兎沢無双
一月ももう後半。つまりは月末だ。
月末と月初めは経理にとって多忙な日。よって俺は邪魔をしないように家を出てコンビニに向かっている最中だ。
いや~。俺も経理が出来るのならぜひ神崎を手伝いたい所だが、素人が首を突っ込んでも良い事が全く無いからな。俺にできる事はこうやって邪魔をしないように仕事から逃げ……いや、俺自身も連日の激務で身体中が痛いからリフレッシュ休暇って事にしよう。うん、そうしよう。
――何を言っておる。貴様、尚美が忙しくて貴様の監視が緩くなったのをいい事に遊びに出ようとしておったではないか。妾がついて来なければパチンコ屋に行こうとしていたくせに
おっと、タマが真実のように捏造を言いやがったぞ。なのでちゃんと是正してやらねばなるまい。
「違うだろ。お前をお散歩に連れて行くと言う大義名分の下、ついでにパチでもしようかなと思ったが、お前が神崎にチクると言うから、仕方なく行先をコンビニにしたんだろうが。捏造を言うな小動物」
――妾の方がマイルドに庇った言い方ではないのか
どこが庇ったんだ。庇うと言うのなら、偉大なる飼い主様が自主的にグータラなペットの散歩を買って出たくらい言って貰いたいものだ。
まあいい、折角コンビニに来たのだ。安価な氷菓子を買って涼を取ろう。まだ冬で寒いけど。寧ろ肉まんで暖を取った方が良いような気がするが。
――妾はモナカのヤツ
「お前も食うのか。言っておくけど、今更だけど、動物にそう言うの食わせられないんだぞ」
――本当に今更だな
やや呆れてそう言う。つうか食わせる俺もなんだが、普通に食うお前も相当なモンだぞ。
ともあれ中に入る。赤い髪の女が、半分寝たような顔でいらっしゃいませと挨拶した。
こいつはコンビニのオーナーの娘、深井って名前だが、髪を赤く染めているので、勝手に深紅と呼んでいる。
「って、北嶋さんじゃないですか。笑顔作って損した」
「ふざけんなよ。超常連のお客様だぞ俺は。だったら笑顔も二割増しにして対応するもんだろうが」
「いいじゃないですか。オマケあげますから」
オマケがあるのなら構わん。いや、構う。オマケ寄越した他に笑顔も二割増しにしろ。
まあ、兎も角、目当てのアイスとタバコを買う。
「朝からアイスですか……しかも冬なのに……」
「食いたかったからな」
「そうですか。寒いですが、アイスを食べたい気分になる時もありますよね……」
言いながらバーコードをピコピコして袋に入れる。オマケも入った。廃棄する揚げ物だ。だけどせめてアイスとは別の袋に入れて欲しい。揚げ物温かいだろうが。
そう苦情を言うと、目を丸くして訊ねられた。
「え?すぐにアイス食べるんじゃないんですか?」
「いや、勿論そうだけど、何となく袋一枚損した気分になって」
「じゃあ別の袋に入れたとして、アイスを今食べるとして、空き袋が一枚出ますけど、それはどうするんですか?」
「このゴミ箱に捨てるに決まってんだろ」
言い切ったらめっさ深い溜息をつかれた。
「朝から疲れさせないでくださいよ……そうじゃなくても、ここの所、すんごく疲れているんですから……」
確かにその言葉には嘘が無い。普段の深紅よりも対応がちょっと刺々しい。
「そんなに客が来るようになったのか?」
「え?そう……ですね。ほら、あの工場って増築したじゃないですか。そうなると働く人も増える訳で、24時間の交代制だから、結果的にこのコンビニにもお客が増えました」
「そんなに疲れるほど来るって事は無いだろ。交代制と言っても、確かあそこって食堂があった筈だし、夜は夜でカップめんの販売機がある筈だし」
「そうですね……増えた事は喜ばしい事ですし、感謝もしますし、暇だった深夜勤も結構賑わいましたけど、その副産物って言うか、良い事もあれば悪い事もあると言うか……」
そして深紅は語り出す。落胆を隠さず、がっくりと肩を落としながら。
遡ること一週間ほど前。いつも通り深夜勤に勤しんでいると、一人の男が入店した。
