第15話 潜入開始

 ともかく「品切れ」POP《ぽっぷ》は効果が有って来た人の半分はそのまま引き返してくれたけど後の半分の人は「いつ入るの」「待ってたら入る?」中々諦めてくれない、ニュースでは店員に詰め寄る人も居るそうだからここはまだマシな方なんだろう。


 しばらくそうやって「売り切れました」を続けていたら美和ちゃんが早坂さんの手を取って戻ってきた。


「大丈夫ですか」

「ごめんね大変だったでしょ」


 僕の問いかけに美和ちゃんが代わりに、

「大丈夫じゃない、どうしても戻るって聞かないから閉店作業だけって事で連れてきた、ねえ誓明日私たちで店番やりましょ」

「良いけど」

「あっごめん、無理、バイト代出せないの今売れるのはマスクだけそのマスクも品切れ、お店閉めたいくらい、権限ないけど」


 僕と美和ちゃん目でアイコンタクト。


「マスク作らなきゃいけないんだけど家の中暑くて涼しい場所無いかなあ」

「そうかマスクか此処なら涼しくて作業がはかどりそう、早坂さんお店開けていても仕方ない状況なんですか?」


 美和ちゃんの問いかけに早坂さんは躊躇いながら、

「私バイトだから経営の事まで口出しできないけど、売れるのはマスクだけ今日なんてマスク以外の売り上げは5千円もなくて、明日からは誓君のマスク100枚だけよ」

「100枚!誓大丈夫?」

「丸一日作ってれば200枚くらいは作れると思う、ただゴムが無いんだって」

「ゴム、あのマスクに使う?」

「そうなの手作りする人が増えてゴムが品切れ、入ってこないのだからえーとあと何枚だった?」

「500枚分くらい」

「じゃあすぐ無くなっちゃうじゃない」

「無いものは仕方ないのいつ入ってくるかも分からないし」


 美和ちゃん頭をひねって、

「うちに有るかも、誓潜入しようここ終わってから」

「今日は潜入なんだ」

「ミキちゃんに言ってないから、いややっぱり電話しておく、誓がドーベルマンにかみ殺されちゃまずいからね」

「何?その物騒なお話」

「家に帰るのも命がけって事です、男の子を連れ込むんですから」

「連れて行かなければ?」

「好きな人が居るって見せておかないと婿取りの餌として監禁されちゃいます、私の姿が見えなくなったらそういう事です」

「小説かドラマになりそう」

「それでゴムが有ったら明日持ってきます、無くてもマスクここで作ります、私が作ると材料の無駄使いになるので私は監督」

「ありがとう、でも私何もしてあげられないけど」

「誓が元気になったお礼です気にしないで」

 

 

「ミッションゴム紐探し!」

「家に入ってほんとに大丈夫?」

「だから私とミキちゃん二人いれば天下無敵、誓に指一本触れさせないわ」

「いや僕より美和ちゃん、あの家に閉じ込められたら手が出せないよ」

「私なら大丈夫、下水管でも排気口からでも抜け出せる、サイボーグ008は殺しのなんとか スパイ大作戦!」

「なんかてんこ盛り、ってやっぱりサイボーグ」

 

 僕がそう言うと僕の手を取ってピタッ、自分の胸に押し当てた。

「わっ」

「どうサイボーグかな」

「ちちち、違います」


 そっと手を抜き取る。

「よろしい何時でも触って良いからね、時と場所をわきまえて」

 しっかりした言い方とは別に顔は真っ赤で目は遥か彼方を彷徨っている。


「え、えっと、、、ごめんなんて言っていいか、、、未熟者で、ごめん」

「いいよ、今から命がけ、生きて帰れたらもっといい事しよう」

「ほ、ほどほどにお願いします」


 命がけの筈が例の門に立ったら例のお手伝いさんミキちゃんが例のごとく、

「おかえりなさいませお嬢様、ご主人様」

 中から出てきたミキちゃんが深々と頭を下げて迎えてくれた。


 僕は「ご主人様ではありません」と言いたかったが美和ちゃんとミキちゃんはこの前と違ってバチっと音がしそうに目を合わせた。

(何が始まるんだ)


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