【第一章】世界と魔王 編

【傭兵部隊インビジブル始動】

 隊長室で装備ボックスを漁っていた。

「ゲームでは使う事の殆どなかった指輪が…確かこのあたりに…。

 ボックスの中身が空間に保管出来て意識すれば取り出せるようになれば便利だよなぁ…。」

 そんな事を呟いていると、"絶対なる創造主"が発動する。

「今のタイミングで!?相変わらず発動条件が分からない…。」


【支援スキル "空間共有"】

 アイテムを空間にしまって置く事ができる。


「か…獲得しちゃった…。

 本当に何でもありだな…。」

 俺は頭をかきながら空中にゲートを開き指輪を取り出した。


「あった…"偽りの弱者の指輪"これを装備すれば、感知系魔法とかスキルで見られても本来の力の10分の1程度の力しか相手には見えない様にする指輪。

 ゲームの世界では俺の名前が売れ過ぎて装備しても意味がなかったけど、この世界なら用心の為に装備しとけぱ、今後は動きやすくなる。」

 俺は指輪を左手の親指に装備した。


「よし!ラクシス帝国のギルド本部のある"都市レイン"に向かうか。」



 ーーーーー



 俺達は都市レインに向かった。

 ギザの森を抜け、アローニャ村にトリスタンとベディヴィアを送り届け整備されていない街道を進んだ。

「この辺りに出現するモンスターはゴブリンやオークみたいな低レベルのモンスターみたいだな。

 ギルドに所属する冒険者や傭兵が依頼を受けて巡回して、街や村にモンスターが近寄らないようにしているのか。」

 現れるモンスターを切り捨てながら進んでいた。


 俺は見ているだけだけど。


 半蔵が遠くの敵を感知して、先頭に立ったアーサーが切り込み殆どのモンスターを一掃する。


 後衛のフォカロルは俺が指示をしないと攻撃をしない。

 ただ、俺に危害を加える危険のある敵には容赦なく魔法を撃ち込む。

(傍にいると自動迎撃してくれる感覚だな。)


 俺達は都市レインの外周まで辿り着いたが、入口では入退管理所に列を作っていた。


 俺達は審査の時に身分証がなく、怪しまれたがアーサーのスキル"帝王の瞳(エンペラー アイ)"でやり過ごし、ギルド本部で登録も済ました。

 ギルドに管理されるにはランクがあり、実績や評判でランクが上がっていくらしい。

 俺達は最低ランクのEランク。


 頬を膨らませアーサーが不貞腐れている。

「まぁ無名の傭兵部隊だからな。

 これから名前を売っていけばいいさ。」

 俺はアーサーの頭に手を置き、優しく叩く。

(隊長特権万歳!)


 まずは都市レインの中を軽く探索する事にした。

 困っている人に話を聞いて依頼をギルドに報告するのもEランクの仕事らしい。

 それが、報告者のランクでもこなせる様な依頼なら優先的に発注される。

 報告者のランクでは厳しいと判断された依頼はギルドから依頼者に連絡が入り、ランクの擦り合わせが行われる。

 その場合、報告者には報告料として少額だが謝礼が支払われる。

 ランク事に、依頼料も変わり、上のランクにいくほど高くなる。

 その代わりに依頼の内容も難しく、命に関わる依頼もあるようだ。


「それにしても、街の造りはトリガーの世界に似ているな…。やっぱりトリガーの延長世界なのか?」

 俺が街を見渡していると。


 路地の隅にうずくまる老婆を見かけた。

 するとアーサーは駆け寄り声を掛けていた。

(余り目立つ行動はやめて欲しいな…。

 ただでさえ、装備や姫達の外見の関係でEランクのクセにとかってギルド本部でも嫌な目で見られたし。)

