【偽りのEランク】

 ナポリが俺に向かって叫んでいる。

「やめるんだ!Eランクの君じゃ歯が立たない!そのモンスターの放つ力はSランクじゃなきゃ無理だ!!」

 ナポリは手を伸ばし俺を止めようとしているようだが、俺はナポリを気にとめず振り切り、モンスターに向かって行った。

(所詮、この世界の人間なんてこんなモノか…まだトリガーのプレイヤーの方が歯ごたえがあった。)


 半蔵は俺の動きに合わせてモンスターを抑えていた短刀を離し、距離を取った。


 俺はクリスタルガードが殴り掛かってくるのを体を捻りながら沈み込みかわした。

「究極剣聖"斬神剣(ざんしんけん)-水晶-"」

(斬神剣は属性毎にスキルの型があり、水晶はクリスタル系のモンスターに有効な攻撃スキルだ。これなら…!)

 剣をクリスタルガードの脇腹辺りから反対の肩に向かって斬り上げる。

 するとクリスタルガードの動きが止まる。

 

 俺は剣を鞘に仕舞い、肩のホコリを払う。


 その瞬間クリスタルガードの体は二つにわかれれ崩れ落ちるのを見届けた俺は振り返り、ナポリに向かって歩き出した。


「き…君はいったい…あんなモンスターを一撃で斬り伏せるなんて、並大抵のSランクでも無理だ…。

 帝国騎士団長かトップのSランクでも数える程しか居ないぞ…。」

 ナポリは肩を震わせながら地面に座り込む。


 俺は笑顔を作りナポリに笑いかけた。

「これで、護衛としては合格ですかね?今後ともよろしくお願いします。」

(これで立場はこちらが優位に立てた。

 一応、ナポリはギルドに顔が効くようだし、ナポリを使って名を広げれば様々な依頼がくるだろう。そうすればランクを上げるための実績も評価も集まる。利用させて貰おう。)


 倒したクリスタルガードの破片の中に淡く光る結晶を見つけフォカロルが拾い上げる。

「これは何かに使えるのですか?」

 フォカロルは拾い上げた結晶をナポリに見せた。


「これは…!魔導石!?魔石より高濃度の魔力を宿した結晶です!」

 ナポリはフォカロルから魔導石を受け取るとまじまじと見つめた。

「凄い…!稀に高ランクの鉱石系モンスターが体内に精製するらしく、闇ルートでも高値で売買される代物ですよ…!これがあれば、魔道具の性能も桁違いによくなります!!」

 ナポリは興奮気味に話している。


 

「奥にまだ気配があります。倒してきますか?」

 半蔵は横穴の奥を見つめ、ナポリを流し見た後、俺の方を見つめた。


「依頼主はナポリさんだ。ナポリさんの判断にお任せしよう。

 俺から言える事は、あの程度のモンスターなら敵ではありません。」

 俺はナポリを見た。


 ナポリは座り込み魔導石を抱え、こちらを見上げた。

「大丈夫なのですか!?…でも、魔導石が手に入るならお願いしたい…お願いします!魔導石を!」


(欲に飲まれたか。こうなれば後は簡単に操れる。)

「わかりました。では…フォカロルと半蔵はナポリさんをここで護衛。アーサーは着いてこい。」

 姫達が返事をすると俺とアーサーは横穴の奥に入って行った。



「何故、トリガーの世界のモンスターがここに居るのか…調べてみる価値はありそうだな…。」

(俺達がこの世界に来た事と関係があるのか?それとも偶然なのか…でも…。)


 拓けた場所に出ると無数のクリスタルガードが犇めいていた。

「どちらにせよ今は飯の種だ。排除するぞ。」

 俺はアーサーに後方待機させた。

「あのイベントの時は俺が後方で指示をだしていただけだったが、今は違う。」


 俺は剣を地面に突き立て両手に魔力を集め手を合わせる。

「究極魔導師 "ルナティック=カルタシス"!」

 手を打ち鳴らすと赤い光が俺を中心に輪を作り広がってクリスタルガード達を包み込んでいく。


 光に包まれたクリスタルガード達は次々と崩れ落ちていく。


「こんなモノか。」

 辺り一面に砕けたクリスタルガードから発生した魔導石が落ちていた。

「さて、回収して戻るぞ。」


 俺とアーサーは魔導石を回収してナポリのもとまで戻った。



「こんなに!!これを本当に僕が貰っていいのですか!?」

 ナポリは目の色を変え興奮している。


 俺は笑いかけた。

「構いませんよ。ただ…これから、俺達がSランクに上がる為に、色々協力して頂ければ。」


 ナポリはポカンとしている。

「そ…それだけでいいのか?」


「ええ。我々は傭兵部隊インビジブルの名前を広めたいのです。まだ見ぬ強者に会うために。」

(この世界に他のプレイヤーがいるのなら、急に名前が売れた、神威と言う名を怪しむはずだ。

 ガチャ当選者はきっとイベントのランカー達だから殆どのプレイヤーと面識はある。

 インビジブルが俺の部隊だと気づけば、プレイヤー達なら手を引くはず。

 仮に仕掛けてきたとしても、俺達なら負ける事はない。

 ただ気をつけないといけないのはこの世界の住人で俺達に傷を負わせられる程の力を持ったヤツらがいた場合だ。

 プレイヤー達がそいつ等と手を組んだりしたら厄介だな…。

 早めにランクを上げて、騎士団長やSランクの傭兵達と繋がりを持たないと…。)



