六年生

三月

もう終わりか。

五年生は、自然と頬が緩む位、楽しかった。

最高学年とか、最後の年とか、あんまり実感は無いけど、身長が伸びた。

去年と変わることと言えば。それくらい。

五年の時、でかい六年生を見上げて、睨んだ。

眩しいなって。

早く俺もそうなりたい。

そう思う、俺の現在いまにも目を細めてみたり。

また、そんな日々を思い返して、涙を輝かせる。

そんな風に、卒業式、在校生代表として出席出来たらいいな。


そして、

卒業式が終わった。

卒業の時期とは呼べない程、寒かった。

春の訪れなんて感じれず、桜の花は先輩達を見送ってはくれなかった。

でも、俺からすれば、花の付かない木っていいなって思ってしまう。

ただ、突っ立って、見送る様な綺麗なものではなくて、見届けるみたいな。

背中は俺が守ってやるぜ感が凄い。

俺も、それがいいなって、みんなとは違う願いを胸に抱き、校門を出た。


帰り道、一人で歩く悲しい道。

いつもより、引き締まった、服装になれることができず、早く脱ぎたいと思い続けていた。

そうやって、頑張ったのに、誰一人、お疲れ様とかありがとうとか言う言葉をかけてくれなかった。

ただ一人、前部長がごめんねって声、掛けてくれた。

俺だけだったのか、みんなに言ったのかは分からないけど。

何に対してのごめんなんだろう。

先輩と俺は同じパートだ。

五人居る内、六年は一人、五年が三人、四年が一人。

その中でも、音楽会に選ばれたソロは、俺だった。

でも、俺はその責任を果たす事が出来なかった。

それだけでなく、先輩達の大事な舞台を壊した。

気付かれないように、背中の後ろで左拳を握った。

そうして俺は、先輩にすみませんと返した。


家に着くまで、卒業証書を持った人を何度か見掛けた。

案外近くに六年生いたんだな。

今更、思った。少し遅かったかな。

もっと、六年生と慣れ親しんでいれば、卒業式も少しは居心地が良かったかもしれない。

来年は、もっと、五年生と話そう。

いっぱい話して、沢山、思い出つくろう。

俺は、そう心に決めて、家の扉を勢いよく開けた。

そして、元気良く、「ただいま!」


でもそれには、拭えない霧が付いていて、ハッキリしなかった。

正解が見えなかった。

来年の今日。俺は、霧のない、晴れやかな「ただいま 」を言えるのだろうか……

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