兵如きが、見ていいわけが無い!」


 四騎士は次々に俺を責め立てる。


「表にでろ!」

「貴様なんぞ我々が粛清してくれるわ!」

「Sランクだかなんだか知らんが、お前如きが団長と対等だと?」

「噂は所詮噂だ!どうせ貴様も仲間の強さも、噂が独り歩きしてるに違いない!」


 まくし立てられ段々と腹が立ってきた。

「俺個人を乏しめたいだけならまだ許せたが…。

 仲間…姫達まで愚弄するのなら貴様らを斬るぞ。」

 俺は四騎士を睨みつけた。


「威勢はいいな!ならば勝負しようじゃないか!

 我々の中の1人にでも勝てたら詫びてやろう。

 しかし貴様が負けたら…そうだな。

 それが噂の魔剣だな!その剣を差し出せ。

 その剣ならいい値がつきそうだ…、」

 四騎士の中の1人が下卑た笑いを浮かべた。

 他の騎士達もニヤついている。


(なるほど…。)

「いいだろう。

 俺は貴様ら4人がかりでも構わないぞ?

 所詮、弱者の遠吠え。

 己の牙が小さく、誇示する力を持たない奴ほど相手に噛み付いてみせる。

 偉そうほざく前に腕を見せてみろ。」

 俺は四騎士を挑発した。


 シャイネスは黙っている。

 しかしその目には不安の色がみてとれた。



 *****



 俺は四騎士に囲まれ騎士団訓練所に向かった。



 俺の前に四騎士が並ぶ。

「俺は帝国四騎士が1人、絶剣のハイブ!」

「同じく絶槍のサハラン!」

「俺は絶斧のギュイラカ!」

「最後に絶盾のオリジ!」


「「我等が帝国騎士団長が側近、帝国四騎士!!」」


 四騎士はそれぞれ武器を構える。


「まるで戦隊物のギャグだな。

 シャイネス、あんたもこんなんに囲まれて大変だな。

 俺だったら気が狂いそうだよ。」

 俺はシャイネスを見て笑いかけた。


 シャイネスは俯き少し恥ずかしそうにしている。


 火に油を注いだようだ。

 四騎士達の顔が真っ赤になる。


「貴様!我等を愚弄するだけでなく団長を呼び捨てにするなぞ!!

 命までは取らまいと思っていたがもはや万死に値する!!

 我等四騎士を相手に無事でいられると思うなよ!」



 四騎士は一斉に飛びかかってきた。


(確かに筋は悪くない。

 だけど所詮、この世界の常人レベルだ。

 まだ、ニアやクシャシーの方が遥かに強い。)

 俺は四騎士の猛攻をかわしながら様子を見ていた。


「我等の攻撃をかわしている事は褒めてやろう!

 だが、かわすだけで手一杯か!?

 所詮ギルドの傭兵なんぞその程度よ!」


(殺さない方がいいんだよな?)

