第14話 非常事態宣言

 非常事態宣言を総理が発表し更に休校が延長になった、せっかく学校へ行くつもりになったのに。


 それに困ったことが起きてしまった。

 今日ファンシーショップへ行ったらマスクは全部売り切れていた、ところが、

ちかい君マスク一万枚でも頼みたいんだけど材料が入って来なくてね、ハンカチは有るけどゴムが取っておいたこの二本しかないの、何枚作れる?」

「100メートルが二本だったら500枚は作れます、でも出来て一日50枚くらいですけど」

「500枚かじゃあ五日は持つね、一日100枚でお願いね」


 いつもはやさしいお姉さんなのに無理なお願いをサラッとしてくる。


「でも50枚から60枚くらいが限界です、勉強もしないといけないし」

「気が強くて力持ちの彼女が居るじゃない、私なんてバイト店長でこき使われて良い人に出会える機会もないのよ、彼女に手伝ってもらいなさい」

「確かに力持ちですけど裁縫はちょっといやかなり苦手なんです」

「太知さんてこのビルのオーナーの娘さんでしょ」

「えっと親戚って言うかちょっと複雑な関係みたいです」

「そんなに馬鹿正直に答えなくていいのよ余計気になるでしょ、親戚の子です、って言っておけば通じるの、根ほり葉ほり聞かれたら面倒でしょ」

「確かにそうですね」


 彼女はレジの代の下から用意していた材料を取り出して、

「今回は数が多いからハンカチは適当に数だけ揃えてるからこれはダメってのが有ったら次の時交換するね、それと今回は無理なお願いだから不良品以外は全部買い取ります、どうですか」

「はい、それで毎日持ってくるんですか」

「そうして貰いたいけど、電車でうつされたら大変だから業者さんに毎日集配してもらうわ、だから100枚くらいにしたいの送料掛かっちゃうから」

「そういう事ですか、じゃあ頑張りますけどたいっちゃんに来てもらう訳にもいきませんね、電車だから」

「そっか遠距離恋愛かあー羨ましい」

「一駅ですけど」



 こっちに来るのは美和ちゃんにも言ってた、一時に公園で待ち合わせをしていたけどその前にファンシーショップまでやってきた。

「こんにちは、要件が終わるまでこの辺で待たせてください」

「あら、なんかイメージ変わったわね、良い所のお嬢さん、、、元からそうだったわね」

「いえ元は悪い所のお嬢でした、誓君に救ってもらったんです」

「お熱い事で、もうお店閉めて帰ってやけ酒しちゃおうかな」

「お姉さん彼氏さんは?」

「それを聞く、ここのオーナーもスーパーブラックよ、バイトなのに私だけ社員扱い、残業は当然だけど休日も出てこないと翌日お店開けられないような有様よ、361日此処に来ている社畜に残酷な事言わせないで」

「わっそれ労基違反ですよ、通報しましょうか」

「止めてやめて、勝手に私が出てきているだけだから、そうしないと回らないから」


 そう言って立ち上がった店長さんは椅子から立ち上がったまま動かなかった、体が震えている。


「早坂さん」

僕が呼び掛けても反応がない。

「誓、任せて」


 美和ちゃんは後ろから早坂さんを抱いてゆっくりと座らせた。


「誓自販機で水に近いもの買ってきて」

「分かった」


 急いで「健康水 リンゴ」を買って戻ると早坂さんは震えは止まっていたが眠っているような感じだった。


「誓店番できる?出来なかったら一旦休業にするけど」

「できるけどどうするの」

「空いてる会議室が有ったからそこを借りて様子見てみる」

「う、うん分かった、首に掛かかってる鍵を貸して」

「そうねレジができないね」


 鍵を首から外して僕に渡し早坂さんを腕に抱きかかえる美和ちゃん。

「一人で大丈夫」

「一人の方が運びやすい、誓もいつでも運んであげる」

「できれば美和ちゃんを運ぶ方になりたい」

「じゃあ留守番よろしく」


 そう言って歩き始めたらスーツを着た男性二人が駆け寄ってきた、

「お嬢様お任せください」

「大丈夫、10回までくらい階段でも上がれるから、この人私の知り合いだから」

「ではこちらへ」


 早坂さんの様子は気になるけどそれどころじゃない、接客もレジも一通りやった事は有るけどいつでも早坂さんが傍にいた、分からない事が有っても直ぐに聞けたけど今は誰にも聞く事が出来ない。


 さっそくお客さんが来た、おばあちゃん。

「マスクないの」

「すいません売り切れなんです」

「おやバイトさんか、お姉ちゃんは休憩なのかい」

「はいお昼休みで暫く戻ってきませんが」

「そうじゃあまた出なおそうかね」


 さっきまで人気ひとけが無かったのに次々とお客さんがやってきた、全員にマスクと聞かれ「売り切れました」ばかり答えた。


 そうやって僕がお客さんの対応をしている時に美和ちゃんが戻ってきて僕の背中の方でA2サイズくらいの包装紙の裏に何か書き始めた。


 お客さんが途切れた時に後ろを向くと「マスク品切れ/入荷未定です」と書いていた。

「いちいち対応してたら大変でしょ」

「確かにね、早坂さん大丈夫?」

「大丈夫じゃないすぐに戻らないと誘拐されかねない、物騒な奴も出入りしてるのここは、誓好みの美女だしね」


 出来るだけ冷静に、

「気にする事ないって」

(噛まずにサラッと言えた、やれやれ)


「へへっ、頑張って」

 今書いた「品切れ」の紙をレジの前にセロハンテープで止めて戻って行った。


(何をしに来たんだ?)




 


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