【コメディ】ショートコント:密葬

お題「密葬」「蛍光灯」「本心」

ジャンル指定なし

―――――――――――――――



「久しぶり」

「おう」

「さっそくだけど、アレ持ってきたか」

「アレってなんだっけ」

「アレだよあれ。B5サイズの薄い……」

「俺らの輝かしい青春のアルバムだな」

「妙な言い方すんな。同人誌な、同人誌」

「嗚呼、青春のすべてを注ぎ込んだ本たちよ!」

「大袈裟だなあ。俺にとってはすっかり黒歴史だけどな」

「(ライターを取り出す)ファイヤー!」

「おおおっと待て待て待て」

「なんで止めるんだ」

「いきなり火をつけるやつがあるか。っていうかライターどっから出した」

「実はこの日のためにマジック覚えたんです。はい、なんもないところからライター出ます」

「わーすごい、って、わざわざこの日のために覚えたのかよ!」

「何を言うんだい。今日は俺たちの黒歴史である同人誌を処分するためにわざわざこうして集まったんじゃないか」

「いや、さっきまで『輝かしい青春のアルバム』って言ってなかった? なんでいきなり火をつけようとするの」

「たしかに急展開過ぎたな。まずは再会の喜びを分かち合おうじゃないか」

「えっ、こんだけ話しといて、そこから?」

「久しぶりだな。元気してたか。ちゃんとメシ食ってるか。外食ばかりじゃなくてたまには自炊もしろよ。風呂もちゃんと入るんだぞ。最低でも一か月に一回」

「お前は俺の親父か。それと風呂はもっと入れ」

「……思い返せば、同人誌の締め切りがギリギリで風呂に入れない日もあったなあ(遠い目)」

「いきなり回想に入るのかよ」

「それで今日は何の用だっけ」

「この流れでそれ聞くのかよ」

「わかってるさ。黒歴史の発掘だったな」

「処分だよ、処分。発掘してどうする」

「まるで密葬だな……ククク」

「いきなり厨二キャラになるなよ」

「自キャラを再現してみました」

「相変わらず変な奴だな。でもまあ、キャラに愛着があるのもわかるよ」

「(パラパラと本をめくる)で、出たー! 包帯! 眼帯! 黒マスク! 黒手袋! そしてロングコート! なぜかオタクは覆いたがる!」

「お前、それ俺が描いたキャラじゃねーか!」

「(パラパラと本をめくる)うわあ、また出た! 神! 天使! 悪魔! 十字架! 聖書! なぜかオタクは宗教モチーフが大好物!」

「それも俺のキャラじゃねーか……って、なんだこれ? おい、お前の持ってきた本から手紙が出てきたぞ」

「ああ、それ? ファンレター」

「えっ。お前ファンレターなんてもらってたの!? ちょ、ちょっと読んでもいいか?」

「おう」

「『田中君へ』って、これ俺宛てじゃねえか! なんで今まで渡してくれなかったんだよ!」

「すまん。実はずっと渡しそびれてた」

「……仕方ねえなあ。読むぞ。『いつも田中君の作品を楽しく読ませてもらっています。とても絵が上手なんですね。迫力があるし、キャラも格好良くて大好きです。それにストーリーが面白くて、何度も読み返してしまいます』だってさ」

「うんうん。俺も賛成だ」

「へへ。なんか照れるな。『それと、ずっと言えなかったことがあります』……ってなにこれ? 告白フラグ!?」

「おっ、来たか来たか!?」

「俺らもう卒業しちゃってるけどな。なになに?『先月発行された同人誌の1ページ目、5ページ目、21ページ目、あと奥付に誤字があります』だってさ」

「あちゃー」

「『気になっちゃったのでお手紙でお知らせしますね。これからも創作活動がんばってください! 山本より』って、これお前じゃないか山本ォ!」

「バレちゃった、エヘ」

「バレちゃったじゃねえ! 気付いてたんなら発行前に直接俺に言えよ! わざわざ手紙にすんな!」

「いいだろ、もう処分するんだし」

「それはそうだけどさあ。……でも、実は俺、」


(暗転)


「うわっなんだ!? 急に真っ暗になったぞ」

「これぞ黒歴史」

「アホなこと言ってる場合か。蛍光灯が切れたんだな。おい、明かりあるか?」

「ここは俺に任せろ! ファイヤー!」

「うわ熱っ、……って山本! お前、同人誌に火をつけやがったな!」

「なんたって今日はこのためにマジックを覚えたからな」

「マジックの方かい! って、ああ、同人誌が燃えていく……」

「密葬完了!」

「ミッション完了みたいに言うな!」

「もともと今日はこのために来たんだろ」

「そのつもりだったけどな。……本心を言うとさ、こうして読み返してみたらいろんな思い出が蘇ってきて、なんだかもったいない気がしたんだよ」

「そうか。俺もだ」

「なんで燃やしたの」

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