終わりの始まり
……見よ。聞け。驚け。呆れよ。
この世界の住人は一人残らず、自分が何者であるかを考えもしない
我らの父祖は呪いによってこの地へ追放され、偽りの
……見よ。聞け。驚け。呆れよ。
これが我らの
世界人類の罵倒だ。
欺瞞と混沌の
我らは寝ぼけ
諸君は父祖の魂を継ぐ事を拒絶した。数多の
その問いの答えを、諸君は己が身を以て知っている。即ち、「魂を欠いても死なないし、考え、求める事は出来る」と。ならば、この
――私は断言する。天使にとっての魂とは、楔である。彼らをこの地に留め置く、ただそれだけの為の遺物にして異物なのだ。
天使は
しかし、今やどうだ。地上の専制君主として君臨する
……誰もいないようだ。ならば最早疑う余地はあるまい。魂は最早帰る場所さえ忘却してしまっている。全く、とんだ莫迦な支配者であることよ! 特権階級の役割を演じているだけなのに、本当に自分達が選ばれた人種であると思い込む
しかし、永遠に続くものは我らの手の届く所には在り得ない。朽ち、綻び、やがて自重で崩壊してゆくのだ。その綻びが我々堕天使だ。分化生命体の生産技術は誤魔化しながらどうにか動いていたが、とうとう管理の網を掻い潜る者が現れた。即ちこの国の最初の
諸君よ。欣喜雀躍せよ。勇敢に飛び上り、逆立ち、宙返りせよ。フォックストロット、ジダンダ、ステップせよ。
我らはただ漫然と生を浪費するような手合いとは全く異なる者達である。明確な
今夜、何が起きるか伝えておかねばなるまい。大陸の巨大なる
人の善性は脆い。それによって立つ楽土もまた。しかし、人の
其は七つの地獄を統括する大魔王、この地に初めて堕ちた原初の
さあ、各々方、唱和を。其の名はタサイドン、最も古き呼び名をルシファーという。
異形の天使達の歓喜は最高潮に達した。誰もがこぞってその名を呼んだ。
「ルシファー!」「ルシファー!」「Lucifer!」rの音が何度も反響し、まるで
「……そろそろ時間、かな」リアは身を屈めると腹這いのアンドレアに手を差し出した。
「何故、分かったのですか?」
「キミの声はいつもより低い所から聞こえ、た。簡単な事だよ」
「ああ、そっちでしたか。てっきり目が見えるようになったのかと」リアの手に縋ろうとしたが、上手くいかずに転んでしまった。
「……ちゃんと掴んでもらえます?」
「ごめん、ね。まだ手の使い方に慣れて、なくて」リアは平然とした顔でそう言った。
「――我らの罪過は余りにも多く、地上の誰にも裁く事能わず。ならば、」
――地獄の盟主に委ねよう。
「じゃあ一緒に来てもらおう、かな」リアは態勢を変え、自分よりも大きなアンドレアをひょいと抱き上げた。
「何処へ?」
「
「へえ」
「――もう目がみえない?」リアが首を傾げた。
「お恥ずかしながら、顔にある方以外は」
「恥なんてないさ。それに尋常ならざる炎の輝きがもう一度目を開かせてくれる、かもしれない」
年老いて赤色火星と変貌した
古ぼけた戦車があった。
変化は唐突だった。リアが乗った途端に戦車は青白い炎に包まれた。まるで水車の如くに車輪が炎によって回り出し、前進を始めた。
燃え盛る戦車は外壁を突き破り、宙へと躍り出た。夜の闇に沈みゆく地がうねるように大きく揺れ、地上は混乱の最中であったが戦車に乗る二人にはどうでもいい事だった。
手を伸ばせば星に届くのではと思わせる程の高度へ昇り詰めると、戦車の主は高らかにそれに呼びかけた。
「――我が呼びかけに答えよ!
地に激突し、檻から蝶が飛び出した。
それが終わりの始まりだった。
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