スーパー戦隊⚡︎カラフルレンジャー(オマケ付き)


 正義の味方カラフルレンジャーは、ついに悪の組織デビルズファイヤーのボスであるサディスティックウルフとの直接対決を迎えることになった。

 そう、あのサディスティックなプレイで数多のスーパーヒーローたちを再起不能に追いやったあのサディスティックウルフだ!

 人気者だった美少女戦隊キューティーセブンが解散したのもサディスティックウルフのせいだとささやかれている。


 カラフルレンジャーのリーダーを務めるカラフルレッドの元に司令が届いたのは昨夜だった。

彼らが派遣登録しているスーパーヒーロー派遣会社からだ。サングラスと黒いスーツの男から手渡された包みの中身はレトロなデザインの小型オープンリールデッキだ。

 通信アプリを使う方が早くて経費もかからないと思うのだが係長であるミスタージャスティスは雰囲気を重んじるお年頃なのだ!



 再生すると、ミスタージャスティスのしわがれた声が室内に響き渡った。

「カラフルレンジャーの諸君、今回の司令を伝えよう。悪の組織デビルズファイヤーのボスであるサディスティックウルフとの直接対決に臨んでいただきたいのだ。ご存知の通り、ヤツは数多のスーパーヒーローを引退に追い込んだ強敵だ。健闘を祈る。なおこの録音は自動的に消滅する」

 オープンリールデッキに仕掛けられた火薬の加減を失敗したらしくカラフルレッドの住むマンションごと壊滅したが心配はいらない。ミスタージャスティスはダンディズムの権化のような渋い中年を気取っているわりにドジっ子なのでこういうことは日常茶飯事なのだ。

 マンションは驚異の再生能力で一瞬で元に戻った。このマンションはスーパーヒーロー以外は立ち入り禁止なので死傷者はいない(……はずだ!)。カラフルレッドも一瞬だけ髪型がボサボサになったが、すぐに元の爽やかサラサラヘアーに戻る。

「マジかよ! ついに俺たちにもスポットが当たる日が来たのか」

 さっそく仲間との作戦会議をしなくては。

 作戦会議は普段からカラフルレンジャーが世話になっている中年男性、通称〝 おやっさん〟邸で行われた。

 五人が席につくと、おもむろにおやっさんが口を開く

「カラフルレンジャーのみんな。強力な助っ人を紹介しよう。多様性戦隊ヒャッカリョウランジャー所属のワインレッド君、入りたまえ」

「えー?」

 一同がざわつく。

「なんでだよー!」

「私たちだけで倒してメジャーヒーローになるチャンスなのに!」

「しかもワインレッドって!」

 多様性戦士ワインレッドはワイングラスを片手に悠然と微笑んでいる。

「君たちー。僕が来たからには安心だよ。僕は今回だけの助っ人だけど、寂しがらなくてもいいよ。君たちの心の中に僕は輝き続けるからね」

 前髪をかきあげウインクをする。

 多様性戦隊ヒャッカリョウランジャーと言えば百人の戦隊ヒーローである。百人がかりで怪人を倒す絵面が弱いものいじめ風のため、PTAからの苦情も多く、その上肝心の子供たちの人気も最底辺である。同じように人気がないカラフルレンジャーはそれでもワンクール放送され、最終回として今回のように大きな任務も任される。視聴率低迷で打ち切りの危機を囁かれている多様性戦隊ヒャッカリョウランジャーなどの力を借りるほど落ちぶれちゃいない。

 その底辺ヒーロー百人の中でもよりによって一番役に立たなさそうなワインレッドを助っ人に選ぶなんて。

「おやっさん! どうしてよりによって〝 コレ〟が助っ人なんだよ」

 カラフルブルーが立ち上がって叫ぶ。

「カッコつけは一人前だけど、ただのナルシストじゃん。助っ人に呼ぶならせめて多様性戦士レッドでしょ」

「しかしなー、ブルー君。多様性戦士レッド君はうちの戦隊のカラフルレッド君とキャラがかぶるからなー」

 おやっさんは宥めるように言った。

「それにな、多様性戦士ワインレッド君にしかこの任務は務まらんのだよ」

「僕にしかできないことがあるだなんてくどかれてさ。僕も忙しいんだけど、おやっさんの心意気に打たれたってわけさ」

「そんなわけないだろー」

「〝 これ〟が役に立ったの見たことないぞ」

 本人を目の前にして言いたい放題である。スーパーヒーローとはいえ四六時中子供たちのお手本ではいられない。カメラが回っていないところでは暴言も吐くのだ。

 ワインレッドが心配になるほどの暴言の数々だが、彼は怒りも泣きもせず微笑んでいる。少々の暴言などはすべて自分の都合のいいように解釈できる筋金入りのナルシストなのだ。

