第2話 赤い鳥居

 あの子は誰なんだろう?


 僕は、幼稚園に通っている。バスに乗るために通る場所がある。そこには、赤い門と、小さいお家があった。お家は「お社」と言うって、篝火(かがり)お姉ちゃんが教えてくれた。


 そこを通るとき、いつも変な感じがした。

 なんか、薄い膜をくぐるような感じ。ちょっと、押されるような、空気の膜を通るような感じ。うまく言えないけど、僕の手を引いているお母さんは全然平気みたい。


 僕がお母さんを見ても、お母さんは「ん?」って、僕を見るだけ。


 そして、その門の前に立っているポールに、時々男の子が座っている。

 その子は、退屈そうに、通りを見ている。着ている服がちょっと変わってて、白い着物みたいな服に、下のほうが膨らんだ変わったズボンをはいている。


 僕はそこを通るとき、ちらっとその子を盗み見る。

 白いお顔。長い髪を2つに結ってる。目が合いそうになると、僕は慌ててそらした。


 和樂(かずら)お兄ちゃんから、むやみに目を合わせるな、と言われてたから。


 その日、お姉ちゃんと公園に行くために、その前を通った。


「どうした、変な顔して?」


 お姉ちゃんに言われ、僕はお姉ちゃんを見上げた。


「え、と。ここ、通ると頭がつっかえるみたいな、変な感じがあるの」


「ふうん?」と、お姉ちゃんは立ち止まって、赤い門に目を向けた。


「アレのせいかな?結界みたいなのがあるのかも」


 お姉ちゃんがそう言ったとき、僕のポケットから、ぽろりとクッキーの袋が落ちた。僕が拾い上げると、あの男の子がいた。


「落ちたの?」 

「うん」


 篝火お姉ちゃんは、またちらと門とお社の方を見た。


「ほしいのかもね、あげようか?」


 お姉ちゃんは、僕の手を引いて門をくぐり、お社の前にしゃがみ込んだ。僕も一緒に座る。


「あげて」


 僕は言われるままに、お社の前に、クッキーを置いた。


「あげます。かわりに、時々通るのを許してください」


 お姉ちゃんがそう言って、手を合わせて、お辞儀する。僕も真似をした。


「時々通ります。よろしくお願いします」


「うん、いいよ」


 すぐそばで声が聞こえて、あの子が僕を見ていた。

 僕と目が合うと、にこっと笑う。


「じゃ、行こっか!」


 篝火お姉ちゃんは、僕の手をつかんで立ち上がる。

 僕はもう一度、男の子を見た。

 

(またね)


 と、声が聞こえた気がした。

 ペコリとお辞儀して、お姉ちゃんの後を追う。


 それから、時々、僕はその子にお菓子を上げるようになった。


「ごめんね、また通ります」


 あの子はうなずいてくれた。


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