第七章 ③


 食事を終えたリジェッタは街外れにある共同墓地に訪れていた。他に付き添いは、ジャックス一人だけだった。

 リジェッタは膝を折って、真っ赤な花を墓標へと飾る。

 お昼をすぎた街に流れる秋風が冷たさを増していた。

 なのに、皮肉なほどに太陽は眩しい。

「やはり、あなたには赤が似合いますね、マリール」

 出来るものなら、同じ時を生きたかった。

「あの子がスパイであることは我も知っていた。しかし、まだあまりにも幼い。可能ならば、汝に救ってほしかった。……すまんな。我がもう少し楽に動ければよかったのだが」

「敵を救ってしまえば、仲間に示しがつきません。仕方なったのですわ」

 ジャックスは大きな組織の長だ。心情だけで動くには、その四肢に巻かれた鎖はあまりにも重すぎた。

「《偽竜》よ。これから厳しい戦いになるぞ。まだ、イーストエリアでさえ一つに纏めきれていない。ワイバーン騎士団のような連中が、何度も現れるだろう」

「ならば、何度も討ち倒すまで」

 墓標を名残惜しそうに撫で、リジェッタが立ち上がった。

「くっくっく。汝は面白いな」

 変なことを言われた。

 リジェッタが小首を傾げると、ジャックスが空を見上げた。

雲一つない快晴だった。

「昔の汝だと、金を稼いで魔造手術し、竜に近付くのが目的だっただろう。だが、今は身体ではなく心として竜になろうとしている。大きな変化だ」

「そういうものですか?」

「そういうものだ」

 ジャックスが楽しそうに笑った。

「《偽竜》よ。汝なら竜になれるだろう。それも、その翼をもって弱き者を護れる優しき竜に。今は理解出来ずとも良い。だが、いつかは分かってくれ」

 墓標へと背中を向けたリジェッタが、小さな溜め息を吐いた。

「あまり、期待しないでくださいね」

「くっくっくっ。ああ、そうするさ」

 分かっているのかいないのか。リジェッタはゆっくりと歩き出す。ジャックスがさも当然そうに隣を歩く。

「《魔狼》よ」

「なんだ《偽竜》」

 リジェッタは前を向いたまま、ジャックスへと言った。

「少なくとも私は負けません。ですから、その程度には安心してくださいね」

 ジャックスが目を点にした。ただ、すぐにくすぐったそうに肩を揺らした。それは安堵の表情によく似ていた。

「どこかで紅茶を飲もうか。美味い茶菓子がある店がいいな」

「ああ、それはとても素敵ですね」

 そうして、二人は並んで墓地を後にした。


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