【Aランク昇格試験】

 暫くの間、ルシファーと手合わせをしていた。

 現実世界なら卒倒し動けなくなるような傷も不思議と我慢できた。

 精神的にトリガー世界の隊長の神威として慣れてきて居るのかもしれない。

 それと無限体魔力の効果で、傷もついた傍から治っていく。



 俺の剣閃が空を斬り、振り抜いて体が流れた所に、ルシファーの剣が置かれている。

 ルシファーがそのまま振り抜くと、俺の脇腹から血が吹き出した。

 俺は後方へ飛びのき体勢を立て直そうとしたが、目の前にはルシファーが次の剣撃に備えていた。

 脳天に振り下ろされる剣を何とか防ぎ、ルシファーに蹴りを入れ後方へ吹き飛ばしたがルシファーはそのまま回転し着地した。


「神威様は型にハマった正規の剣術よりも、腕や足を組み込んだ剣術の方が向いているようですね。」

 ルシファーは剣を鞘に仕舞い、白く長い髪を掻き上げる。


「トリガーの世界では基本的に姫達に戦闘は任せっきりだったからな。

 自分が実戦となると、やはり難しい物だな。

 だが、究極剣聖のお陰か何となくだが体の動かし方は掴めたよ。ありがとうルシファー。」

 無限体魔力により、脇腹の傷は回復し消えていた。


「さて、そろそろ宿に戻って明日の昇格試験に備えないとな。」

 俺は剣を鞘に納めると、剣を空間共有でゲートに仕舞おうとして手を止めた。

「一応、何があるか分からないから剣はしっかりした物を装備しておくか…。

 属性は炎にしておくか、色々汎用性が高そうだ。」

 ゲートから剣を取り出し、入れ換えると、取り出した剣を眺めた。

(【レーヴァテイン】世界樹イベントの時の1位報酬で手に入れたトリガー内の炎属性最強武器。この剣を手に入れるのにどれだけ苦労したか…。登頂タイムアタックだったから、有休使って一日中マラソンしたっけ…。)

 俺は手に入れた時のことを思い出しながらレーヴァテインを腰のホルダーに差し込んだ。


「それがトリガーで世界樹を制した者の証、レーヴァテイン…、アーサーのエクスカリバーに並ぶ名剣ですね。」

 ルシファーは剣を壁に戻すとこちらを向きレーヴァテインを見つめた。


「エクスカリバーは光属性での最強武器。

 しかし姫であるアーサー専用武器だからな。

 アーサーがエクスカリバーの本来の性能を解放すれば、ルシファーにも引けは取らないだろう…でも、それは出来ない。

 エクスカリバーの解放は一度きりだからだ。解放すれば絶大な力をアーサーに与えるが、アーサーが倒れる又は相手を倒す事で効果は消えてエクスカリバーは消滅する。

 レーヴァテインは隊長が装備できる炎属性の最強武器。トリガーの世界で最強と言われる属性武器は全部で5本。他には都市伝説程度の噂だが、無属性の最強武器があるらしい。

 誰も見た事がないのだが、噂だけが広まっていたな…本当にあるのなら、コレクターとして手に入れたかったな…。」

 俺がレーヴァテインを引き抜き剣身を見つめると、ルシファーは黙って何かを言いた気に俺を見ていた。


 俺はレーヴァテインを鞘にしまい、ルシファーに感謝を告げゲートを開く。

「たまには我儘を俺に言ってくれ。

 君が何を遠慮しているのかは分からないが、俺にとって、全ての姫達が大切な存在だ。

 もちろん、君もだからな?ルシファー。」

 俺はそのままゲートに入って行った。



「神威様…私は…。」

 ルシファーは神威の後ろ姿を見つめていた。

 神威がゲートに入り消えた後もその場を見つめていた。



 ーーーーー



 俺が宿に戻ると部屋は暗く、半蔵は壁にもたれ掛かり、フォカロルはベッドの上で腹を出して寝ていた。

(半蔵は下手に近ずくと起きそうだな…フォカロルは布団を掛けてやるか。)

