世界の秘密

青い星

第1話 ぼんやりと見えるもの

 僕には、ぼんやりと見えるものがある。

 この世界に重なって、ちょっとその外にある世界。それが、ときどき、見える。


 僕は6歳で、ちょうど真ん中にいると思う。お父さんやお母さんがいる世界と、あっちの世界の真ん中。お姉ちゃんはそれを「狭間」って言ってた。僕は狭間の子。どっちにもいて、どっちの子でもない。


「私もそうだったよ。白雲(しらく)、昔はね」

 

 そう篝火(かがり)お姉ちゃんは言った。

 お姉ちゃんは中学生。僕より九つ大きい。背はお母さんより高くて、髪が長い。お姉ちゃんも昔は、僕のように見えたって言った。今は時々らしい。


 僕がお母さんのお腹の中に来たときも、すぐに分かったって言った。

 朝起きたら、お母さんが光ってたらしい。青くて、藍色で、きれいだったと教えてくれた。


「ま、そこで、私のわがままライフは終わったんだけどね」


 アハハハ、とお姉ちゃんは笑った。

 

 僕も篝火お姉ちゃんには、赤い炎みたいのが見える。名前と一緒。

 赤くて、熱くて、悪いものも寄せつけない、強いエネルギーにあふれている。僕が怖いときも、お姉ちゃんがいれば平気になる。


 そして、和樂(かずら)お兄ちゃん。彼は、遠い親戚らしくて、京都の方によく行く。近所に住んでいて、僕たちに良くしてくれる。


 でも、僕には、もっと大好きな人がいた。それはおじいちゃんだった。おじいちゃんは僕が3歳くらいのときに、あっちに行ってしまった。

 おじいちゃんが亡くなる日、僕はお庭でおじいちゃんに会った。僕がお父さんとボールで遊んでいると、お庭に立って、こっちを見ているおじいちゃんに

気づいた。僕が喜んで走り寄っていくと、おじいちゃんは笑った。


「どうした、白雲?」

「お父さん、おじいちゃん!」


 僕がそう言うと、お父さんは、え、と言って黙ってしまった。そのとき、お父さんの携帯が鳴った。

 

「はい、」


 そう言ったまま、お父さんは怖い顔をして話を聞いていた。携帯を切って、僕を見る。


「白雲、病院に行くよ。おじいちゃんに会いに」

「え、おじいちゃん、ここにいるよ?」


 僕がそう言って振り返ると、おじいちゃんはいなくなっていた。

 お父さんが僕を抱き上げて、歩き出した。そのまま家の中にいたお姉ちゃんにも声をかけ、車に乗って病院に出かけた。


 病院には、お母さんとおばあちゃんがいた。白い布団に寝たおじいちゃんも。


「おじいちゃん、お家に帰って来たんじゃなかったの?」


 僕がお父さんを見上げると、お父さんは首を振った。

 お母さんを見ると、泣いていた。おばあちゃんの目も赤い。


「白雲、篝火、おじいちゃんにお別れして?」


 お父さんが言うと、お姉ちゃんは寝ているおじいちゃんのそばに行って、その手を取った。


「おじいちゃん?」と話しかける。


 おじいちゃんは何も言わなかった。お母さんが、声を出さずに泣き始める。お父さんがお母さんを抱きしめた。おばあちゃんもお姉ちゃんの肩に手を回す。お姉ちゃんも、大きな涙を流していた。


「おじいちゃん、」

 

 みんな、おじいちゃんを囲んで泣いていた。

 僕は、そこに立つ、おじいちゃんに目を向ける。

 

「白雲、おじいちゃんは行くよ。おばあちゃんやお母さんを頼んだぞ」


 おじいちゃんがそう言った気がした。僕の目からも涙が落ちる。


「うん、おじいちゃん、バイバイ」


 おじいちゃんの心が体を離れ、遠くへ行くのを感じた。おじいちゃんが遠くへ行っちゃう。僕は泣いていた。


 そうして、おじいちゃんはあっちの人になった。

 でも、おじいちゃんは今も僕のそばにいて、時々僕を助けてくれる。

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