工場の増設に伴い、このコンビニにも深夜勤に入る前に買い物に来たり、入れ違いで帰るお客が入店したりと、結構な賑わいとなっていたが、その男は初めて見た顔だった。
その男はカップめんを買ってレジに並んだ。他のお客もいるのだから当然の事だ。
だが、深紅と目が合った途端、列から抜け出して先頭のお客をグイグイ押して、深紅の前に立った。
「あの、お客様、他のお客様のご迷惑になりますので、並んで順番をお待ちください」
男は列に並んでいた超迷惑そうなお客など知らぬとばかりにこう言った。
「か~わ~いぃ~いぃ~。ねえねえ!!一緒にから揚げ食べない?奢ってあげるよ!!」
そう言ってから揚げを指差した男。これから買うと言う事だ。しかも買った物を従業員と一緒に食おうと誘って来たのだ。
「列にお戻りください。順番を抜かす事は他のお客さまのご迷惑になりますので」
男の思考にかなり引き攣りながらも、根性で愛想笑いに変換して促した。
「あ、から揚げは嫌いだって事?じゃあこのポテトにしようか?」
「ですから、列にお戻りください」
「解った。列に戻ったら付き合ってくれるって事だよね?」
「は?」
ここで愛想笑いが崩れたそうだ。何を言っているのか理解不可能だったから。から揚げやポテトを一緒に食おうから、並んだら付き合うにいきなり変わったのだから、呆けるのは当然と言える。
「ん?だったら今一緒にポテト食っても同じじゃない?じゃあ一緒に食べようよ!!」
身を乗り出してカウンター越しから深紅を腕を掴んでグイグイ引っ張った。
「ちょ!!何するんですか!?」
腕を強引に払ってそれから逃れたが、突拍子もない行動に心臓がバクバク言っていたそうだ。
「またまた!!照れちゃって!! かぁ~わぁ~いぃ~いぃ~!! かあぁ~わあぁ~いいぃ~いいぃぃぃぃぃ~!!」
何か知らんが悶え捲ってそう発した。気持ち悪くて鳥肌が立ちまくった。
「おいお前!!いい加減にしろよ!!また首になりたいのか!!」
見かねたお客の一人がそう発したが、男はなんて事無いと首を横に振った。
「首になったのは驚いたが、向こうも謂れの無い罪を着せたと思って後悔したんだろ。だからバイト扱いになったとはいえ戻したんだ」
「何言ってんだ!!首になった奴がバイト募集に応募して来ただけでも前代未聞だってのに、いきなり土下座して雇わなきゃここで死ぬと脅したからだろうが!!」
このお客との言い合いの隙に、騒ぎを聞きつけて駆け付けた親父と代わって難を逃れたと。
「……深夜勤から早朝に時間を変えたんですが、またあの小男が来店して来るのかと思うと……」
ガックリと肩を落として言う。その話を俺も戦慄を以って聞いていた。
鹿島 雄大!!
首になったがバイトとして戻って来たのか!!
しかも、この一帯にまで現れるようになったのか……!!
「深紅……そいつは馬鹿だ!!馬鹿に憑かれると過労でとんでもない目に遭う!!関わるな!!絶対に関わっちゃ駄目だ!!」
「言われなくても関わる気はないですよ……ですけど、此処はコンビニですからね……」
はあ~っとでっかい溜息をついた。た、確かに、ほぼ間違いなく来店する事になると思うが……深紅目当てで。
「ま、まあいいや。イートスペース借りるぞ。アイス溶けちゃうから」
「はい、どうぞ」
馬鹿の情報は気になるが、今はアイスの心配をしなければならない。
俺はイートスペースに赴いてアイスの袋を破った。タマの分も。
――話には聞いていたが、そんな輩はぶち殺せばよかろう?
モナカアイスに齧り付きながらタマが言う。
「お前、町内の奴だぞ。暴力沙汰は拙いだろ。俺ん家は大量殺人事件があったんだ。ああ、やっぱりな、とか、またか、思われちゃうだろうが」
――評判を気にせん貴様が町内の評判は気にするとはな。破綻している様な気がするが
何で破綻してんだよ。他の評価だどうでもいいが、ご近所さんや町内の連中は死ぬまで付き合う事になるんだぞ。引越しするんなら俺だってどうでもいいわ。
「いらっしゃいませ~………え?」
ん?客が来たのか。だが、その困惑の「え?」はなんだ?