 フォカロルに布団を掛け直し、アーサーに目をやると、アーサーが布団を頭から被りベッドの上に座っているのを見つけギョッとした。

「おっ…起きてたのかアーサー。」

(一瞬見てはいけないモノかと思って焦った…。)


「おかえりなさい隊長…遅かったですね。」

 布団が邪魔で暗くて表情はよく見えないが、声から察するに拗ねているようだ。


「ただいまアーサー。色々収集はあった。この世界で、俺はまだ強くなれる事が分かったよ。」

 俺はアーサーの隣に腰掛けるとアーサーは俺の方を向き鼻を近づけた。

「そうですか…隊長からルシファーの匂いがします。ルシファーと会ってたんですか?」


 俺はドキドキしながらも、ルシファーに剣の鍛錬をお願いしていたと説明した。


「剣の鍛錬なら私でも…。」

 アーサーは口を尖らせ拗ねている。


(いちいち可愛いなぁ!なんなんだ?)

「確かに剣の腕前ならアーサーの方が上だろう。でも、実戦に近い鍛錬となると互いに傷を負う事になる。

 俺は無限体魔力があるから自動回復できるが、アーサーは違う。

 それにアーサーは斬撃耐性はあるが自動回復スキルは持たしていないから、俺の攻撃で傷ついていく君を見たくなかったんだ。ルシファーは斬撃耐性があるし自動回復スキルも持っている。だから本気で戦っても剣撃だけなら、まずダメージは入らない。だから今回はルシファーに頼んだんだ。」

 俺はアーサーの頭に布団の上から手を置いた。

「不服だったか?もし、次にスキルも要した剣術の鍛錬の時はアーサーに頼むよ。頼まれてくれるか?」


「私は隊長となら傷を負っても構いません。隊長にならこの命を差し出せます!全ての姫達が隊長を慕っているのは知っています…ですが、私だって隊長のお側に居たい!私でもお役に立てる事があるなら、何でも言って下さい!」

 アーサーは潤んだ瞳で俺を見つめてきた。


 俺は唾を飲む。

「俺は…アーサーには絶対に死んで欲しくないんだ。確かに姫達は大切な存在だ。でも俺にとってアーサーはとくべ…」

 俺が言いかけるとアーサーの人差し指が俺の唇を塞いだ。


「隊長、ありがとうございます。

 ですが、姫達全てに隊長のお気持ちを注いで下さい。私も我儘が過ぎました。今の言葉だけで私は幸せです。」

 アーサーは俺の肩におでこをよせた。


「アーサー…。」

 アーサーから寝息が聞こえる。

(眠い中待っててくれたのか。アーサーだけじゃなく姫達、個人個人をしっかり見ていないとな…。)

 俺もそのまま眠りについた。



 ーーーーー


 翌朝、フォカロルの腹へのタックル(抱擁)によって起こされた。

 アーサーは先に起きて難を逃れたらしい。


 俺も起こしてくれればいいのに。


 俺達は支度をしてギルド本部へ向かう事にした。



 俺達がギルド本部に到着し中へ入ると他の冒険者や傭兵達の視線が集まる。

(いきなり現れた正体不明の傭兵部隊が登録してすぐにAランクになればやはり注目も集まるか…それに加え、姫達の外見も相まって嫉妬の視線が痛いな。

 …いい気分だ!!!!!リアルの世界では俺もリア充共に同じ視線を送っていたさ!でも、今は俺がリア充だ!!)