「ブルー君、僕のためにスタンディングオベーションまでしてくれるなんて、うれしいよ。あとで握手してあげるね」

 カラフルブルーに向けてさわやかにウインクを送った。気のせいか周りの空間がきらめき、少女漫画のように花びらが舞ったように見えた。


 さあいよいよ運命の日だ。

 デビルズファイヤーのアジトに乗り込んだカラフルレンジャーたちはモブキャラの怪人や戦闘員たちを次々に倒し、ついにサディスティックウルフがいる部屋へとたどり着いた。

 【社長室】と書かれたドアをノックすると、中から声が。

「入りたまえ」

 ドアを開けると、ものものしい調度品の奥に重厚なデスクがあり、サディスティックウルフが座っていた。

 首から下はスーツを纏った人間で、顔だけ灰色狼の怪人だ。右目は閉ざされており、瞼の上を縦に傷跡が走っていた。

 さすがボスキャラだけあってかっこいい見た目だ。

 スーパーヒーローひとすじの彼らは一般的なビジネスマナーを知らないので少々緊張していた。

 カラフルレッドが恐る恐る話しかける。

「失礼いたします。あ、あの僕、私たちカラフルレンジャーと申すものでございまして、あ、あのその……本日はお日柄もよく……」

「まあ、かけたまえ」

 サディスティックウルフはデスクの前にあるソファに彼らを座らせる。

「私を倒しに来たわけだね」

「そ、そうだ! この世の悪は俺たちがぶっ潰す! カラフルレッド!」

「ブルー!」

「グリーン!」

「イエローでごわす!」

「ピンクよ!」

「そして、僕が助っ人のワインレッドさ!」

全員がポーズを決める。

「五人合わせてカラフルレンジャー!」

「そしてヒャッカリョウランジャーからの助っ人!」

 SEさんがシャキーンという効果音を絶妙なタイミングで鳴らすと同時に、テーマソングのを勇壮にアレンジしたインストゥルメンタルが鳴り響く。最終回をかっこよく決めたら、シーズン2のオファーも有り得るのだ。スタッフもヒーローたちも気合いが入っていた。

「はっはっは、かっこいいね君たち」

 サディスティックウルフは豪快に笑うが、その目はギラつき六人をめねまわす。

「ところでレッド君、君は学生の頃、ネット論客だったようだね」

「うっ、なぜそれを!」

 恥ずかしい過去を暴かれたカラフルレッドはたじろぐ。

「舌鋒鋭く論破の山を築いていたねー。あの頃から正義感が強かったんだね。めんどくさくなった相手が君をブロックするとスクショとともに〝 はい、逃げた。論破〟と勝ち誇っていたね」

「やめろー!」

 レッドが頭を抱えうずくまる。

「ブルー君、君はオカルト雑誌の〝 月刊マー〟に真実に目覚めた光の戦士がどうのこうのという投稿をしていたね。光の戦士としての活動は順調かね?」

「な、何故それを知ってる!」

 ブルーが顔だけレッドに変色し叫んだ。

「やめてくれー!」

「ピンク君、君が高校生の頃書いたポエムを朗読するよ」

「いやぁ〜!」

「あたしの心はガラス細工。あなたを思うと黄昏色に染まるの……。ピンク君、素晴らしい言語センスだね」

「やめて〜!」

「イエロー君、君は高校生の頃は今みたいに太っていなくて、この写真から察するに自分では美少年だと思っていたんだね」

 イエローの若い頃の写真がスクリーンに大写しになる。今とは全然違うスリム体型で銀に染めた前髪を遊ばせて、憂いを帯びた眼差しで斜めに立ちポーズを決めている。

「やめるでごわす!」

「当時はそんな喋り方じゃなかったようだが……。そう、今のワインレッド君のような喋り方だったようだね。キャラ作りも大変だね」

「やめてくれー!」

「最後にヒャッカリョウランジャーからの助っ人のワインレッド君」

「お、俺は!?」

 グリーンが叫ぶ。

「あ、影が薄いから忘れていたよ。次はグリーン君、君はね、我々の諜報員たちが君の少年期の情報を調べたんだが、当時も影が薄くてたいした情報を得られなかったようだ。グリーン君、これでいいかね?」

「やめろー!核心をつくなー! どうせ俺はモブヒーローだよ!」

 グリーンが頭を抱える。

「最後にワインレッド君、君は、学生の頃軽音部でビジュアル系バンドを組んでボーカルをやっていたね」

 スクリーンに映された当時の写真は、いかにも若気の至りという感じの美少年気取りの表情でポーズを決めているワインレッドだった。イエローの黒歴史と同じようにかなり恥ずかしい過去だ。