まさか鹿島じゃないよな?と恐る恐る覗き見る。
女だ。客は女だから鹿島ではない。しかし、その恰好が異質過ぎた。
その女は馬鹿みたいにデッカイ胸を隠すように、リボンを捲いていたのだ。あと股間も。つまり女は全裸にリボンを捲いていると言う、露出狂にほぼ近い恰好をしていたのだ。
間違いなく捕まる。公然わいせつ罪とかで。しかし、捕まる事は無いだろう。何故ならその女は……
「兎沢!?何でここに!?つか、その恰好はなんだ!?」
そいつはポリにして天パ印南の部下の兎沢!!ポリのこいつは不祥事くらい楽勝で揉み消すだろうから、捕まる事は決してない。俺の偏見のみだけど。つか、東京にいる筈のこいつが、なんで俺の地元でハレンチ学園も真っ青な格好をしているのだ!?
「き、北嶋さん?ご自宅に向かう前に鉢合わせしてしまいましたか……これは失敗でしたね」
急に胸と股間を腕で隠し、身を捩って見られないようにしているが、今更手遅れだろ。俺の他に何人に見られたと思ってんだ?
「き、北嶋さんのお知り合いでしたか……それにしても、やっぱり凄い人達とお知り合いなんですね……」
引き攣って愛想笑いしながら深紅が言う。こいつは特殊な性癖だから、俺の知り合いが全員変態だと思われるのは心外だ。
「いや、だから、なんでここに居るって聞いてんだよ」
「は、はっ。実は北嶋さんにお届けものがありまして」
敬礼してそう言うが、お届け物?
「わざわざ俺ん家まで来なくても、宅配とかあるだろ?」
「そ、それはそうですが、目の保養のサービスをさせて戴きたいと言うか……」
もじもじと身を捩って。いや、確かに実に良い目の保養だが、ぶっちゃけ知り合いと思われたくないんだが。
「ま、まあいいや。なんだお届け物って?そのリボンから連想するに、お届け物は私ですとか言わないだろうな?」
「い、いえ!!それは畏れ多過ぎます!!婚約者が居られる男性にそんな事は口が裂けても言えません!!流石にそのくらいの分別はありますよ!!」
慌てて両手をパタパタと。分別云々と言うのなら外でその恰好をする事自体おかしい事に気付いてほしい。
「ま、まあいいや、そんでお届け物って?」
「はっ!!少々お待ちください!!」
敬礼して駐車場にダッシュする兎沢。道行く人達の好奇の視線にさらされる事なんぞ恐れる事も無く。
そして戻って来た時にはデッカイ箱を重そうに担いでいた。
「それがお届け物か?」
「はっ!!バレンタインデーには少し遠いのですが、今日でなければ休暇が取れなかったので!!」
またまた敬礼してそう言うが、バレンタインデーか。
「じゃあこの冷蔵庫が入りそうなダンボールの中身はチョコだと言うのか?」
「はい、少々大きいですが、尊敬する北嶋さんに対してみすぼらしいチョコは渡せませんので」
少々じゃねーよ。バカでっかいじゃねーかよ。どんだけデカいチョコが入っているんだよ。
まあいいや。くれるんなら有り難く戴く。
「丁度ここはコンビニだ。ホワイトデーには早すぎるが礼をやろう」
「は、はっ!!恐縮です!!」
敬礼する兎沢をイートスペースに置いてお返しを物色。ガムでいいや。あいつ車で来たみたいだし。
「いらっしゃいま……げ!?」
客が来たようだが、なんだ「げ!?」って?
まさか鹿島じゃないよな?恐る恐る覗き見る。
「かぁ~わぁ~いぃ~いぃ~………」
瞬時に顔を引っ込めてレジから死角に回った。
鹿島だ!!マジでこの辺に来やがった!!
「かぁ~わぁ~いぃ~いぃ~!!ねえねえ、から揚げ一緒に食べようよぉう!!」
そう言ってから揚げを指差した。いつぞやも同じ事した筈だよな!?
「仕事中ですから!!から揚げですね!!少々お待ちください!!」
「いやいや、奢るから一緒に食べようって事だよ。それともポテトの方がいいの?」
「ですから、仕事中ですので!!」
「解った。じゃあ仕事が終わるまでここで待っていてあげるよ!!」
「いやいやいやいや!!業務に差支えますので!!お買い物をしないのであればおかえり下さい!!」
「それってつまり付き合うって事?だったら今すぐデートしよう!!」
「はあ!?そんな事一言も言ってないだろ!!どう聞いたらそうなるんだ!?帰れって言っているんです!!」
遂に敬語が失せたか……鹿島相手によく持った方だよ。うん……
しかし、此処は俺の生活区域。このコンビニの常連だ。こんな迷惑な馬鹿を野放しにしておれん!!