 俺は周りを見渡して内心勝ち誇りながら、そのまま受付に進んで行った。



「Eランク 傭兵部隊インビジブル、隊長の神威です。Aランク昇格試験を受けに来ました。」

 俺が受付の女性に声をかけると女性はどこかに連絡を入れている。


「では、こちらの部屋でお待ち下さい。」

 女性に案内され俺達は応接室のような場所に通された。

「随分大層な扱いだな。ナポリの影響か?」

 そんな事を考えていると部屋にノックの音が響き、髭を生やした白髪の男とフードを被り面をした少女が入ってきた。


「お待たせしました。私はAランク統括責任者のクルトンと言います。」

 クルトンは俺達と対面のソファーに座って、少女はクルトンの後ろに立つようにソファーの後ろに回った。


「初めまして。我々は傭兵部隊インビジブル。俺が隊長の神威です。Aランク昇格試験の説明をして頂けると聞いているのですが。」

(リアル世界での取引先に行った時みたいな気分だな…癖で名刺交換でもしたくなる。でもあの頃と違うのは、俺には力がある。それにいざとなれば、アーサーの帝王の眼が…。)


「今回は、インビジブルの皆さんというより、隊長である神威さんのランク適正を見たいのです。」

 クルトンが手元のバインダーを俺に差し出すと、俺はバインダーを受け取り書類に目を落とした。

「"Aランク以上の依頼の受注は部隊の全員がAランク以上の実力を要していなくても、受注は可能。

 但し、受注者となる代表者には受注する依頼のランクが必要となる。"

 なるほど、つまり隊員達の実力は不問…ただし、依頼の最中に何か起きても受注者である隊長の責任でギルドは関与しないと。」

 俺は書類に目を通し、クルトンを見た。


 クルトンは顎髭を触りながらふてぶてしく答えた。

「簡単に言えばそういう事です。Aランク以上になれば、死と隣合わせの依頼も多数存在します。なので受注の際にメンバー編成、任務中の判断、隊長としての実力が必要になります。なので、Aランク昇格試験は神威さん個人の適正試験になりますね。」


「分かりました。それで?試験内容は?」

 俺がバインダーをクルトンに返すとクルトンは眉をしかめた。

「大変自信があるみたいだが、Aランクはそんなに甘いランクではない!今までAランクになれたがすぐに命を落とした者も多い!君のような思い上がり甚だしい者は…」


 俺はため息をつき、クルトンの言葉を遮った。

「御託はいいんだ。内容の説明を頼みます。」

 俺がクルトンに殺気を向け威圧するとクルトンは汗が噴き出し、クルトンの後ろの少女は剣に手を添えて警戒した。

「俺は試験を受けに来たんだ。争いや、御託を聞きに来た訳じゃない…俺だって暇ではないんだ。」


 クルトンは汗を拭い、慌てたように別の書類を取り出してサインを求めてきた。

「こ…今回の昇格試験はAランクモンスターの討伐です!ただし部隊で、ではなく神威さんと私の後ろに居るAランク冒険者の"ニア"の2人で行って貰います。ニアは神威さんの部下役兼試験官です。戦闘では神威さんの指示で行動しますので、Aランクの隊長としての判断が必要となります。では、こちらの書類に受注のサインを。」


 俺は書類を受け取り、サインをするとニアの方を向いた。

「よろしく頼むよ。改めて、俺は神威だ。」

 俺は立ち上がりニアに近づくと、握手を求めた。


 ニアは軽く手を差し「ニアだ。」

 そういうと手を引っ込めた。


(素っ気ないなぁ…。最近は姫達にチヤホヤされ過ぎたせいで、女の子に冷たくされるとヘコむわ…ってかなんで俺、モテ男思考?ないわぁ…。)

「で?討伐対象は?」

 俺は自己嫌悪からか自分でも分かるくらい冷たい言い方をしてクルトンを見下ろした。


 クルトンはソファーに座ったまま呆然とこちらを見上げていたが、慌てたようにカバンを漁り出した。

「と…討伐対象は"Aランク下位モンスター コカトリス"です。今回の討伐はコカトリスの繁殖地が発見されたので、討滅戦となり…ます。」

 クルトンは小刻みに震え、目を背けながら書類を差し出した。


(コカトリスか…毒や石化のブレスに気をつけないとな。俺は毒耐性があるし、石化無効の指輪もあるけどニアはどうだろう?それもコチラからの情報収集で把握するのも試験の内か。)