 俺はシャイネスを見た。

 するとシャイネスは騎士達に見えないように小さく頷いた。


 俺は小さく溜め息をつき剣の柄に手をかけた。

「究極剣聖"インペリアル サークル"」

 俺が剣を抜き放つと周りに衝撃波が発生した。


 衝撃波は段々と広がっていき飛びかかる四騎士を吹き飛ばす。


「ふん!ただの虚仮威しよ!」

 オリジが盾で衝撃を受け流した。



「もう終わってるさ。」

 俺が剣を鞘に納めると四騎士達の武器が粉砕され、オリジ以外の騎士達は衝撃に耐えきれず地面に叩きつけられ気を失った。




「まだやるのか?裏切りの騎士達。」

 俺はオリジに殺気を飛ばす。


「貴様…!」

 オリジは盾を構えながら突進してきた。



 すると傍観していたシャイネスが俺の前に立つ。

「後は私が…責任をとります…。」

 そう言うとシャイネスは黒い剣を抜き放つ。





「団長…なにを…?」

 オリジはシャイネスが自分に剣を向けたのに気づき後ずさる。


「オリジ…。

 貴方達は神威殿の剣を欲しがりましたね。

 最近、闇ルートで魔剣の売買が活性化しています。

 帝国に保管されている魔剣も何本か盗まれました。

 ご丁寧にダミーまで用意して。

 私は秘密裏にギルドに依頼を出し探っていました。

 そして神威殿と協力し、帝国の中にいる裏切り者を探していたのです。

 帝国の貴族達は騙せても私の目は誤魔化せません。

 貴方達、四騎士が魔剣売買に関与している事はもう分かっています。

 大人しく投降しなさい。」

 シャイネスはオリジに剣先を突きつける。


「ち…ちくしょう!ハイブの野郎がヘマをやらかしたから!」

 オリジはシャイネスの剣を盾で払い、逃げようとした。


「貴様らが新しく競売ルートに使おうとした魔道具屋のナポリは俺の協力者でな。

 全て情報は入ってるんだ。」

 俺は回り込みオリジに剣を向けた。



 オリジは後ずさると盾を構えながらシャイネスに突進していく。


「そうですか。

 貴方は投降しないと。

 ならば反逆者として処断します!」

 シャイネスが剣を構えオリジに振り下ろした。



 オリジは剣を受け止めようとしたが、シャイネスの剣はオリジを盾ごと斬り捨てた。




「四騎士を捕らえよ!」

 シャイネスの号令と共に数人の騎士が現れ四騎士達を連行していった。





「神威殿ありがとう。

 私の監督不行届だ、すまない。」

 シャイネスは剣を鞘に納めると俺の方を向き頭を下げた。



「気にしないでくれ。

 後は魔剣売買の元締めだけだな。

 もうインビジブルの仲間に調べはさせて、競売所にはニアと仲間を忍び込ませてある。

 魔剣売買の元締め組織は"アノニマス"の幹部だ。

 元締めを捕まえられればアノニマスに関する情報も得れるかもしれない。」

 俺は資料を取り出しシャイネスに見せた。


 シャイネスは驚いていた。

「あの短期間でここまで調べたのか!?

 流石だな…。

 やはり神威殿に頼んで正解だった。

 最近急激に名前を売っている傭兵がいるとギルドで聞いて話をしたのだが。」


「では俺達も向かおう。」

 俺はシャイネスと魔剣売買の競売所へ向かった。



 競売所に向かっている道中シャイネスから話を聞いていた。


 四騎士はシャイネスの剣を狙っていたらしい。

 シャイネスの剣は帝国の至宝、神話の時代に女神達が所持したとされる5本の武器の1振りらしい。


 今まで魔剣売買組織が何度か襲撃してきたが全て返り討ちにしているらしい。

 四騎士は最近になり態度が急変したと。

 その直前には四騎士を尋ねて怪しい商人が来たみたいだ。


「恐らくその商人が四騎士に何かを吹き込んだんだろうな…。」

 俺は腕を組みながら馬車に揺られていた。


 対面に座るシャイネスは俯いている。

「私の見た目が子供だから使えるのが嫌で裏切ったのだろうか…?」


 俺はシャイネスを見て答えた。

「それは違うんじゃないか?

 現に騎士団長として素晴らしい功績を上げ、皇帝からの信頼もあつい。

 部下からの人望もある騎士団長殿に年齢は関係ないかと。」


 俺の言葉にシャイネスは顔を上げた。

「ありがとう神威殿。

 私の事はシャイネスで構わないよ。

 貴殿は不思議な人だな。

 直接会ったのは初めてだが何故か懐かしい感じがするよ。

 それに、貴殿はまだ隠した力があるのだろう?

 こんなに底の見えない人物は初めてだ。

 ギルドからの報告を聞いていた時は半信半疑だったが、今は敵対しなくて良かったと心から思うよ。」

 シャイネスは背もたれによさりかかると天井を見つめ溜め息をついた。

「世界は広いな…私は今まで帝国最強と言われてどこかで自信過剰になっていたのかもしれない。

 まだ見ぬ地にはまだまだ強い者もいるのだと思い知らされたよ。

 神威殿…貴殿はどうやってその強さを手に入れた?

 私は平民の出身で、領主に売られそうだった所を前任の騎士団長に拾われた。

 前任の騎士団長が行方不明になり私が跡を継いだが…まだ足りないのだ。

 私は強くならねばならない。

 あの人に追いつく為にも…。」


 俺は腕を組みながらシャイネスを見た。

「俺の力は俺だけの物では無いよ。

 支えてくれる仲間が居たから俺はここまでこられた。

 そしてこれからも俺は強くなる。

 まだ自分の限界なんて見えない。」

(現に俺が今の力を手に入れたのは姫達が居たからだし、トリガーの世界で課金したのもあるしな…。

 ひたすらトッププレイヤーとしてやり込み続けたから、絶対なる創造主のスキルも手に入れられたんだろう。

 それに絶対なる創造主があれば、俺はまだまだ強くなれる。)


 シャイネスは唖然としながら俺を見ていたが小さく頷いた。

「そうか…仲間との絆。

 それに、自分の限界を自分で決めてはならないのだな。

 自分を信じて前だけを見るか…。」

 シャイネスはカーテンの隙間から外を見た。

「中々に難しい。

 鍛錬でどうにかなるならいいが、精神的に強くならねばな…。

 神威殿。

 これからも、いい関係が築ける事を期待しているよ。」

 仮面を外し素顔をあらわにしたシャイネスは俺に微笑みかけた。


「あぁ。

 これから、色々と協力して貰えると俺も助かる。

 帝国騎士団長とギルドの傭兵、立場は違えど隊の仲間の命を預かる身だ。

 お互い助け会えれば嬉しいよ。」

 俺もシャイネスに微笑みかけた。

(これで帝国騎士団長との繋がりが持てた。

 傭兵部隊インビジブルとしての後ろ盾が作れたな。)



 馬車は嘶きと共に減速し、止まった。



「このホールの地下で競売が行われて居るのだな…。

 アノニマスの幹部も中にいるらしいな。

 神威殿、準備はよいか?」

 シャイネスは仮面をはめ直して俺を見つめた。



「俺はいつでも行ける。」


 俺とシャイネスは裏口に回り込み忍び込んだ。



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