第11話 バイト


期末試験も終わりいよいよ夏休みとなった。特に予定もなく暇な1か月を過ごす事になる。

放課後、敏彦がバイトについて聞いてきた。

「なあ千秋。もうすぐ夏休みだけど予定とかあるの?バイトやったりするのか?」

特にバイトをする予定はない。中学3年の妹の勉強をみる約束で、お小遣いがUPされる予定である。家庭内家庭教師。

「秋司は何かバイトするのか?」

秋司は近所のスーパーの品出しのバイトをするようだ。去年も夏の間働いていたらしい。

「敏彦は?」

「俺もバイトやるか悩んでるんだよな。海の家とかどうかな?水着のお姉さんと知り合いになれるし、ひと夏の経験とか期待できるだろ?彼女できるぜ」

期待するのバカだと思う。それにひと夏の経験とかやってるような女は願い下げだ。

「敏彦は素直にコンビニでバイトしておけ。それが一番間違いない」

「結局コンビニかぁ。それが妥当かなぁ」

お金を稼ぐのは大変なんだから頑張れよ。




夏休み前の週末。

朝8時にスマホに着信があった。画面を見ると彩奈からだ。

「おはよう。こんな時間にどうした」

「おはよう千秋。突然なんだけど今日なんか予定ある?」

「いや、家でのんびりするだけだよ」

「今日1日モデルのバイトしない?」

「え、何それ。俺は一般人だぞ」

「仕事場でトラブルがあって男性が必要なの。洋服雑誌の撮影だから服着て写真撮るだけだから。ほんと困ってるの。お願い」

彩奈が困っているのか。ならばいいか。モデルって俺にもできるのかな。

「わかった。彩奈が困ってるんだろ。友達を助けるのは当たり前だからな」

「車で迎えに行くから自宅のGPS送ってくれる?1時間弱で着くから」

「近くまできたら連絡くれ」

なんかよく分からないけど出かける準備するか。



~安西彩奈~

今日は雑誌の撮影。朝7時に事務所に到着した。

撮影班や他のモデルが全員集まるまで待機する。それにしてもみんな遅いな。

西野さんの携帯に連絡が入った。何やら真剣な話をしている。何かあったのかな?

「ちょっとみんな聞いて。今、山崎君の送迎車が事故にあったの。山崎君はマネージャーと病院。代わりのモデルを手配して。撮影に穴はあけられないわ」

スタッフが慌てて他の男性モデルに連絡をするも、他の若いモデルはみんな仕事で出払っている。年配のモデルは用意できるが、撮影に必要な若いモデルがいないらしい。

「他の事務所で手配できるかしら。撮影に穴をあけるわけにはいかないし。どうしたものか」

考える西野さんと目が合った。

「ねえ彩奈。あなたの友達ってモデルのバイトしないかしら。ほら、こないだの男の子」

「何言ってるんですか。彼はモデルの仕事なんてしたことない高校生ですよ?」

「今日の撮影はそんなに難しくはないはず。というかお願い。電話して聞いてみて」

そんなの無理だよ。しかし、西野さんが必死にお願いしてくるので、しぶしぶ電話をする事になった。

千秋君のスマホをコール。起きてるかなぁ。あ、でた。

「おはよう。こんな時間にどうした」

「おはよう千秋。突然なんだけど今日なんか予定ある?」

「いや、家でのんびりするだけだよ」

予定は無いみたいだけど無理だよなぁ。

「今日1日モデルのバイトしない?」

「え、何それ。俺は一般人だぞ」

「仕事場でトラブルがあって男性が必要なの。洋服雑誌の撮影だから服着て写真撮るだけだから。ほんと困ってるの。お願い」

千秋が困ってる私を助けてくれるのは予想がつく。でも突然すぎなんだよなぁ。

「わかった。彩奈が困ってるんだろ。友達を助けるのは当たり前だからな」

「車で迎えに行くから自宅のGPS送ってくれる?1時間弱で着くから」

「近くまできたら連絡くれ」

横で聞いていた西野さんがスタッフに急いで支持をだす。スタッフは撮影現場に先に向かい、西野さんと私は彼を迎えに行ってから現場入りする事になった。

「助かったわ。彼にバイト代はずまなきゃ。彼の名前は?」

「上原千秋です」

「じゃぁ、千秋君を車で拾ってから現場に向かう。向かう車内で仕事内容の説明をするわ。身長や体つきは山崎君に似てるんでしょ?ならば衣装も問題ない。何とかなる。いや、何とかする」

大丈夫かなぁ。

GPSで送られた住所に到着。彼に電話をすると、目の前の家から彼が出てきた。

車の後部座席に私と千秋が乗る。

「おはよう千秋。本当に急でごめんね。必ず埋め合わせはするから」

「彩奈が困ってるんだ。俺にできることはするよ。遠慮するな」

車で現地に向かいながら西野さんが自己紹介や仕事の説明をした。今日の撮影は秋物コーデのデート編。カップルがデートに着る服や小物を紹介する撮影になる。

「彩奈、俺でもできるの?ちょっと緊張してるんだが」

「大丈夫。私がリードするから。千秋はにっこり笑ってて」

そっと千秋の手を握った。

「手つないでると緊張がほぐれるよ」

「ありがとう」

にっこり笑う彼の笑顔に少しどきっとしてしまったのは内緒にしておこう。

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