第12話 彩奈の彼氏(仮)
俺は何が何だかわからないまま撮影の現場に着いた。
いや、説明は西野さんに聞いたけどあんまり理解できてない。
ただ、彩奈がリードしてくれるので笑顔でいればいいそうだ。
マイクロバスの中で服を着替えた。今は7月だが雑誌の発売は9月で、着る服は秋物らしい。暑そうだなぁと、変な心配をする俺。
メイクさんがちゃんといて、髪型や薄い化粧をされた。プロはすごいよ、だって俺がイケメンに見えるもん。化粧ってこえー。
浜辺や山の中で色々なポーズで撮影。
カメラマンの人には、恋人とデートしてる雰囲気でとお願いされた。恋人いないからわかんねー。
西野さんがくれたアドバイスは、
「彩奈があなたの恋人。2人で初めてのデート。あなたは彼女が大好き。優しく包み込んであげて」
そんなの言われたらドキドキするじゃないか。別の意味で緊張するよ。
「千秋、大丈夫だから。私とあなたなら問題ない。ほら、こっちきてハグしよ。緊張が薄れるから。私たちは恋人だから2人で頑張ろう。デートを楽しもう」
優しくハグされた。ちょっとドキドキがばれちゃうんじゃないの?あ、彩奈いい匂い。
西野さんのアドバイス通りに、彩奈大好きオーラを出しながら撮影に挑んだ。
もし俺が本当にデートしてたらこうするとか、彼女にどう楽しんでもらおうかとか、色々考えながら撮影を行った。
2人で海岸を歩いたり。ベンチに座って語ったり。おんぶをしてじゃれあったり。お菓子を食べさせあったり。色々なリア充体験をした。
撮影中は彩奈にドキドキしてたので、カメラが全く気にならなかった。プロすげーよ。本当に彼女だと思っちゃうよ。
何回か着替えたりして色々なシチュエーションの撮影を行う。沢山のフィルムを使ったが雑誌に載るのは何枚くらいなんだろう。
撮影した写真欲しいな。頼んだらくれるかな。記念にしたいじゃん。彩奈とのデート。こんなの最初で最後だからね。
「ハーイ、休憩です。彼氏調子いいよ。ばっちぐーだよ」
カメラマンのばっちぐーにみんなが一斉に突っ込み入れてた。大笑いだ。多分素人の俺が緊張しないようにしてくれたんだな。
「千秋どう?大丈夫でしょ」
「ああ、思ってたより撮影は気にならなかった。でも、彩奈の雰囲気にちょっとドキドキしたよ」
普段の彩奈とは違う感じ。クラスメイトの彩奈と違う雰囲気。すごく色気のある美しさだ。知らない人だったら一発でやられてた。
「だって今は恋人でしょ。彼女にドキドキするのはいい事だよ」
そうだな、俺もそんな恋人が欲しいよ。
「私も千秋にドキドキしたよ。普段の撮影ではこんなにドキドキしないもん。仕事だしね。でも相手が知ってる人だと照れるね。千秋が私を優しく包み込んでくれる気がした」
ちょっと俯き気味でそのセリフはやばいから。俺、死んじゃうから。
お昼ご飯はロケ弁なるものを頂いた。ハンバーグの美味しいやつ。すごく美味い。
「なぁ、彩奈はいつもこんな美味い弁当食ってるのか」
「全然、今日のお弁当は当たりだよ。もっとひどいお弁当の時もあるよ」
そうなのか。当たりの撮影でラッキーだった。
弁当のハンバーグについてあれこれ考えてたら西野さんがやってきた。彩奈の隣に座りお弁当を開けた。
「千秋君、撮影はどうだった?最初は緊張してたみたいだけど、途中からはプロのモデルに遜色ない出来だったわよ」
「そうですか?ありがとうございます。彩奈がうまくリードしてくれたので。緊張しながらも楽しく撮影できてます」
「千秋君、これからも定期的にうちでバイトしない?今日みたいな撮影を月1~2回位で。希望があればもっと増やせるし。洋服や広告のモデルだったら十分にこなせると思うな」
「俺なんて需要ないですよ。彩奈みたいな可愛いやつは人気あるんでしょうけど、俺はただのガキだし」
「お姉さんに任せてくれたらばっちり仕事見つけるよー」
彩奈はそんな会話をニコニコしながら聞いている。
「ほら、うちの事務所には彩奈もいるし安心できるでしょ。恋人と一緒なんて」
「いやいや、恋人は今日限定ですよ。まぁ、機会があれば誘ってください」
「ほら、彩奈。私すごいでしょ。新人ゲットだぜ!」
彩奈は俺に、
「うちの事務所くるならば私は大先輩になります。最初の仕事は大先輩の肩たたきです」
雑用ですか。そうですか。
午後からも同じように撮影開始。
もう緊張はない。彩奈と一緒に遊び心をもったカップルを演じる。
彩奈と目が合うと自然に笑顔になる。手をつなぎ、腕を組み、肩を寄せる。本当の恋人のような2人。
撮影もあっという間に最後のポーズ。
「じゃこれで終わりねー。彩奈ちゃん、彼のほっぺにちゅーね」
彩奈は俺の頬に軽くキス。
「彼は彩奈ちゃんのおでこにちゅーね」
なんですと!
彩奈は上目遣いで俺の目をみてうなづいた。そっと彩奈の頭を抱えるようにしておでこにキス。
「はいお疲れさん。彩奈ちゃん最高だね。またよろしく。彼氏もいい仕事だった。プロの仕事やるんだったら俺受けるよ。君の撮影は楽しかった。またやりたいね」
カメラマンはそう言って帰っていった。
「彩奈、ごめんな。勢いでキスしちゃって」
「何言ってるの?今日は恋人でしょ。おでこにキスで怒ったりしないわよ。さぁ、着替えましょう」
俺のモデル初仕事は終わった。最初は緊張したけどあっという間だった。彩奈のおかげかな。
着替えたあと、西野さんにバイト代を頂いた。その金額なんと3万円なり。1日で3万。昼飯付きで3万。まじやばい。モデルやばいよ。こんなに貰えるの?俺でこの金額だったら彩奈はいったいいくら稼いでるのか。恐るべし彩奈。
撮影現場の帰りも西野さんに車で送ってもらった。
車の中でモデルをやるなら連絡くれと名刺を渡された。給料は歩合。簡単なモデルなら1万位のバイト代みたい。時間が長ければ値段も上がるし、人気が出れば比例してバイト代も上がる。彩奈クラスになると指名で1日何十万の仕事もあるらしい。お前そんなに貰うのかよ。
「最初は1日拘束されて5000円とか普通にあったよ」
徐々に人気が出て、指名依頼がはいるようになり、CMや映画に出演するようになるか。まぁ、成功するのはほんの一握りのモデル。競争社会で成功した彩奈はすごいんだろう。
「彩奈、お前ひょっとしたら凄いやつだったのか?」
「今頃気づいたの?私頑張ってるもん」
彩奈、ドヤ顔頂きましたー!
「えらいえらい」
「もっと褒めてもいいのよ。ほら頭撫でなさい」
はい、いいこいいこ。そっと頭を撫でてやった。おい、なんでそんなに嬉しそうなんだよ。
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