page.03 ジークフリート隊

 なんという幸運だ。


 私の所属は、ジークフリート総隊長の直属、ジークフリート隊だったのだ。私の両隣には赤色の新型試作機と、青色の新型試作機もいる。どうやら、総隊長のもとに新型が集められてるらしい。


 だが、私の幸運はそれだけではない。なんと、私の出撃待機エリアはジークフリート総隊長の目の前なのだ。たくさんの騎士人形ナイト・アンドロイドで過密気味な待機エリアの中で、私の視界は総隊長の漆黒の鎧で埋め尽くされている。近くで見るそのボディには、演説で見たときよりもずっと多くの傷が刻まれていた。


 私は、視線をボディから王冠のような頭部パーツへ移す。すると、ジークフリート総隊長のメインカメラがまっすぐ私に向けられていた。

 なぜ? 間違いなく、私が総隊長を凝視していたからだ。失礼なことをしてしまった。私は視線をそらしながら、自分の羽飾りをいじるフリをした。


「貴様、名は?」


 重々しい声が、私に浴びせかけられる。

 そんな馬鹿な。話しかけられたぞ。あのジークフリート総隊長に、だ!

 私は、瞬時に発声器へセルフ・エラー・チェックをかけ、最高音質のテノール・ボイスで答えた。


「形式番号NA-19-T。 固有識別名コードネームは、ハルジオンです!」

「ハルジオン……花の名前か?」


 ジークフリート総隊長は、量産型騎士人形ナイト・アンドロイドの太いマニピュレータで、私の腕をつまんだ。最新のコーティングが施された純白の腕が傷つくことはないが、しかし骨格フレームかすかに軋む。


「細くて、装甲は薄い。新型のくせに、内蔵武器もないな? 特徴的なのは……その繊細そうな指か? まるで、型の家事人形ハウス・アンドロイドだ! なあ? お前ら!」


 一瞬、総隊長の口から出た言葉の意味が理解できなかった。

 周りで沈黙していた量産型騎士人形ナイト・アンドロイドたちが、一斉に笑い声をあげる。


「こりゃ傑作だ」

「最新型は俺たちに、料理でも振る舞ってくれるのかな?」

「赤いマントとキラキラの羽飾りが可愛いな」


 両隣から、同じ新入りのはずの赤色のブレード機と青色の砲撃機までもが茶々を入れてくる。


「ははは! お嬢さん、道に迷ったのかい? ここは騎士隊ナイト・フリートの隊舎だぞ?」

「……弱い者イジメはよせよ……ふふっ」


 ようやく理解した。

 彼は、彼らは、私をからかったのだ。

 一度でも彼の演説に心打たれたことを、私はひどく後悔した。


「馬鹿にするな!」


 私は、超至近距離でジークフリート総隊長のメインカメラを睨みつける。背が低いぶん見上げるよう姿勢になってしまうが、ヘッド・ライトを可能な限り発光させて威嚇いかくする。


「それは、我が誰だか理解しての態度か? 総隊長ジークフリートだぞ!」

「……だとしても! 失礼なことを言ったのは、貴方だ!」


 と、そのとき。

 出撃待機エリアに警報が鳴り響く。一瞬、私たちの口論をとがめるものかと身構えた。しかし、違う!


緊急発進スクランブル緊急発進スクランブル。ジークフリート隊に告ぐ、第七地区で犯罪組織による立てこもり事件が発生。制圧対象は銃器で武装した人間で、人質をとって身代金を要求しています。速やかに現場へ急行してください』


 総隊長は私から視線を外し、出撃待機エリア全体に呼び掛ける。


「貴様ら、全員武器をとれ。ルーキーどもは初陣だ。大義を果たすぞ!」


 先ほどまで私を笑い飛ばしていた隊員たちが、沈黙する。ベテランらしき傷ありの量産型から順番に、速やかに銃を手に取りゲートから出撃していく。

 腕が内蔵武器の赤と青の最新型は、武器を手に取る必要がないにも関わらず、出遅れていた。


 私は2機をすり抜けて、自分専用の武器を手に取る。

 純白の盾と、発振はっしんさせれば黄金に輝くレーザー・ブレード。それが私の武器だ。稼働テストで何千回と振り回したそれは、私の手によく馴染んだ。


 ルーキーの中では一番に出撃ゲートを飛び出した私に対して、ジークフリート総隊長が振り返らずに言った。


「貴様の生意気な態度への罰は、戻った後だ。足を引っ張るなよ? 花の名前の騎士人形ナイト・アンドロイド


 私は名誉ある騎士人形ナイト・アンドロイドのはずだ。大義を果たして、それを証明してみせる。


 私たちは脚部車輪レッグ・ホイールを高速回転させ、大都市のブロードウェイを走り抜けた。

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