二十七、帰 還

「ここはどこだ……。

 いつのまにか眠りにつき、

 長い夢を見ていたようだ」


「やっとお目覚めのようですね。

 ここは地獄の一丁目です。

 帰ってきたのですよ。

 わたしたちは、最初の場所に

 帰ってきたのです。

 地の底、地獄の奥底から、

 わたしたちは帰ってきたのです」


「そうか――。

 あれは夢ではなかったのか。

 おれたちは帰ってきた。

 無事に帰ってきた」


「あなたのからだは、

 一緒に旅をしていた牛頭が

 再生してくれました。

 彼はよく働いてくれたので、

 わたしから褒美をとらせました」


「そうか。彼はもう行ってしまったのか。

 おれからも一言、礼が言いたかった」


「人間から礼を言われても、

 彼は喜びやしませんよ」


「かもな――。

 それにしても、何十日も

 深い眠りにつき、そのあいだずっと、

 長い夢を見ていた気がする。

 ひどく不思議な夢だった。

 おれたちは、ここではないどこか、

 不思議な国にいて、

 不思議な人々と交わっていた」


「その話は、長くなりそうだから、

 また別の機会にしましょう。

 いまはそれよりも、

 しなければならないことがある。

 わたしたちは久しく、本筋からそれすぎた。

 寄り道はおしまいです。

 わたしたちはこれから閻魔宮に向かいます。

 あなたがたはそこで閻魔王に謁見し、

 罪の裁きを受けるのです」


「とうとうその時が来たか。

 この奇妙な地獄めぐりの旅も、

 終幕がきたというわけだな。

 あんたにはいろいろ世話になった」


「あいにく、まだ

 お役御免とはいかないんで。

 別れの言葉は、

 最後まで取っておいてください。

 ともかく、さあ、立って。

 地獄の主のもとに向かうとしましょう。

 閻魔宮は、あの山を越えればすぐです」


   (第四章、終わり)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る