三十、 裁 判(2)

 次に、ホトケが閻魔王の裁きの場に立った。


 言わなくてもいいことまでべらべら喋る

 カワバタとは対照的に、

 ホトケは終始、

 大王の問いかけに黙秘を貫いた。


 閻魔王は言った。


「いま言われたことは、すべて本当か? 

 言っておくが、

 罪をまぬがれようと、

 嘘をつくことも罪なことじゃが、

 自分の身に余る罰を受けようと、

 してもいないことをしたと認めることも、

 正義の目から見れば、

 同じく罪なことなのじゃぞ?」


 大王の問いかけに、ホトケは沈黙を守った。


「最後まで一言もしゃべらぬつもりか。

 芯の強さだけは、たいしたものだな。

 おまえのしたことは重罪であるから、

 どのみち余がこの目で、

 おまえがしたことを

 確かめてみなければなるまい。

 これ、倶生神よ。

 この者が犯した罪を鏡に映し出せ」


「仰せの通りに、大王様。

 それでは早速、こいつがしでかした罪を、

 浄玻璃鏡に映して差し上げますが、

 なにぶん記録が膨大でございますゆえ、

 さしあたり重要な場面のみ

 ご照覧ください」


 鏡には、ホトケの罪業の数々が

 映し出された。


 それを見て、

 プルートーは思わず叫んだ。


「げげっ、こいつはたまらん! 

 これが本当に、

 この男がしでかしたことなのか!?」


 閻魔王の書記官たちは、口々に

「鬼だ、鬼だ」と言った。


 プルートーはつぶやいた。


「おれはこんな悪党と旅を続けてきたのか? 

 おれともあろう者が、気づきもしなかった。

 いや、薄々気づいてはいたが、

 まさかこれほどとは――。

 まったく、人間とは計り知れぬ生き物だ。

 しれっとした顔で、人知れず、

 心に鬼を飼っているのだからな」


 被告の男は、例の仏頂面で、

 眉一つ動かさない。


「この男、名をホトケと言ったか? 

 いや、マタヨシたちは確かに

 そう呼んでいた。

 おれは勘ちがいしていたのかもしれぬ。

 ある人が仏であるということは、

 その人が鬼でないということではないのだ」


 裁判は粛々と進行し、判決が言い渡された。


「おまえの素性には、

 たしかに同情できるところもあるが、

 おまえが犯した罪は、恐るべき罪だ。

 断じて赦すことはできぬ。

 地獄の猛火を浴びて、反省するがよい。

 おまえを、等活地獄の別処送りとする。

 判決に不服がある場合は、

 その旨を係りの者に申し立てよ。

 余からは以上じゃ。下がってよし!」

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