「ニア。毒耐性は?石化無効の装備は所持しているか?」

 俺は書類からニアに目をやった。


「以前にメデューサを倒して石化無効の指輪を作ってある。毒は完全耐性ではないけど、所持はしてる。」

 ニアは仮面のせいで表情がよめない。


「そうか。俺はすぐにでも行けるが…。」

 俺はわざと躊躇う振りをしてみたが、やはりすぐに返事は返ってきた。


「そうか、ならば行こう。姫達は宿に戻れ。

 何かあればギルドからタリスマンで連絡がいく。」

 俺は腰のレーヴァテインを確かめた。



 ーーーーー



 ラクシス帝国の首都ラクシスの北側にある森林にコカトリスの繁殖地はあるらしい。

 俺とニアは互いのスキルを把握する為に、業務的な会話をしながら向かった。

(まぁ俺が提示する情報は2割だけどな。コカトリスの討伐ならそれで十分だ。)


 暫くすると森林が見えてきた。


 森林の周りには毒の沼が広がっていたが、魔法を使い道を作ると、ニアは当たり前のように進んだ。


(うーん…なんだかやりずらい…入隊したばかりの頃のジャンヌみたいだ…。好感度を上げて今では立派なヤンデレだけど。)


 そんな事を考えていると目の前に一体のコカトリスが現れた。

「でたか…どれくらいの強さかな。ニア!耐性強化魔法をかける!毒は気にせず攻撃しろ!ただし尻尾での攻撃は威力が高いから気を付けるんだ!」

 俺はニアに毒耐性強化の魔法をかける。

 無効化をかけても良かったが、手の内は少しでも隠しておきたい。


 ニアは頷くと自分にバフがかかったのを確認しコカトリスに向かって走り出した。


 コカトリスが毒のブレスを吐いたが毒耐性でニアのダメージは少ない…が視界を奪われる。

「風で飛ばす!そのまま進め!下位魔法"ウィンド"!」

 俺が手を振ると風がニアの周りを取り巻き、毒のブレスを吹き飛ばした。

 ニアは視界が開けると同時にコカトリスの頭上にジャンプすると剣を引き抜いた。


 標的を見失ったコカトリスは辺りを見渡していた。

 ニアは剣をコカトリス目掛けて振り下ろしたが、コカトリスはニアの攻撃に気づき尻尾を振り回し、尻尾の先がニアに向かっていった。


 ニアが剣の腹で尻尾を受け止めると後方へ吹き飛ばされるが身を翻し、着地した。

「すまない。今のは私の判断ミスだ。」

 ニアはコカトリスに剣を構え直した。


「大丈夫か?次くるぞ!」

 コカトリスが羽を広げると風が巻き起こった。


 強風のせいで、小柄なニアは動けずにいる。

「じゃぁ次は俺の攻撃だ。」

 俺はレーヴァテインを構えコカトリスに向かって走り出した。


 コカトリスは尻尾で突きを放ってきたが、俺はそれをかわしながら距離を詰め、コカトリスの側面に回り込む。

「羽さえ落とせば!」

 コカトリスの羽を斬り飛ばすと、コカトリスは雄叫びを上げながらよろめく。


「今だ!ニア!」


 風が止み動けるようになったニアに指示をだすと、ニアはそのまま走り出し、コカトリスの腹下に潜り込み剣を腹に突き立てた。


 コカトリスはバタバタ暴れているが、ニアは突き立てた剣を捻り振り抜いた。


 すると、コカトリスの腹から血が吹き出し、コカトリスは断末魔を上げながらその場に倒れた。


「お疲れさん。」

 俺は剣を仕舞いながら、ニアに笑いかけたが、ニアは反応を示さず、剣に着いた血を拭い鞘に仕舞った。


(愛想無さすぎだよ…。心が折れちゃうよ?基本的に俺はネガティブ思考なんだから…。)

 俺は頭をかきながらニアと森の奥を見た。



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