 ナポリは魔導石を袋に詰め込み大事そうに抱えている。

 俺達はレインに戻る事となった。



「では頼みますよ?」

 ギルド本部前でナポリは魔導石を1つ抱えている。

「分かっています。

 今回現れた正体不明のモンスター退治を報告して、僕がギルド評価に情報を伝えます。

 恐らく今回の件でBランクは確実なので、魔導石の発見も報告しAランクに推薦します。」


「宜しくお願いします。上手くやって下さいね。では、我々はここで。」

 俺は頭を軽く下げると宿に戻った。



「恐らくはナポリではこれが限界だろうな。」

 俺はベッドに腰掛け腕を組んでいた。


「あの方をどうされるのですか?上手く事が運びAランクになったとしても、まだSランクには遠いですよ?」

 アーサーは椅子に座り足をブラブラさせている。


 半蔵は短刀や忍具の手入れをしながらアーサーを見た。

「不要となれば殺してしまえばいいのでは?」


「まぁ利用できるだけ利用はさせて貰うさ。

 いざとなれば"マインド マリオネット"の魔法で俺の傀儡として魔道具の調達や情報収集をさせるさ。

 魔導石でこの世界の金はたんまり持っているからな。」

(やりすぎかな?でも、俺の力がこの世界でも充分過ぎるほど通用する事は分かった。

 俺と姫達の力があれば世界征服もできるかもな!なんて。)


 フォカロルはベッドに寝転がりながら俺を見ていた。

「隊長様、悪い顔してますよ?僕はそんな隊長様の事も好きですけどね!」

 フォカロルは万遍の笑みを浮かべている。


「拙者だって!」

 半蔵がフォカロルの言葉に反応し立ち上がった。


「私だって!どんな隊長でも離れませんから!」

 アーサーが椅子からベッドにダイブして枕に顔を埋める。


「ははは。皆、ありがとう。

 この世界でも俺に着いてきてくれて感謝している。俺も皆が好きだ。」

 俺は余裕を見せてみた。

(余裕なんてねぇぇぇ!フォカロルも半蔵も何を張り合ってるんだよ!嬉しいだろうが!それにアーサーまで!なんなの!?俺は明日死ぬの?ねぇ!)

 悶えたいのをぐっと堪えて俺はベッドに横になる。


 部屋の中ではアーサーとフォカロルがじゃれ合い、半蔵が冷ややかな目で見ていた。

 俺は天井を見つめながら考えていた。

(帰り道でナポリから聞いた、この世界の創造神話…何かひっかかる…。)



 ーーーーー



 ナポリは魔導石を大切に抱えながら話している。

「この世界の創造は"光の女神"と"闇の女神"の争いから生まれたと言われています。

 光の女神と闇の女神は元々は仲が良く、1人の人間と過ごしていたそうです。

 女神が1人の人間を取り合い戦いが始まりました。

 しかし力は闇の女神の方が強く、闇の女神の勝ちだと思われていました。

 しかし人間が光の女神に味方すると、光の女神の力は増幅し闇の女神ごと大地を切り裂きました。

 闇の女神は悲しみに暮れて力を大地に流し、深い眠りについたのでしす。

 その姿を見た光の女神は、嫉妬に狂い闇の女神を傷つけた事を嘆きました。

 光の女神は闇の女神が流した力の大地に光の力を注ぎました。

 光と闇の力が混合し人々が産まれ、大地を豊かにしていきました。

 2人の女神の姿が見えなくなり自分のせいで2人が争った事に自責の念を抱いた人間は自分の血を注いだ聖杯を闇の女神が眠る地へ、傷ついた体を光の女神が眠る地へ分け、命を断ちました。

 ギザの森の南の谷は、女神の争いの時に光の女神が切り裂いた大地だと言われています。」



 ーーーーー



(2人の女神…。

 光の女神と闇の女神…きっとその2人が俺がこの世界に呼ばれた事と関係があるかもしれない。)

 俺は起き上がり姫達のじゃれ合いを眺めていた。



 ーーーーー



 夕飯を済まし、部屋でゴロゴロしているとタリスマンが光り出す。

「ギルドからか?はい、神威です。」


 連絡はギルド本部からだった。

『今回、ナポリ様の御推薦により神威様をAランクへと昇格させるにあたり、昇格試験を受けて頂きたく御連絡致しました。』


 俺はタリスマンをテーブルに置き、椅子に座った。

(一筋縄ではいかないか。でもナポリも一応やる事はやったみたいだな。)

