王冠花くじら

お姫さまにただひとり、愛情を注いでくれた人がいました。

王子さまが亡くなった時に暇を出されてしまった乳母やです。

乳母やは色々なことをお姫さまに教えてくれました。

礼儀作法や考え方、そして、『王冠花くじら』。

お姫さまは乳母やが話してくれる『王冠花くじら』のお話が大好きでした。


───姫さま、『王冠花くじら』は4年に1度姿を現すのでございますよ。

裏門の先にある、あの大きな大きな森の奥深くに……。

人知れず願いを叶える夢クジラとも言われております。

切なる願いを叶え、消えていくのです。

『王冠花くじら』は、かつて人であったと言われております。

願いの代償が、『王冠花くじら』になることだと。


「乳母や、いなくなったら困らない? 」


───そうでございますね。

姫さまはお優しいですから、どなたかいなくなったら探してしまわれることでしょう。

……でもね、『王冠花くじら』になったらと言われているのです。


「いなかったことになってしまうの? ……さみしいね」


乳母やははらはらと泣くお姫さまを、泣き止むまで優しく撫で続けてくれました。


───『王冠花くじら』は誰よりもお優しいのです。

まるで……姫さまのように。

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