「アーサー。どうした?」

 俺は老婆の背中をさするアーサーに声をかける。


「勝手に動いてごめんなさい。

 この女性が薬を忘れてしまったみたいで、街中で発作が起きて苦しんでいるらしく。」

 アーサーは老婆を心配そうに見ていた。

(アーサーは正義感が強い。

 優しいのはいい事なんだけどな。)

 俺は老婆の横にかがみ、声をかける。

「大丈夫ですか?宜しければ、我々が家まで送って行きましょう。」


 老婆は声にならない声でお礼を言うと、俺の背におぶさった。


「隊長様が背負わなくても…。」

 フォカロルは頬を膨らませている。


「大丈夫だ。それに隊長が率先して動けば隊のイメージアップに繋がる。」

 俺達は老婆の案内で街の隅にある小さな家に着いた。


 家の扉をノックすると中からと女性がでてきたから、事情を説明して老婆をベッドまで運び薬を飲ませた。


「なんとお礼を言っていいのか…。」

 女性は深々と頭を下げる。


「いえいえ。

 我々はギルドに登録したばかりでランクが低いので街中を回りご用聞きをしていただけなので。」

 俺は手で制して頭を上げさせた。


「ギルドの…。

 ではご迷惑で無ければ、ちょうどおばあちゃんが行こうとしてた場所への届け物を頼めませんか?」

 女性は老婆が持っていた包みを手に取った。

「ご依頼を頂けるなら逆にありがたい。

 ではギルドの方に連絡を取りますので少々お待ちください。」

 俺は腰袋から小さなタリスマンを取り出した。

 ギルドから支給された、連絡用のタリスマンだ。


 タリスマンを起動させギルドに連絡した。

 ギルド本部から認証がおり、正式に依頼として受理された。


「お待たせしました、ギルド本部に受理されたので、ご依頼お受け致します。」

 俺は女性から包みを受け取ると地図も一緒に受け取った。



 地図に描かれた場所に向かう。

「隊長殿が何でこんな小間使いの様な事を…。」

 半蔵は腑に落ちないと言わんばかりに歯ぎしりをする。


「暫くは仕方ないさ。

 出来れば早く上のランクに行きたいが、そう都合よく実績を得られたり評価が上がる事なんてないさ。積み重ねていくしか今はない。」

 俺は溜め息をつきながら先に進んだ。

「目的地はどうやらこの先の角を曲がった所のようだ。」

 俺達が角を曲がると目の前には小さいが立派な魔道具店が建っていた。


 俺達が魔道具店に入ると奥から声が聞こえた。

「いらっしゃいませー!」

 店の奥から青年が顔を出す。

「ん?初めて見る顔ですね。

 いらっしゃい。

 どんな道具が入り用ですか?」

 青年はエプロンで手を拭いながら歩いてきた。


「いや。我々は依頼を受けて荷物を届けに来ました。ナポリさんはいらっしゃいますか?」

 俺は包みを見せた。


 青年は不審者を見るような顔をした。

「ナポリは僕ですが…。」


 俺は事情を説明し、ギルドの正規の依頼だとギルド登録証を見せた。


「なるほど。祖母を助けてくれてありがとうございます。確かに荷物は受け取りました。

 ギルドには僕から報告を入れておきますね。」

 そういうとナポリはレジ棚に置かれたタリスマンでギルドに連絡を入れた。


「ギルド傘下のお店なのですか?」

 俺はナポリが連絡を終えると話しかけた。


「はい。元々ギルド所属の冒険者だったのですが、祖母の薬を入手しやすくなるように魔道具店を始めたんです。