「昇格試験?初めて聞きましたが…。」


『昇格試験といっても、簡単なAランクの討伐クエストに行って頂くだけですので、報告通りの実力を発揮して頂ければ問題は御座いません。』


「なるほど…わかりました。」

(実力を疑われてると言う訳か…。)


『それでは明朝、ギルド本部にて試験内容をお伝え致しますのでギルド本部の受付にお声掛け下さい。』

 ギルド本部との通信は切れた。



 俺は左の親指を触る。

(偽りの弱者の指輪があれば測定されても本来の10分の1程度しか感知はされない。

 後はどんなモンスターがきて、どこまでのスキルや魔法を使うかだな…。

 スキル無しで戦う事も視野に入れて置かないと…。)

「こんな時に訓練所に行ければな…。

 "テレポート"は近場の瞬間移動なら可能だけど距離がある場所は行けないからな…。

 あれ?この展開って…!」


 案の定、"絶対なる創造主"が発動していた。


 獲得スキル

【空間転移】

 離れた場所に転移する事ができる。


「やっぱり…。」

 俺は苦笑いを浮かべた。

「アーサー、半蔵、フォカロル。俺は少し訓練所で剣を振ってくる。何かあったら直通で連絡してくれ。」


「今からですか?自軍までは距離があるかと…。」

 アーサーは窓の外を眺め、外が暗くなっているのを確認すると首を傾げる。


「大丈夫だ。"空間転移"」

 俺は目の前に出現したゲートに入った。


「隊長様が消えた!隊長様すげぇ!」

 フォカロルは瞳を輝かせていた。



 ーーーーー



 俺は自軍の隊長室に転移していた。

「便利なスキルを獲得したな…。ルシファー!ルシファー居るか!」

 俺はルシファーを呼んだ。


 少し待つと足早に近づいてくる足音が聞こえた。


「神威様!?…失礼しました。

 隊長、いつお戻りに?

 レインにて情報収集に行かれてたのでは?」

 ルシファーは咳払いをしながら、切れた息を整えた。


「驚かしてすまない。"空間転移"のスキルを獲得したから、訓練所を使いたくて戻ってきた。

 ルシファー、少し相手をしてくれるか?

 魔法やスキルを使わず純粋な剣だけの手合わせだ。」

 俺は腰の剣に手を添えた。


 ルシファーは少し考えているようだ。

「剣ですか…。私は近接戦闘型ではないのでアーサーやジャンヌのように上手く立ち回れるか分かりませんが?」


「アーサーやジャンヌなら確かに剣や槍の扱いは最高ランクだが、究極剣聖が常時発動している俺とはステータスが違いすぎる。

 対等に近いステータスはルシファーだけだから、ルシファーの戦闘での動きが参考になるかと思ってな。」

 俺は机の上に置かれた資料を手に取る。

 資料には姫達のステータスが書かれている。

 ステータスの変動があれば自動で書き換えられる。

 ゲームの世界だったら触れるだけで画面表示されたが、この世界では紙に書かれている。


「分かりました。私でお役に立てるなら、喜んでお相手させて頂きます。」

 ルシファーは深々と頭を下げた。


「じゃぁ訓練所に行くか。」

 俺はルシファーと隊長室を出て訓練所に向かった。



 訓練所に向かう廊下を歩いていた。

「ルシファー。さっき俺の事、神威って呼んだよな?」


「申し訳御座いません。

 軽はずみに主である隊長の御名前を呼んでしまうなんて…。」

 ルシファーは申し訳なさそうにしている。


「いや、責めてる訳じゃない。

 姫達は皆、隊長と呼ぶから新鮮で嬉しかったんだよ。

 よければ、これからは神威と呼んでくれ。」

 俺はルシファーに笑いかけた。

(この世界に俺のリアルの知りあいは居ない。

 俺の存在はトリガーの世界の神威だ。

 でも、名前を呼ばれるのがこんなに嬉しいなんて…。リアルの存在が薄れてるのかな?

 俺にとって今はこの世界が現実だからな…。)


 ルシファーは口元を隠しながら歩いている。

 俺はぼんやりしながら歩いている。


 気がついたら訓練所の前まで来ていた。



「さて。じゃぁお手柔らかに頼むよ。互いに自動回復付きだから、ある程度は本気でいけるが、俺を殺さないでくれよ?」

 俺は剣を引き抜き、両手で構えた。


「ふふふ。この世界で神威様を倒せる存在など居ませんよ。」

 ルシファーは壁に掛けてあった、剣を手に取り軽く振った。


「いざ!」

 俺はルシファーに向かって駆け出した。





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