【期待外れ】

 俺とフェンリルは睨み合っていた。


 フェンリルは口角を上げてニヤリと笑う。

「お前が俺の相手をするのか?

 あの後、俺はアシエル様の力を分けてもらった。

 もう、お前の攻撃なんて効かねぇよ。」


(力を分けてもらった…か。

 こいつ口が軽いのか?)

「御託はいいからかかってこいよ犬畜生。

 躾てやるから。」

 俺は武器を担いだままフェンリルを挑発する。


「神威殿…あまり刺激しない方が…。」

 クシャシーはフェンリルの力に気圧されていた。

 アシエルの登場やパズズの魔人化、そしてフェンリル。

 強大な力を持つモンスター達にクシャシーは自信を無くしていた。

「何故、神威殿はそんなに堂々として居られるのですか?

 あの魔王アシエルとも対等に話すし…。」

 クシャシーはアシエルの威圧感を思い出し震えている。


 俺はフェンリルを睨みつけたまま笑った。

「簡単な事ですよ、それは…!!」

 俺は武器を構えフェンリルに向かって走り出した。


 フェンリルは爪を魔力で強化して受け止めようと前に出した。


 俺は構わず武器を振り下ろす。

 そのまま爪を切り裂きフェンリルまで刃が刺さる。



 フェンリルはよろめき後ずさる。

 俺はクシャシーの方に振り返り笑いかけた。

「俺の方が強いから。」


 クシャシーは呆然と俺を見ていた。



 フェンリルの傷が塞がっていった。

「人間の癖に!俺を見下すな!!」

 フェンリルから瘴気が噴き出す。


(再生能力も手に入れてるのか…。)

 俺はアイシクルリボルバーに魔力を送る。



 俺はもう一度フェンリルに向かって走り出した。

 フェンリルは後方に飛び距離を取ろうとした。


 しかし俺は武器を突き出し引き金を引く。



 氷の魔力弾はフェンリルに打ち込まれフェンリルの右足が凍りつく。

「ちまちまと…!」

 フェンリルは炎を吐き氷を溶かした。


「フェンリル。

 お前は自分の力を過大評価しすぎだ。

 相手の力量を読み間違えると、待っているのは死だ。

 俺は自分より強い相手も想定しているが…お前は俺には勝てないよ。」

 俺は武器を肩に担ぎフェンリルを見た。


 クシャシーは自分の回復を忘れ戦いに魅入っていた。

「これでAランクだと…?神威殿は帝国最強と云われる、騎士団長と同格…いやそれ以上か…。」


「俺より強いだと?俺が勝てないだと!?

 舐めるなぁァァァ!!」

 フェンリルが咆哮を上げるとフェンリルの周りに炎が巻き上がり巨大な狼を形作る。


 フェンリルは俺を目掛けて向かってきた。

 俺はフェンリルの爪が振り下ろされるのを交わした。


 フェンリルは休む間もなく連撃を繰り出す。

 しかし全て空を切る。


 フェンリルが作り上げた炎の狼がクシャシーに襲いかかる。


「お前が俺の相手をしてる間に、あの人間は死ぬんだよ!!

 お前が俺を怒らしたから!お前のせい…で…。」

 フェンリルは段々と顔が青ざめていく。


 襲いかかる炎の狼が身を屈め蹲るクシャシーに牙を向けようとした刹那、俺は左手に氷の槍を形作り炎の狼に向けて投擲した。


 氷の槍は炎の狼を貫き消滅させた。


 氷の槍はクシャシーの周りに溶けだし、クシャシーを護る結界になった。


「その冷気の中ならフェンリルの炎は無効化できます。」

 俺はフェンリルの猛攻を避けながらクシャシーに説明した。


「何でだ!なんで当たらねぇんだ!?」

 フェンリルは次第に焦り、動きが単調化していく。


(この程度なのか。

 魔王の力を分けてもらったって言ってたけど期待外れだ。)

「もう、やめだ…。」

 俺は動きを止め溜め息をついた。


 フェンリルはニヤリと笑い俺の腹を殴りつける。


「神威殿!!」

 クシャシーは結界の中から叫んだ。


「余裕を見せてるからこうなるんだ!!」

 フェンリルは殴りつけた腕から炎を放出した。



 しかし炎は掻き消える。

 殴りつけたはずの腕が弾け飛ぶ。

「何をしやがった!?」

 フェンリルは慌てて距離をとり腕を再生しようとしている。

「腕が…再生しねぇ…!」


 フェンリルは歯ぎしりをしながら俺を睨んだ。



「魔王アシエルはこの程度の小物を欲しているのか?

 部下がこの程度なら、魔王アシエルもたかが知れたな…。」

 俺はフェンリルを見下す様に見た。


「テメェ…!黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって…!

 アシエル様はテメェなんぞより遥かに強い!

