【青春】鉄塔と冬の空

お題「哭声」「弱み」「冬の体育」

ジャンル指定なし


LiveNovelにて書かせてもらった作品です。なかなか楽しかったです。

――――――――――


 俺とあいつは、一年の頃からライバルだった。

 体育でも部活動でも、ことあるごとに競ってきた。なかでも体育祭のリレーは俺たちにとって重要な勝負の場だった。一年のときは勝てたが、二年のときには惜しくも敗れ、その日は悔しくて一晩中眠れなかった。


 認めるのは悔しいが、俺とあいつの実力はほぼ互角だと思う。

 だから一年、二年と過ぎても決着がつかず、俺は三年の体育祭で決着をつけてやろうと考えていた。

 おそらくあいつも同じことを考えていたに違いない。


 もちろん、勝てる自信はあった。

 もう二年以上もあいつのことを見てきたんだ。強みも弱みも熟知している。俺はたゆむことなくトレーニングを重ね、その日を迎える準備を続けてきた。


 しかし、勝負は予想外の結果となってしまった。


 体育祭は毎年九月に行われる。

 しかし、昨年の夏は異常気象の影響からか気温の高い日が続き、とうとう40度を超える日も出てきた。全国で熱中症による死者のニュースがあとを絶たず、学校側も神経質になっていたようだ。


 当然、そんな気候で体育祭の練習などできるはずもなく、俺たちが三年に上がる年、体育祭の日程が大幅に変更されることが決まった。

 今まで九月に行われていた体育祭は、今年から十二月に行われることになった。

 秋の体育祭は冬の体育祭へと変わり、それにともなって様々な変更がなされた。


 一番の問題は、俺たちが三年生だということだった。

 つまり、受験シーズン真っ盛りの頃に体育祭が行われることになる。万が一、事故や怪我などがあってはいけないと、学校側は今年から一、二年生のみを体育祭に参加させることに決めた。


 体育祭に参加できないという事実は、俺にとって想像以上にきついものだった。

 三年生が授業をしているあいだ、一年生と二年生はグラウンドで一日中なにかしらの競技を行っていた。


 窓の外から歓声が上がる。教師は何事もないかのように黒板へ向かって文字を書き、淡々と教科書の内容を説明していた。

 歓声はすぐそこから聞こえているのに、まるで別世界の出来事みたいだった。

 俺はできることなら耳を塞いでしまいたかった。




 その日の帰り道、家路を歩いているとあいつの姿が見えた。

 どうやら俺のことを待っていたらしい。

 俺たちは川の土手まで歩き、草の上に鞄を放り捨てた。


「あの鉄塔までな」

「おう」


 アラームの音でスタートし、俺たちは駆け出した。

 冬の冷たい風がびゅうびゅうと頬をかすめる。

 舗装された遊歩道のアスファルトを靴底で蹴り、俺たちは鉄塔を目指してただ走り続けた。


 足を前へだすたび、今までのことが思い出される。

 マラソンではあいつのほうが速かったが、短距離なら俺の方が速かった。水泳なら負けなかったが、球技はあいつのほうが得意だった。目の前でバスケットのゴールを決められた日は悔しくて、ずっと一人で練習していた。

 リレーで勝った年の嬉しさ。負けた年の悔しさ。

 来年こそは勝ってやるぞと意気込みトレーニングを続けた日々。

 そんな思い出が、風のように通り過ぎてゆく。


 気がつけば、鉄塔はすぐ目の前まで迫っていた。

 辿り着いたのは俺のほうが速かったのか、あいつのほうが速かったのか。

 肩で息を切らせながら、二人並んで土手の上に寝転ねころぶ。


 俺たちは空を見上げて泣いた。

 勝負がつかないことも悔しかったが、俺たちの勝負をつけるはずだった場所がなんの前触れもなくあっさりと奪われてしまったことが悔しかった。


 ふたりの哭声が、淡くぼやけた冬の空にゆっくりと溶け込んでいった。

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