意を決して鹿島目掛けて歩を進める俺。だが、その前に兎沢がイートスペースからひょっこり顔を覗かせた。
「顔を見せるな兎沢!!こいつは真正の馬鹿だぞ!!」
しかし、もう遅かった。兎沢のあの格好に鹿島が普通に食い付いて深紅から離れたのだから。
「かぁ~わぁ~いぃ~いぃ~!!何そのセクシャルな格好?俺を誘惑する為かな?心は奪われてしまったけどね!!」
俺は鹿島と兎沢の間に割って入った。一応兎沢も俺の関係者。酷い目に遭わせたくない。
「おう馬鹿野郎。なんでお前が此処に居る?」
「かぁ~わぁ~いぃ~いぃ~!かぁ~わぁ~いぃ~いぃ~!かぁ~わぁ~いぃ~いぃ~!!!」
俺なんか眼中にないとばかりに、俺を避けて兎沢に接近を試みる鹿島。
「なんですかこの男は?というかどこかで見たような?」
兎沢が鹿島を指差す。どこかでも何も、正月にお前、こいつを病院に放り込んだだろ?
「俺を知っているのか?これはもう運命以外にないな。付き合おう!!」
「お前を病院に送った奴だよ!!いいから離れろ馬鹿野郎!!」
兎沢を守るべく、鹿島の顔面を掴んで腕を突っ張った。
「何するんだ不細工野郎が!!自分がモテないからって他人の恋路の邪魔をするなよ!!」
腕をするりと抜けて俺の後ろを取り、兎沢の前に強引に立った。
「かぁ~わぁ~いぃ~いぃ~!そんな恰好で俺を誘っているって事は、ホテルでしっぽり行きたいって事だよね?その要望に応えてあげるよ!!」
「ん?よく見たら神社で迷惑行為した末に疲労で倒れた鹿島 雄大じゃないですか?北嶋さん、こいつはどうなされます?」
どうもこうもだ。あんなに纏わりつかて、よくも平然と指示を仰げるな?鹿島の馬鹿は兎沢の周りをワンコの様に回っているんだが。狭いコンビニの中で。
「ん?あの男の知り合い?俺もそうだよ。だから付き合おう!!」
「なんでお前のナンパの道具にされるんだ俺が!!知り合いっちゃ知り合いだが、関わりたくない野郎の認識なんだよこっちは!!」
知り合いなのは間違いないが、断じて親しい仲ではないだろ!!お前のナンパに俺を巻き込むんじゃねーよ馬鹿野郎!!
「寒くない?あっためてあげるよ。だからホテルに行こう?」
俺の苦情を無視して兎沢の脚にさわさわと触れる。腰も抱こうとのジェスチャーが窺えた。これって痴漢扱いになるのか?兎沢、あんな格好だけど!!
「私の脚に触れるな」
脚を振ったら鹿島が転んだ。そして背中を押さえて転がりまくる。
「ぐわああああああああ!!蹴っ飛ばされて内臓が破裂した!!警察に通報されたくなければ、俺と付き合うしかなくなったぁああああああ!!!」
もう、ゴロゴロと。おかげで棚から商品が落ちまくる。
「わああ!!商品が!!」
涙目で商品の救助に向かう深紅。その様子を冷ややかな目で見る兎沢。冷ややかな?いや、冷静に、か?
兎沢は鹿島の手を取って起き上がらせた。
「俺と付き合う気になったようだね。大丈夫、通報なんかしないよ。大切な恋人を刑務所にぶち込みたくないからね」
すんごい邪な笑顔でニヤニヤしながらそう言った。こいつ、脅した自覚があるじゃねえかよ!!