 一応、ギルド所属時代はBランクの冒険者だったので色々な繋がりもあり、ギルドに出資をしてもらい、店を構える事が出来ました。

 小さな店ですが、なんとかやらせて貰っています。」

 ナポリは鼻をかきながら照れくさそうにしている。


「立派な事じゃないですか。我々の先輩に当たるのですね。

 我々は"傭兵部隊インビジブル"。そして私が隊長の神威です。

 まだ登録したばかりのEランクですが、ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い申し上げます。」

 俺はナポリに軽く頭を下げる。


「Eランク…ですか…?失礼ですが、貴方方の装備を拝見させて頂くと、Sランクの冒険者よりも希少な見たことも無い装備をされているようだったので…。」

 ナポリは俺達をじっと見つめた。


「我々はこの大陸の出身では無いのです。

 我々の世界ではそれなりに名がある傭兵部隊だったのですが、この地ではまだ無名なので。」

 俺は苦笑いを浮かべながら話を合わせる。


「なるほど。では、今後うちの店からの依頼を名指しで依頼しても宜しいですか?薬草の採集や、道具の仕入れの護衛をお願いしたいのです。」

 ナポリは店の商品を俺達に見せた。


「ギルドから認証がおりるならお受け致しますよ。では我々はこれで…。」

 俺達は店を後にした。


(ナポリか…注意した方がいいのか?ボロを出さない様に気を付けないとな。

 まぁ利用できるようなら、させてもらうとするさ。)



 俺達はギルドに用意された宿に行った。

 ランク毎に宛てがわれる宿も変わるらしい。

(ハッキリ言って今の宿は居心地がいいとは言えないな。)


 ランク毎に色々優遇が変わるらしいがまだEランクの俺達には詳しくは説明してくれなかった。


「暫くは同じ部屋での寝泊まりになりますが、お邪魔にならないように気をつけますね!」

 アーサーは横のベッドに腰掛けている。


「気にするな。アーサー達、姫達が居てくれる事が邪魔になる訳が無い。」

 俺は冷静を装う。

(姫達と同じ部屋で寝泊まりとか!!この宿最高!?ランクが上がったら別部屋とか用意されるのかな?あぁぁせっかくアーサーと同じ部屋での生活が出来るのに!!)


「隊長殿。ルシファーに連絡を入れて置いては?」

 半蔵が俺を促した。


「そ…そうだな。"直通"」


 頭の中にルシファーの声が響く。

『はい。ご連絡お待ちしておりました。』


「遅くなってすまない。無事、都市レインに入りギルド登録も済ませた。」

 俺は今日の出来事を説明した。


『姫達が隊長と同じ部屋で生活ですか…。』

 ルシファーの声が低く感じた。

「姫達には悪いが、まだ別部屋を貰える様なランクじゃないのでな。暫くは我慢して貰うさ。」


 ルシファーに説明を終え、直通を切断した。



「さて。明日はギルド掲示板で依頼を探してみるか…。」

 俺達は眠りに着くことにした。



 ーーーーー



 次の日俺は寝不足だった。

 フラフラになりながらギルド本部に向かっていた。


「隊長様大丈夫ですか?」

 フォカロルが俺を心配して顔を覗き込む。

「だ…大丈夫だ。心配ない。」

 俺は自分を取り繕うと足早に歩いた。

(大丈夫な訳あるかぁ!姫達の寝息が聞こえる空間で寝れる訳ないじゃん!横を向けばアーサーの寝顔があるし…!やばいな早く別部屋を貰うまでランク上げないと…。)



