page.05 意志

『聞こえているか? 人形アンドロイド頭領ボス。お前を殺さなきゃ、俺たちの気がおさまらねえんだ。出てこい! お前を殺して、人形アンドロイドなんかより俺たち人間が強いってところを見せてやる!! 原動力ハートがよーく見えるように両手をあげて、俺の前に来い! さもなければ、一人ずつ人質を殺すぞ!』


 暴徒の恫喝どうかつに、ジークフリート総隊長が堂々と応える。


『向かう。人質を撃つな。我を見ろ』


 そして、総隊長から、秘匿回線で隊に指示が飛ぶ。


われが撃たれるその瞬間、銃口が人質から外れる。わかるな? そのときを待ち、一斉に犯人を取り押さえろ。これは大義のためだ。我ら人形アンドロイドは替えが利く。“騎士隊ナイト・フリートが人質を守れなかった”などという、取り返しのつかない不名誉に比べれば安いものだ。 我が撃たれるのを待ち、敵を蹂躙じゅうりんしろ。これは命令だ』


「何を馬鹿な……!」


 私は、屋上から乗り出して現場を見下ろす。

 現場は屋根に隠れており、光学映像では何も見えない!


 私は、堪えきれず屋上から飛び降りようとする。大丈夫、私の設計強度と運動性能なら無傷で降りられる。


 しかし、今にも飛び降りようとする私を妨げる者があった。真っ赤な刃が、私の前に突き出されたのだ。

 私と共に屋上で待機していた、ブレード型の試作機だ。


「お前、何してる?」

「決まっている。ジークフリート総隊長を助けにいく!」

「総隊長の命令が聞こえなかったのか!?」

「聞こえた。あれは誤った判断だ。敵に気づかれていない私たちに、彼は奇襲を指示するべきだった」


 と、今度は私のメイン・カメラに、青い銃口が突き付けられる。

 新型が2機も揃って、情けないことだ。


「……総隊長の覚悟が、わからないのか?」

「わかる。だが、救えるならば救うべきだ。たとえ大義とやらを危険に晒しても、人形アンドロイド一機でも、多くを救えるのなら」

「……それで、お前の行動の結果、人間が死んだらどうする? 俺たちは……無能のそしりを受け、廃棄だ」

「そうだぞ! ジークフリート総隊長は、自ら犠牲となって騎士隊ナイト・フリート全体のことを考えている!」

「ふん、それが本音か。お前たちは、総隊長が破壊されることよりも、棄てられるのが怖いんだろう」

「お前こそ、総隊長を見返そうと躍起やっきになってるんだろ!」


 私は五本指マニピュレータでブレード機の赤い刃を掴む。そして、私の原動力ハートすれすれの場所に深い傷を刻んだ。なるほどさすが新型機の内蔵装備、よい切れ味だ。


「この傷を証拠に、お前たちは私を止めようとしたと証言できるだろう。人形アンドロイドの自浄作用が健全な、またとない好事例じゃないか」


 突然の私の自傷行動に、後退する2機。彼らが臆病者で助かった。


「私は、ジークフリート総隊長を助けにいく。邪魔をするな」


 そして私は、ビルのへりを思い切り蹴り、地上へ向けて急降下する。真紅のマントが音をたて、黄金の羽飾りが風を切る。


『 両手をあげて、情けない姿だな、人形アンドロイドの頭領さんよ……! 動くなよ、原動力ハートをぶっ壊してやる』


 無線によると、今まさに、総隊長が撃たれようとしている。はやく、はやく落ちろ。はやく、はやく!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る