 他の仲魔達も俺なんかより遥かに強い!」

 フェンリルは俺を指さし吠えた。


「俺の不可侵領域すら突破できない小者が吠えるなよ。

 他の魔人達も大した事はないんだろ?

 お前位の小者が何匹集まろうと雑魚だからな。」

 俺は武器を肩に担ぎフェンリルを挑発する。


 フェンリルは牙を剥き出しにして唇を噛み締めた。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!殺す!!!」

 フェンリルから赤い瘴気が吹き出した。


 瘴気はフェンリルの腕を再生させ、フェンリルの体に巻きついていく。

「これは、アシエル様から頂いた力を空っぽにしちまうが…仕方ねぇ…。

 テメェを殺す為だ!!!」

 フェンリルの姿が視界から消えた。


 耳を澄ますと四方八方から足音が響く。

『ついてこれるか!?テメェの負けだ!!

 "爆炎加速 獣狼拳(ばくえんかそく じゅうろうけん)"!!』


 次第に周りから炎が上がり、俺の周りを取り囲む。

 そして炎の間からフェンリルが爪を伸ばし俺に突き出した。




 しかしフェンリルの爪は俺に届く前に弾け飛ぶ。


 俺は炎ごとフェンリルに武器を振り下ろした。


 炎は消え、フェンリルの斬り裂かれた傷から血が吹き出す。



「人間舐めんな。

 犬畜生が。」

 俺はフェンリルを見下しながら銃口を向けた。


 フェンリルは目を見開き俺を睨みつける。

「ちく…しょう!アシエル…様…。」


 俺はフェンリルの額を撃ち抜いた。

 撃ち抜かれた額から瘴気漏れ出す。



 次第にフェンリルの体が黒く変色していき消滅した。



「大した情報は無かったな。

 ただ魔王アシエルは部下に力を分け与えて強化する事が出来るのか…。

 どんな力を持ったモンスターが居るか分からないから気をつけないとな…。」


 俺はアイシクルリボルバーをゲートに仕舞うと、レーヴァテインを取り出し腰にさげた。



 クシャシーが呆然と俺を見ていた。


「終わりましたよ?大丈夫ですか?」

 俺は結界を解除してクシャシーに歩み寄る。


 俺は首を傾げながら微笑んだ。

「どうしました?」


 クシャシーは恥ずかしそうにしながら俯いた。

「す…すまない…。

 腰が抜けてしまって立てないんだ…。」





 俺はクシャシーをおぶり、帰路についた。

 クシャシーは申し訳なさそうにしながら俺にしがみついた。

(以外に"でかい"!)

 俺は背中の感触を楽しみながら歩いた。



 ギルドに戻る間、クシャシーはパズズとの因縁を話してくれた。

「私の生まれた村はあの遺跡の近くにあった。

 私が小さい頃、父はギルドの冒険者だった。

 母は村の巫女をしていて、村では悪魔崇拝をしていた。

 ある日、村の神官が召喚の儀を行なうと言い出したんだ。

 その生け贄に村の中で魔力の高い母が選ばれた。

 父は反対したが、神官は受け入れなかった。

 母は涙ながらに私に父を守ってくれと言った。

 そして母を生け贄に悪魔召喚の儀が行われ、現れた悪魔は神官を殺した。

 父は村人を守る為、必死に戦った。

 それでも、悪魔は倒せず村人達は一晩の間に皆殺しにされたよ…。

 私は父が地下室に隠してくれたから生き延びられたけど…。

 その悪魔がパズズなんだ…。

 私は復讐の為に力をつけた。

 冒険者になればパズズの情報も集まると思って冒険者になって、やっと居場所を突き止めて挑んでもパズズは倒しきれなかった。

 そして今回でパズズは魔人化し魔王アシエルの配下になった…。

 もう私の復讐だけで済む話ではなくなってしまった。

 魔人化したモンスターは人々にとって厄災並だ。」

 クシャシーは涙を流し俺の背中に顔を埋める。


「パズズはいずれ戦うことになりますよ。

 魔王アシエルは俺の…人類の敵になるかもしれないから…。

 その時は力を貸して頂きたい。」

 俺は前を見て進んだ。


 クシャシーは顔を伏せたまま小さく頷いた。

「…ありがとう。」





 *****




 俺達はギルド本部に戻った。

 入口にはニアが待っていた。


 ニアは俺におぶられるクシャシーに敵意を向けていた。

 クシャシーは苦笑いしながらも降りようとはしなかった。


 俺とニアはクシャシーを医務室へ連れていき、ギルドへの報告を済ませた。



「やれやれ…パズズは逃がしたか…。

 でも、以前の依頼の討伐対象であるフェンリルは倒せたから結果オーライかな。」

 俺はニアとナポリの魔道具屋へ来ていた。


 ナポリが帝国との商談に行ってる間、店番をニアに頼んだらしい。

 俺はニアに無理矢理連れてこられた。


「んふふー♪︎ご主人様ー♪︎」

 ニアは俺の腕に抱きつき上機嫌だ。


(確かに悪い気はしないさ。

 でも、童貞の俺はちょっと引くよ…!

