第八話『亡骸は語る』②
真琴が目にしたのは部屋の中央で培養液に浸かる女性だった。
培養液の中で女性はその黒く長い髪としなやかな肢体を浮遊させている。目は閉じており、その白い胸元を赤い柄の長刀が貫いていた。その姿はどこか真琴に雅を連想させた。
長刀の柄の先には髑髏の装飾が付いている。
真琴は一目で女性が諏訪彩女であると想像できた。
「こ……これ……」
「ウフフ。驚いたでしょ♪ 諏訪彩女と『世界の欠片』の『妖刀緋雨』よ」
ニーナは愛おしそうに培養液に満ちたカプセルに触れた。
「『緋雨』の能力はその治癒力にあるの。不思議でしょ? 刀は傷つける為にあるのに、『緋雨』はその持ち主に絶対的な治癒の能力を与えるの。じゃあ、ここで問題♪ 『緋雨』で持ち主の心臓を貫いたらどうなると思う?」
「……そんなの……解らないよ……」
「半死半生になるのよ♪ わかりやすく言えば、心は死ぬけど、身体の死は『緋雨』が許さない。これがこの医療システムの根幹を成しているの♪ よ~く見て、真琴」
彩女が浸された培養液へと近づいた真琴は目を見張った。
彩女の身体からは何本もの管が出ており、その管は背後にある巨大な機械と連結していた。連結した機械には培養液の入ったカプセルが幾つも設置されている。そして、そのカプセルには老若男女問わず、『かつてヒトであったナニカ』が入っていた。
胴体から下を寸断され、内臓が飛び出しているものもあれば、首から下が脊髄だけというものもある。どれもこれも、部分的に使用された残り、またはこれから使用されるモノなのだろう。
「ウゥッ」
そのあまりの光景に真琴はこみ上げる胃液を抑えきれなかった。
「吐くなんて失礼ね。これでも立派な医療システムなのよ。彩女お姉さまの心は死んでいるけど、身体を死なせない為に『緋雨』がずっと力を発動しているの。その力で、あなたは生還できたのよ」
「じゃあ……わたしが助かったのって……」
「そう、ここにある身体から臓器を取り出して……あなたの身体に移植したの♪ わたしが考案した『後天性魔触症』って超優秀だから、彩女お姉さまの……『世界の欠片』の影響を受けた臓器……しかも、元が魔導武装を扱える程優秀な遺体を用いるしか、治す方法が無いのよ」
「…………」
「わたしの手術って傷跡も残らないから完璧でしょ? 真琴~褒めて、褒めて!!」
「…………」
真琴は激しい怒りを覚えた。
セーレが言った通り、ニーナは自身や雅を絶望へと追い込み、生死を弄ぶ元凶だった。
「どうしたの真琴? 怒ってるの? せっかくお友達になれたのに? 雅ちゃん、救って欲しいんでしょ?」
まるで自分の心を読まれたかの様で真琴は戦慄した。
雅を救う為に今の真琴が出来る事は、大人しくニーナに頭を下げる事だけだった。
「み、雅を助けて欲しい。何でもする……。お願い……」
先ほどの雅の姿を思い出した真琴は、怒りと焦燥でその声が涙声になっていた。
「ウフフ……。そうね……。じゃあ、頼んじゃおうかな♪ お友達同士は助け合わないとね♪」
ニーナは無邪気な笑顔を真琴に向けた。
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