page.04 初陣

 事件の現場へ到着した。


 私たち新型組は、ジークフリート総隊長の指示で別動隊として待機していた。 立てこもりが発生した建物の、道路を挟んで正面にあるビル。その屋上だ。

 立てこもり現場の入り口を見下ろすと、ジークフリート隊長率いる量産型の部隊が、横一列に布陣している。

 立てこもり現場は、屋内であるためここからは見えない。


 すでに立てこもり現場へ潜入している小型ドローンの情報によると、制圧対象の人間は6人。全員が旧式のアサルト・ライフルで武装。人質は5人。縄で縛られ、部屋のすみに追いやられているとのこと。人質の彼らに銃口が向けられている状態でもなく、突入の成功可能性が高い。間の抜けた犯罪者たちだ。


 総隊長が、大音量のバス・ボイスで犯人たちに警告する。


「貴様らは包囲されている。逃げ場はない。投降を勧告する。我々が突入すれば、貴様たちは瞬時に制圧される。我々は騎士隊ナイト・フリート。大義と共にある騎士人形ナイト・アンドロイドの軍勢!」


 対する立てこもり犯のリーダーも、拡声器を使って応える。


「俺たちは、お前ら人形アンドロイドに仕事を奪われた! 俺たちはこの事実に対して補償を要求する! 人形アンドロイドの生む利益は、俺たちに還元されるべきだ!」


 総隊長から、ジークフリート隊に無線が入る。


『話にならんな。一握りの人間の害意のために、大勢の市民がおびやかされている。敵の殲滅はこの街の大義だ。行くぞ、15秒後に突入する。G1部隊は、我に続いて暴徒を鎮圧。武装は非殺傷モード。G2部隊は人質の盾になれ。新参組のG3部隊は屋上から監視を継続。周辺に変化があった場合は知らせろ。くれぐれも勝手に動くなよ。特に、花の名前のお前だ』


 無線越しに、数機の量産型の笑い声が入る。私の隣の新型達は、緊張のせいか沈黙している。

 総隊長はなぜ私を笑い者にする? 私は、レーザー・ブレードのグリップを五本指マニピュレータできつく握りしめた。


『では行くぞ。3、2、1、突撃ブリーチング!』


 眼下でジークフリート総隊長を先頭にしたG1、G2部隊が、建物の入り口を突き破る。そこから先は屋根の下で、ここからは見下ろせない。音だけが全てを物語る。


 犯人グループの怒声と銃声。人質の悲鳴。装甲が銃弾を弾く甲高い音。犯人グループの短いうめき声。ジークフリート総隊長の、たくましい『手をあげろホールド・アップ』の声。そして、すぐに静かになった。


『G2部隊、人質を確保』

『よくやった。G1部隊も制圧を完了』


 一瞬の出来事だった。これが騎士隊ナイト・フリート。これがジークフリート隊。


『この都市の市民一千万人の安全が守られた。我らだけが成せる大義を、噛みしめようではないか!』


 ジークフリート総隊長の一声に、無線が歓声で埋め尽くされる。


 ――と、その歓声の中。


『た、隊長……人質の中に……!』


 音声は途絶え、銃声が鳴り響く。


『隊員3機が原動力ハートを撃たれた!KIA破壊された、3機はKIA破壊された! 人質の中に一人、制圧対象が紛れ込んでいた模様……制圧対象はハンド・ガンを手にしており、ジークフリート総隊長との対話を要求しています! 現在は4人の被害者が再び人質に――』


 再びの、銃声。

 破壊報告をしたその騎士人形ナイト・アンドロイドからの応答もまた、途絶える。


 私たち人形アンドロイドは、どのような用途のものであれ原動力ハートにだけは装甲を持つことが許されない。つらぬくには、ハンド・ガンでも十分だ。これは、私たち人形アンドロイドが反旗を翻すことを恐れた、人間たちが取り決めたこと。


 市民を守るために戦った騎士人形ナイト・アンドロイドたちが、暴徒に破壊された。その原動力ハートに装甲を持つことが許されないがために。


 今、撃たれたばかりのはずの量産型の回線から、呂律ろれつの回らない男の声が届く。


『聞こえているか? 人形アンドロイド頭領ボス。お前を殺さなきゃ、俺たちの気がおさまらねえんだ。出てこい! お前を殺して、人形アンドロイドなんかより俺たち人間が強いってところを見せてやる!! 原動力ハートがよーく見えるように両手をあげて、俺の前に来い! さもなければ、一人ずつ人質を殺すぞ!』

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