優しい王冠花くじら

どれくらい歩いたのでしょう。

朦朧とする頭ではわかりません。

気がつくと、小鳥のさえずりが優しく聞こえました。

眠っていたようです。


『目が覚めましたか? 』


頭に直接響く、軟らかな声。

ゆっくり起き上がると、目の前に王妃さまに似た面差しの女性がいました。

彼女にひざ枕されていたようです。


「ご、ごめんなさい……」


王妃さまの言葉が頭を過ぎ去り、慌てて離れ、下を向きます。

次に顔を上げると───。


「え? 」


空いっぱいに大きな丸いくじらが浮いています。

頭には王冠があり、お腹は透き通り、中では綺麗な蒼い花が咲き乱れいます。


「……『王冠花くじら』」


円な瞳が優しくお姫さまを見つめています。


『願いがあって来たのでしょう? 可哀想に、ボロボロになるまで辛かったでしょう……』


お姫さまは首をブンブン振ります。


『辛くは、ないのですか? ……ですね』


目を見開きます。


「……乳母や、だけに言われていました。です」


王冠花くじらはじっとお姫さまを見つめています。


「お願い、したら、私も『王冠花くじら』になれるんですか? 」


ただ王冠花くじらはお姫さまを見つめています。


『───ひとつ、物語を話しましょう』


おもむろに語りだします。

お姫さまは物語が大好きでした。

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