 ご主人様とか言われても、エロゲの中とかでしか知らないよ!)

 俺は平常心を装いながら少しずつ腕を引き抜こうと試みるが、ニアは離さない。


 すると連絡用のタリスマンが反応する。

「はい、神威です。」


『この度は、魔人フェンリルの討伐お疲れ様でした。

 ギルド本部は神威様の今までの功績を称え、異例ではありますが神威様を無条件でのSランク昇格を発表致しました。

 神威様は今後Sランクとして活動して頂きます。

 益々のご活躍を期待しております。

 つきましてSランク昇格の御祝いを伝えたいと言う方が面会を求められています。』


「御祝い?誰ですか?」

 俺はニアを見た。


 ニアは首を横に振るとタリスマンを見つめた。


『面会希望者は帝国騎士団長"シャイネス"様です。』

(やっと来たか!やっと帝国の最高武力と会える…!)


「騎士団長シャイネスさんですか。

 分かりました。」


『ではシャイネス様に了承をお伝えし、日時の擦り合わせが出来ましたら、また連絡させて頂きます。』


「分かりました。

 よろしくお願いします。」

 通信が終わり、タリスマンを仕舞うとニアが見つめてきた。


「ご主人様!!ついにSランクに昇格しましたね!おめでとうございます!!

 しかも、あの帝国騎士団長殿との謁見まで!

 流石ご主人様です!」

 ニアは興奮気味に足をバタバタさせた。


 俺は天井を見上げた。

(帝国騎士団長シャイネス…。

 どんな人物なのか…クシャシーの話では帝国最強の武を誇ると。

 あわよくば…。)




 *****




 その頃アーサー達は、途方に暮れていた。

 フォカロルは道端の小石を蹴りながら叫んだ。

「もぉぉぉ!なんなの!?」


 アーサーは「まぁまぁ」とフォカロルをなだめる。


「だってアーサー!腹立つじゃん!

 やっと変異種オーガと接触できて、捕縛まであと少しだったのに!

 変な黒猫のせいで逃げられちゃうし、挙句の果てに猫にまで弄ばれるし…。

 本当になんなのあの猫…。」



 *****



 姫達が変異種オーガを発見し接触する為に近ずいて行くと、突如として黒猫が間に現れた。


「猫?どこから…。」

 半蔵が捕まえようと近づくと。


「私に触るでない。

 私に触れていいのは私が認めた者だけだ。」

 猫は半蔵に捕まる前にするりと抜けた。


「喋った!ねぇ!捕まえてメフィストへのお土産にしようよ!!」

 フォカロルは目を輝かせて猫を見た。


 アーサーは溜め息を付きながら先を見る。

「今はそれどころではないでしょう。」


 オーガは姫達に気づき足早に走り出した。

「しまった!半蔵追って!」

 アーサーが半蔵に指示を出し、半蔵が影移動しようとすると猫が半蔵の影を踏む。

「行かせない。

 "シャドウ ブロック"、あのオーガは私の配下だ、今は必要な情報を集めさせているのだ。

 邪魔をするでない。

 お前達の主にならば、すぐに理解すると思うが?」

 半蔵は影に潜れずにいた。


「神威様を知っているのですか…。

 分かりました、今は引きましょう。

 しかし神威様に確認し、継続の場合は容赦はしませんよ。」

 アーサーから殺気が放たれる。


「流石はかのアーサー王、理解が早くて助かるぞ。

 小僧に伝えよ、まだ遊びに行くと。」

 そう言うと黒猫は姿を消した。




 *****




 アーサーから連絡が入り話を聞いた。

「なるほど、分かった。

 今は引いてくれ。

 すまないな無駄足を踏ませた。」



 アーサーとの連絡は終わり俺はベッドに大の字に倒れ込む。

(バアルの配下だったのか…今は情報を集めさせているって言ってたらしいな。

 それを俺に伝えろと。

 少なくとも俺に不利になる話では無さそうだ。

 むしろ、俺が必要になる話を集めているみたいだな…。

 次に来たら聞いてみよう。

 それにしても、中々情報って集まらないモノだな。

 ただの会社員にはここらが限界なのかな。

 ネットがあればすぐに調べられるのに。

 この世界では、スキルや魔法を使って地道に集めていくしかないか…。)


 俺は目を閉じ溜め息をついた。

「はぁ…ぶっちゃけ帰りたくはないが休みたい。

 むしろ何も考えずぼーっとしたい。

 でも今は俺がインビジブルの姫達を護らないと。

 情報の有無で勝敗は変わる。

 でも…はぁ…。」


 俺は色々考えていたつもりだが気がつくと眠りに落ちていた。




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