第3話 空のキラキラ

 ぼうっと空を見ていると、見えるものがある。

 キラキラ、キラキラ…空の青に反射する、何か。光の粉が舞っているように、光る、何か。


 僕はそれを見ているのが好きだった。

 何時間でも、ぼうっと見てられる。


 それは、青い空の彼方にも、紅く染まった夕空の向こうにも見えた。僕には、それがなんなのか、分からない。


 けれど、空をじっと見つめてると、光の粒が舞い始める。すごく遠いところを、たくさんの虫が舞っているようにも見えるし、妖精が光の粉を撒いているようにも、光を反射する小さなチリがくるくる飛び回っているようにも見える。


 テレビで「飛蚊症」という目の病気の話をしていて、怖くなった。

 僕は、この病気じゃないかしら?


 その話を、和樂お兄ちゃんにしたら、ものすごく笑われた。


「飛蚊症?」 


 アハハハ、とひとしきり笑って、涙目になったお兄ちゃんが、僕に座るように言った。僕は、お兄ちゃんの前に、足を崩さずに、正座した。


「あのな、それはいわゆる霊気だな。宇宙に満ちてるエネルギーそのものだよ」

「エネルギー?」

「そう、人の周りにも見えることあるだろ?」


 うん、うんと僕は頷いた。


「とりあえず、目の病気じゃないから、安心しろ」


 そっか。僕は納得した。だから、あんなにキレイなんだ。キラキラ、キラキラ、輝いてるんだ。


 和樂お兄ちゃんに聞いて安心してから、割とすぐに、それは起きた。


 なぜか、僕は、夜中に目が覚めた。

 すぐに目を閉じて寝ようとしたのに、眠れない。しかたないから、ムクリと起き上がった。部屋は真っ暗だ。お父さんとお母さんの寝ている気配だけがあった。


 真っ暗な部屋で目を凝らしてみる。なんにも見えない。でも、しばらくすると、うっすらと部屋の中が見えてきた。

 天井を見上げる。布団を見下ろす。そして、もう一度、部屋の中に目を向けた。


 そのとき、かすかな音がした。

 びっくりして上を見る。


 キラキラ、キラキラ、となにかが降ってくる。

 金の粉が、穴から落ちてくるみたいに、上から降ってくる。キラキラ、キラキラ…すごくキレイ。よく見ると、部屋のあちこちに、光の粉は降っていた。


 空間に開いた穴から光が差して、光の柱の中を光の粒が降ってくるみたい。それに合わせて、かすかな音が降ってくる。空気を震わせて、天上の歌が流れる。


 なんだろう。悲しくないのに、涙があふれる。

 心が膨らんで、なにかが、僕の中から湧き上がってくる。

 泣きたくなる。すごくキレイで泣きたくなる。そして、僕は泣いた。


 次に目が覚めたら、朝で、朝日の光で部屋はいっぱいだった。あの光の余韻は、もうどこにもなかった。

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