 そんな事を考えながらギルド本部の依頼掲示板の前まで来た。

「Eランクの依頼は…ここか…。」

 掲示板の隅に張り出された依頼書。

 あるのは、失せ物探し、届け物、お使いの代行。

「まるで子供の小遣い稼ぎだな…。」

 俺は依頼内容に目を通したが目ぼしい依頼が見当たらなかった。


 すると、受け付けの女性が近ずいてきた。

「神威様。ご指名での依頼が届いています。

 ご確認くださいませ。」

 女性は依頼書を俺に差し出した。


「指名での依頼?依頼者は昨日のナポリさんか。

 依頼内容は…道具作製にあたり、材料調達の護衛か。」

 俺は依頼書に目を通し、姫達に説明したら姫達は俺に任せるとの事だったので、俺は依頼を承諾し、正式に受理された。


 俺達は待ち合わせ場所であるレイン入口にある石像広場にやってきた。


 俺達が辺りを見渡していると石像の下でナポリが手を振っていた。

「お待ちしてました!昨日の今日で申し訳ないのですが、本日は護衛を宜しくお願いします。」


 俺は軽く頭を下げる。

「こちらこそ指名の依頼を頂きありがとうございます。期待に応えられるよう、尽力致します。」

 姫達も頭を下げる。


 ナポリは慌てた様子で苦笑いを浮かべる。

「そんな畏まらないで下さい!祖母を助けて貰った恩義があるのはこちらなんですから。

 では、今日行くのは青の洞窟と言われる魔石の採掘場です。

 魔石は魔道具に多様されるので、直ぐに在庫が無くなるんですよ。

 神威さん達さえよければすぐにでも出発したいのですが…。」


「私達は大丈夫ですよ。いつでも行けます!」

 アーサーが元気よく応える。


「では行きましょうか。よろしくお願いいたします。」



 ーーーーー



 ナポリに案内され青の洞窟付近にある小さな湖のほとりまで来た。

「機械国との国境にある、魔狼山脈の麓にあるのが青の洞窟です。入り口はラクシス帝国にあるので、もうすぐですよ。」

 ナポリが指差す場所に武装した兵が見える。

 見た感じ正規の軍では無いようだ。

「あの兵は?」

 恐らくギルドの傭兵だろうと分かってはいたが質問してみた。


「青の洞窟はギルドが管理する場所なんです。

 なのでギルド発行の通行証がないと入れないんですよ。

 モンスターの発生や機械国と繋がっているため、危険も伴うので一般人が入り込まないように、ギルドから派遣されたDランクの人達が見張りをしているのです。」

 ナポリは見張りに挨拶すると兵達は道を開けた。

「僕はもう顔パスですけどね。」

 ナポリはにこりと笑うと奥に進んで行った。


 足場も悪く壁に埋め込まれた発光のタリスマンが照らしては居るが見通しが悪い。

 ナポリは慣れた様子で先に進んでいく。


「あれ?ちょっと待って下さい。こんな横穴前は無かったのに…数日前の地震で崩れたのかな?」

 ナポリは暗闇の続く横穴を発見した。


「どうされますか?探索してみると言うなら護衛としての役目を果たさないといけませんので着いていきますが。」

 内心、面倒な事になったと思いながら横穴の入口をタリスマンで照らす。


 すると穴の奥からこちらに向かってくる物音がした。

「隊長殿!ナポリ殿!お下がりください!」

 半蔵がいち早く反応し、何かを短刀で受け止める。


「なっ…!」

 ナポリは後退りながら驚いている。


「このモンスターは…。」

 タリスマンに照らされたモンスターを見て驚いた。

(トリガーの世界にいた"クリスタルガード"!?期間限定イベントの時のアイテムドロップ討伐対処じゃないか!?なんでこんな所に!)


「こんなモンスターは見たことがない!?この地に眠っていたのか…?」

 半蔵が抑えるモンスターを凝視しながらナポリは後ずさる。


(力を見せるべきか…一応、姫達にはこの世界の人に扱える位のスキルのランクや魔法のランクに合わせるように言ってあるが…。)

 俺は剣に手を掛けながら考えた。

「ナポリさん、勝てそうですか?」

(やはり俺自身の力を見せつけておくべきだな。

 傭兵部隊の隊長の評価が部隊の評価を引き上げる!まぁあくまで、この世界の強さ基準だが。)


「僕じゃ勝てない…!力の桁が違いすぎる!」

 ナポリは後ろの壁にくっつき震えている。


 俺は小さく溜め息をついた。

(この程度も倒せずBランクか…この世界の人間のたかが知れたな。)

 俺は腰から剣を引き抜きアーサーとフォカロルにナポリを守るように指示を出した。

「では下がって下さい。俺が倒します。」

 俺はクリスタルガードに向かって走り出した。




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