終章
地面に叩き付けた柘榴のごとく粉砕した敵の頭部を眺め、リジェッタはレインシックスへと新しい弾薬を装填する。
「皆さん。一度深呼吸しませんか?」
ビルの屋上、リジェッタを囲むのは黒い剛毛が生えた半人半獣の化け物だった。騎士団ですらない。どこかの馬鹿が量産した馬鹿の掃除、それだけだ。
リジェッタはダンスでも踊るような気軽さで弾丸をばら撒いた。何十匹といたはずの敵が、瞬く間に掃除されていく。
すると、頭上に影が差した。
リジェッタは反射的に後方へと跳ぶ。
屋上の中心に隕石が直撃した。いや、違う。それはさっきと同じ化け物だった。ただし、大きさは他と比べ十倍以上もあった。血で濡れたかのように真っ赤な双眸を光らせ、リジェッタを見下ろす。
「まあ」
どうやら、勝負はこれかららしい。
「……マリール。聞こえますか」
リジェッタを一踏みで殺せるはずの化け物が、口を開いたまま身体の動きを完全に停止してしまった。
まるで、眼前に致死量の猛毒が間欠泉のごとく噴き出していると気付いてしまったかのように。
「私、それなりに頑張っているのですよ」
ここにはいない友人に想いを告げ、リジェッタは優しく微笑んだ。化け物がやっと動く。両腕を振り回し、醜い雄叫びを上げて。
リジェッタはレインシックスを腰のホルスターに戻した。そして、両腕を顔の前で交差させる。瞬間、両腕が肥大化し鱗に覆われる。魔刃の爪が十振り、最後の標的へと狙いを定めた。
どれだけ戦いが過激になっても、リジェッタは笑みを絶やさない。ここに自分がいて、自分が生きたいように生きているからだ。
「ですから、見ていてくださいね」
化け物へと突撃する。
人のカタチをした竜が、この街にいる。たとえ、全てが偽物だとしても、その強さだけは偽りではない。
だからこそ、リジェッタは戦う。
いつか、本当に〝竜〟になれるように。
大切なモノを護れるように。
――戦い、護る。それこそ竜の本懐なのだから。
偽竜のリジェッタ 砂夜 @asutota-sigure
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます