交流

第9話 二人の幼馴染とのデート(疑似)①

「お待たせ……待った?」

この言葉は実に万能である。まず一つ目に、男女関係なく、使えるセリフである。

今までたしなんできた、数々の二次元コンテンツにおいても、主人公が

ヒロインに言うシチュや、逆にヒロインが、主人公にタタタッと駆け寄り、若干息を

切らせながら言うシチュなど、セリフが固定されているのにも関わらず、描写の仕方で、無数にパターンを作り出せる。


二つ目に、これに対しての受け方でも、キャラに特徴をつけやすい。

例えば、クール系や不思議ちゃんなら無言でそのまま歩き去ったり、

強気系やツンデレなら「遅い!」とイライラ顔で怒られたり、

癒し系なら「全然、待ってないです」と清楚な笑顔で言われるのも、悪くない。

そして、俺が調査研究した結果、この問いへの最適解は「ううん、今来たとこ」

であることが、すでに結論づけられている。ただ、このようなセリフを使うには、

一つ重要な条件があるのだ。


「……着いたって、さっき連絡したばかりだろ」

イケメンまたは美少女のみが、ああいったセリフを使用する権利を得られるのだ。

「えーっ、そのリアクションはいけませんよ、隊長殿。これがしたいから、

わざわざ駅前で集合にしたのにー」

河江はほおを膨らませながら、拗ねた表情で抗議をしてきた。

薄い水色に、白のストライプ柄をしたワンピース。控えめに開いた、V字の

胸元からは、白い柔肌が見えていた。そんな河江の姿を見て、ゴールデン

ウイークの旅行先で訪れた、一面に広がるネモフィラの花畑を思い出した。


「そのリアクションは正解ですね」

我に返って、河江の顔を見ると、嬉しそうに、微笑んでいるのが分かった。

「似合ってる?」

「いい……と思う」

キョドっている自分が、最高にキモかった……


「ふふっ、ありがと!キヨちゃんはまだ見てない?」

「見てないな」

「さっき連絡したら、もう着いてるって返信来たんだけどな。あと、洋くん!

なんでグループ招待、送ってるのに入って来ないの?」

「よく分からん」

承認後、どう反応すればいいのか迷っていて、結局入れなかったとは、

口が裂けても言えん。

「もうっ、心配になるじゃん……貸して!」

「分かった、分かった。今やるから」

俺はそう言って、グループ招待への参加を手早く承認した。さすがに、河江とシキ

以外は、親と姉貴と公式アプリしかいないのを、見られるのは、精神的にキツい。


ちょうど、グループに参加しました、という表示を消したタイミングで、シキから

『クイズ。キヨネ―を探せ』というメッセージとともに、この場の、俺と河江を

ガラス越しに撮影したと思われる写真が、送信されてきた。

どこから写したんだ、これ。

「あっ、いたいた!あそこ、あそこ!」

どうやら河江は、見つけたらしく、シキのいると思われる場所を、指差していた。

そちらに顔を向けると、シキは、駅前ハンバーガーショップ『フォス』の窓側席で、ムシャムシャ何かを食っていた。もっと美味しそうに食べろよ……お店が、

かわいそうだろ。


見つかったのに気付いたのか、シキが携帯を触っているのが見えると、

『勝者:鈴ちゃん 敗北者:洋ちゃん』というメッセージと、

『食べ終わった。そっちに行く』というメッセージが、ほぼ同時に、届いた。

ちなみに、初めに送られてきたメッセージの後ろには、昨日見たのと同じ、

クッソムカつく顔文字がついていた。気にしたら、さらに負けか……


「なんで飯食ってんの?向こうで昼、食べるんだろ?」

俺と同意見だと言わんばかりに、河江も小さく何度も頷いた。

「朝ごはん。昼も当然食べる」

「大丈夫か?見た感じ、ガッツリ食ってたろ」

「あんなの余裕。朝食だけに朝飯前」

おおっ、ドヤってる、ドヤってる。でもあんまうまくねーぞ。

ドヤ顔っているシキは、白いショートパンツに黒色のシャツ。その上から、

フード付きのねずみ色をしたパーカーを着込んでいた。

後、この前やったギャルゲで覚えた、キャスケットとたしか呼ばれている、

薄茶色の帽子も被っていた。


「……感想」

シキがポツリと呟いた。難聴スキルを発動して聞こえなかったフリをしようとも

考えたが、これ以上嘘を重ねるのは、あまり気分のいいことではない。

「いい……と思う」

またもや、キョドっている自分が、最高にキモかった……

「はいはい、もう行きますよー!」

ちょっとだけ、こそばゆい空気に、溺れかけていたところを、河江の一言が、

俺の意識を現実へとすくい上げた。気になって、スマホで時刻を確認すると、

10時31分と表示されていた。

「もう30分経ってんじゃん……」

「そうだよ!だから、洋くんもキヨちゃんも行くよー」

河江がそう言って、改札口に向け歩き出したので、俺もすぐ後を追った。

「ありがと」

俺の背後から嬉しそうな声が聞こえたが、さすがに振り返るのは、

恥ずかしすぎるので、そのまま前を向いて歩き続けた。





「ランチはまだ後でいいとして……とりあえず、どこ行こっか?」

3駅先にあるショッピングモールの、正面エントランスに入ったすぐのところで、

河江が、この後の行動プランを相談してきた。

「二人の行きたいとこでいい」

「うーん、でもなー。服とかアクセサリーとか見てて楽しい?」

「男一人じゃ、絶対入れないからな。意外に興味あるわ」

「ラッキー」

「その言い方はムカつくわ」


ぶっちゃけ、家族とショッピングモールに来た際は、ほぼ確実に、どっかの

休憩スペースでひたすらスマホをいじったり、ゲーセンで暇をつぶしている。

ただ、今回は誘われた上で、自らの意思で付いてくることを決めた。

なので、さすがに一人行動するのはマズいことぐらい、数多のギャルゲと

漫画やアニメのラブコメにより得た知識で、すでに学習済みだ。

それに、俺は恋愛アンチなどではない。かわいい女の子と疑似とはいえ、

デート気分を味わえるのなら、それはそれで嬉しいのが本音だ。昨日だって、

夜遅くまで、お買い物デートの過ごし方って動画を、ネットでずっと巡回していた。

まぁ、デートじゃないんだけどね……


「洋くんがそう言ってくれるなら、お言葉に甘えますか。ねぇ、キヨちゃん?」

「荷物持ちご苦労」

「お前のは絶対に持たん、絶対にだ」

こうして俺たちの、ショッピングモールでの一日が始まった。








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