願いごとをたずさえて

ある日、お姫さまは庭園で苦しそうにしている王妃さまを見つけました。


「お母さま! 大丈夫ですか?! 」


慌てて駆け寄り、背中をさすります。

しかし……。


「触らないで! あんたなんか!! 」


容赦なく払い除けられ、お姫さまは勢い余って花壇に頭を打ってしまいました。


「あ、あたしのせいじゃない! あんたが触るからよ! 穢らわしい! 」


王妃さまの叫びに、使用人たちが慌てて駆けてきます。

頭から血を流しているお姫さまをよそに、王妃さまを気遣う使用人たち。

お姫さまは思いました。


───私はいらない子なんだ。


母親に『あたしの子じゃない』と言われ、使用人たちに手当もされないお姫さま。

ふらふらと立ち上がり、歩きだします。

無意識に裏門に向かっていました。

気に止める者などいません。

森に行く者などいないために、門番すらいない張りぼての形だけの門。

小さなお姫さまには少し重いかんぬき。

頭を打ち、めまいを起こしながらも必死に持ち上げました。


──ガタン!


支えきれず、落としてしまいました。

けれど、誰も来ません。

門を押し開け、ゆっくりと歩きだします。

胸にひとつの願いをたずさえて。

森に一歩一歩吸い込まれながら、頭の中で願いを繰り返します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る