 しかし、イエローとは違いワインレッドは何のダメージもないようだ。それどころか誇らしそうでさえある。

「僕の昔の写真を見つけてくれたんだ。熱心なファンなんだね。ウルフ君、僕も君が大好きだよ!」

「うっ、どうしてだ。黒歴史を晒されて恥ずかしくないのか?」

 サディスティックウルフが初めて動揺の色を見せた。

「そうか!」

 カラフルレッドが叫ぶ。

「ワインレッドは現在進行形で黒歴史真っ只中だから、黒歴史を晒されても痛くも痒くもないんだ! 」

「なぜワインレッドが助っ人に選ばれたのか、やっと分かったよ」

「たしかにこいつにしか務まらないよな」

「おやっさん凄い!」

一同がどよめいた。

 ワインレッドは微笑んだ。いつの間にかワイングラスを片手に持っている。

「ねえウルフ君。片目の狼のデザインかっこいいよね。君が考えたデザインなの?」

 なんということもない質問のようだったが、それがサディスティックウルフには傷口をえぐられたように感じたらしい。

「くっ、それを言うな。たしかにこういう風に改造してくれと依頼したのは私だ。当時は私も若かった」

 うつむき加減になる。

「今ならもっと大人に相応しいデザインにするのだが。いい歳して何をやってるんだ私は!」

 頭を抱えこんでしまった。

「ウルフ君、元気出して! その閉じた瞼の上を縦に走る傷跡がめっちゃかっこいいよ!」

 ワインレッドは本気で褒めているらしい。サディスティックウルフが得意な皮肉を込めた賛辞ではなく。それが余計にサディスティックウルフを苦しめた。

「こやつに本気でかっこいいと思われてるとは。あの当時の私のセンスはこやつと変わらないというのか!」

 サディスティックウルフはデスクの上のボタンを押した。

 警報が鳴り響く。

「なにをする! なんだそれは」

 レッドが叫んだ。室内に緊迫感が走る。

 手下を呼び出す気なのだろうか。

「今から十分後にこのアジトは爆発する。諸君は逃げたまえ。さらばだ。私はここで生涯を閉じることにしよう」

「待てよ!」

「ウルフ君も逃げようよ!」

 世界征服を企む悪の組織のボスとはいえ、よく考えるとこの男もそこまでの悪人じゃない。

 国会議事堂や幼稚園などを襲撃することもたびたびあったが死者や重傷者は一人も出していないのだ。軽傷者を出したときは、丁寧に手当をしている。そのために怪人には医師免許を持たせているらしい。

 この作品の世界観から逸脱しないだけの良識はあり、空気を読める男なのだ。

「早く逃げないと諸君も巻き添えを食うぞ。これはヒーローや怪人にもダメージを与える特殊爆弾だからな」

「力ずくでも連れていくでごわす!」

 とびかかるイエローの巨体があっけなく吹き飛ばされる。さすがボスだけあって、精神攻撃だけじゃなく肉体的にも強いようだ。

「五人とおまけのワインレッド全員でこいつを連れ出そう!」

 レッドの決死の表情を見たサディスティックウルフはため息をついた。

「君たちを巻き添えにするのは私の本意ではない。仕方あるまい。ついていこう」

「よし、みんな急げ!」

 怪人たちはすでに避難ずみのようで閑散とした廊下をヒーローたちと、スタッフ、そしてサディスティックウルフが走り抜ける。

 扉を開け、さらに走る。そろそろ時間だ。

「伏せろ!」

 レッドの声とともに全員が伏せる。――いや、一人を除いて。

 サディスティックウルフが基地へと歩き出していたのだ。

「ウルフ!」

「戻ってこい!」

 振りむくこともなく歩き続ける。口々に叫ぶ彼らの声にこたえるように片手を上げた。そして……。

 アジトが爆発音とともに吹き飛ばされる。

 地面に伏せ、爆風と飛来物をやり過ごしたあと、彼らは立ち上がった。

 サディスティックウルフの姿は見当たらない。

「ウルフ……」

「カッコつけやがって」

 誰からともなく胸に手を当てアジトの残骸に向かい黙祷を捧げた彼らを夕陽が照らす。


 スタッフがインストゥルメンタルを流す。テーマソングを哀愁に満ちた風にアレンジしたバージョンだ。ナレーターが語り始めた。

「こうして悪の組織デビルズファイヤーは壊滅し、カラフルレンジャーは世界に平和を取り戻したのだ。しかし、人間の心に闇がある限り第二、第三のデビルズファイヤーが現れることだろう。闘えカラフルレンジャー!」

 こんな間抜けな作品にしてはシリアスなエンディングを迎えようとしているが、はたしてサディスティックウルフは死んでしまったのだろうか。読者諸君、安心したまえ。前述の通りサディスティックウルフは空気を読める男だ。「死」はこの作品の世界観を逸脱する行為だ。そんなことをする男ではない。きっとどこかで生きていることだろう。


 と、シーズン2への含みを持たせつつ、この物語は完結するのだった。

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小さくまとまってますが何か? 宮本摩月 @Mazki

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