第4話 村人登場

タリーの料理が出来上がると、ドラゴンハンティングチームの総務班は、クラーケンの墨パスタと、クラーケンのフリッターを乗せたプレートを手際よくメンバーに配っていく。


クラーケンの墨パスタは墨の持つ深い味わいがフィットチーネのような幅広のパスタ麺に絡んで絶妙においしかった。


パスタを一口食べた後はパン粉をまぶしてあげたクラーケンのフリッターもあるので、飽きることなくクラーケンの味を堪能することが出来る。


貴史は自分とヤースミーンが小川で採取したクレソンがプレートに彩を添えていることに気づき何となくうれしくなった。


「シマダタカシ本当にこれを食べても大丈夫なのですね」


ヤースミーンが疑い深く聞くので、貴史はパスタをフォークで巻いて口に運んで見せた。


すでにお毒見として一口食べているので、何の躊躇もなく食べることが出来るというものだ。


貴史の食べっぷりを見たヤースミーンは最初はおそるおそるパスタを口に運んでいたが、その味になじむと勢いよく食べ始めた。


「シマダタカシすごく美味しいですよ」


「そうだね。生きているところを見たらとても食べる木は起きないけどタリーの手にかかるとまるで魔法みたいだ」


貴史は、あっという間にプレートの料理を食べ終わると、パスタが残っている大なべにお代わりを貰いに行った。


チームで旅をする間、ドラゴンなどの大きな獲物や大量に食材を手に入れた時は、たくさん料理してチーム員にふるまうのが慣例になっている。


冷蔵できるわけでもないのでその場で食べてしまうのが最も合理的なのだ。


「ヤースミーンさんおかげで美味しいものにありつくことが出来やした。ありがとうございます」


リヒターがヤースミーンに礼を言い、ヤースミーンも城壁を燃やしてしまったことを忘れてしまった様子で機嫌よく食事をしている。


その時、食事に興じる一同に鋭い声が浴びせられた。


「あなたたちは何をしているの。そんな魔物なんか食べて正気の沙汰とは思えないわ」


そこには数名の戦士を引き連れて魔導士風の若い女性が立っていた。


貴史は自分たちが参戦する前に、時折稲妻が光って、城壁を登るクラーケン数体が落下していたのを思い出した。


「あんたはヤヌスの村の人だね。あっしはリヒターといいやして、ドラゴンハンティングチームの団長をしていやす。あっしたちはドラゴンを追って旅から旅に明け暮れていやすが、この度はクラーケンに襲われて難儀しているとお見掛けして助太刀させていただいたところでやす。どうですか一緒に温かい料理でも」


リヒターはリーダーらしくフレンドリーに女性に声をかけるが女性は硬い表情を崩さない。


「助太刀してくれたのはありがたいけど、誰かが手加減なしで火炎の術を放ったために城壁が燃え落ちてしまったの。今度クラーケンが攻めてきたら私たちは城壁もなしにあいつらと戦わなければならない。そうなったらこの村も最後かもしれないわ」


クラーケンの墨パスタを食べていたヤースミーンの手が止まり中途半端な姿勢のまま凝固しているのが見えた。


「それはそうかもしれやせんね。どうでしょう。あっしたちが責任をもってクラーケンを退治してこの村の脅威にならないようにしやすから、その暁にはこの村をあっしたちの拠点として好きに使わせてもらえないでしょうか」


女性はリヒターを尊大な態度で見下すと、ゆっくりと答える。


「城壁を燃やしてしまった責任を取ってクラーケンを退治するのは当然でしょう。この村を拠点にするのはいいけど好きに使われてはかないません。当然ながら村の商店や宿屋では正規の料金を払っていただきます」


女性はリヒターが調子のいいことを言っても簡単には迎合しない。


「私の名はアンジェリーナ、この村の族長ガルシアの娘です。父は先の戦いで怪我を負って動けない故、私が代理を務めています。」


アンジェリーナが名乗ると、リヒターは表情を緩める。


「そうか、あんたはガルシアさんの娘さんだったんでやすね。道理で毅然としているわけだ。さ、折角食事時に来なさったのだから一緒に夕食を食べていきませんか」


アンジェリーナは、貴史達が食べているクラーケンの料理が載ったプレートを嫌悪の表情で見て、口を開きかけたが、アンジェリーナの背後に控えた戦士のお腹が鳴る音が響いた。


アンジェリーナは振り返ってその戦士をにらんだが、リヒターに視線を戻すと仕方なさそうに言う。


「クラーケンを相手にした籠城戦が続いたため、戦士たちはここ二日ほどろくに食事もとっていません。お言葉に甘えましょう」


アンジェリーナの言葉を聞いて背後に居並ぶ戦士たちは緊張を解いた。


辺境の世界では食事を共にすることは、仲間として打ち解ける意味合いがあることを貴史も理解している。


アンジェリーナが率いていた戦士たちはリヒターの案内で円を描いて座り、兜を外して寛いだ姿勢をとる。


そして、タリーたちが提供するクラーケンのパスタ地フリッターセットを恐る恐る口にい運び始めた。


時間が経過するにつれ、彼らは打ち解けてドラゴンハンティングチームの面々と話が弾み始めた。

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