ガチャリ
「ん?」
鹿島が自分の手首を見た。そこには手錠が嵌められていた。
「そうか……拘束プレイがお好みなんだね。大丈夫、俺は全て応えるよ」
「鹿島 雄大、痴漢及び脅し行為、営業妨害、その他諸々の現行犯で逮捕する」
ニヤニヤが一気に真顔になった。
「北嶋さん、私はこれから地元警察に鹿島 雄大を引き渡してきます。折角お訪ねしたのに仕事が入ってしまったのは残念ですが……」
警察の言葉で真っ青になった鹿島。何か知らんが俺に訪ねた。
「お、おい……このお方はもしかして……」
「こいつは刑事だ。ポリだよ」
真っ青からガタガタ震え出した。
「え、えーっとですね、僕はそんなつもりは一切なくて……散らばった商品も全部買い取るつもりでしたし……」
急にしおらしくなって言い訳し始めた。やっぱりこいつの天敵はポリか。
俺は持っていたガムを会計して兎沢に渡した。
「これはチョコの礼だ。兎沢、よく来てくれた」
「はっ!!もったいないお言葉であります!!」
しゃんとして敬礼で返す。鹿島は涙目で俺を見て訴えた。
「おい!!お前も証言してくれよ!!ただの冗談だってさ!!友達だろ!!」
「誰が友達だ馬鹿野郎。そのまま死刑になって来い」
ともあれ、鹿島は兎沢に引っ張られて外に出た。これからパトカーに乗せるのだろう。コンビニでパトカーを呼ばなかったのは俺に対する配慮だろう。
「た、助かりました……しかしあの女の人って本当に刑事さんなんですか?」
「とても信じられんと思うが、間違いなくポリだ。しかも結構なエリートだぞ」
心霊調査部隊はエリート部隊だと菊地原のオッサンが言っていたから間違いないだろ。警視総監が自ら指揮を執る隊だしな。
「ともあれ、厄災は去った。明日から普通に過ごせるぞ」
「はい。ですけど、あの刑事さんも捕まりそうですけど……」
そこは知らん。一般人に通報される事は必至だろうが。
イートスペースに戻って兎沢から貰ったダンボールを持った。結構ずっしり来て重い。
「つかタマ、なんでお前はそこで頭を抱えて転がって悶えているんだ?助けに来てくれてもよかろうもんだろうが?」
――モナカアイスでキーンとなって……迂闊だったわ!!氷タイプのアイスなら兎も角……
アイス食って頭痛を発症したのか?ホント肝心の時には役に立たねー小動物だな。
「……そう……鹿島 雄大が現れたのか……」
あの事を神崎に話したら真っ青になって神妙に聞いていた。しかし兎沢によって退けられた事に凄く安堵しているようだった。
「兎沢が来なかったらヤバかったかもな。つうか普通に通報してもよかったか」
「鹿島 雄大は何度も警察のお世話になっているからね。女の人の部屋に深夜押し入って捕まった事もあるみたい。彼曰く、恋人の家に遊びに来ただけらしいけど、当たり前だけど接客業の女性がお客に良い顔するのは仕事だからね」
誰が恋人になったって話だよな。適当にあしらったら深夜家に来られたんだろ、多分。
「確かバーで口説いて暴れて警察沙汰になった事もあった筈。暴れたって言うのは、今回のように転がって駄々をこねてお酒の瓶を沢山割った事だけど」
似たような事を何回もやっているのかよ。本気で死刑になればいいのに。
「ところで、兎沢さんから早目のチョコを戴いたそうだけど、あのダンボールの事?」
「あー、まだ開封してなかったな。こんなデッカイ箱に入れて来るんだから、相当な量のチョコだろうが……」
ともあれ開封した。
「!!」
「!?」
俺も神崎も絶句した。中に入っていたのは、チョコで作った胸像だったのだから。
しかも等身大だこれ!!どおりででっかい訳だよな!!
「……北嶋さん、カードが入っているわよ……」
カードを開いて見てみると――
『私の実物で型を取りました。どうぞ召し上がってください。私も召し上がられている事想像して妄想に耽りますので』
……確かに産毛の痕やら乳首やら、マジヤバな代物だ。これを婚約者がいる俺に渡すのかあいつは!?
しかもカード!!何妄想に耽るって!?オカズを提供してオカズにする自己発電!?
「……北嶋さん。これは一度溶かして新たに作り直してから戴きましょうか。チョコケーキとか、クッキーとか」
神崎が笑顔を向けて言う。つか、その笑顔強張っているがな!!青筋も立っているし!!
「……何で黙っているの?何か不都合でもあるのかしら?」
「いや、何でもない。うん、そうしようか……」
否とは絶対に言えない雰囲気だ。つうか言う事もない。あの胸像チョコは流石に食えんだろ。婚約者が居る身としては……
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