十三、修羅の町

 マタヨシは町の様子を見て言った。


「ひどい荒れようだ――。

 活気がなく、死の気配に満ちている。

 人間は、生きる目的を見失うと、

 ここまで堕落してしまうものなのか」


 小屋の軒差に、干し肉が

 ぶら下がっているのを見て、

 彼は『何の肉か?』と思った。


 小屋の近くで、二人の男が

 このように言うのを聞いた。


「新入りの様子はどうだ?」


「ひとしきり暴れたが、

 取り押さえてやった。

 いま向こうの木の幹に

 縄で縛りつけてある」


 マタヨシは、男たちの肩や腕に

 しるしがあるのを見た。

 それは、人を食らう者の

 しるしであった。


 町の外れでは、男が

 木に縛りつけられていた。


 血だらけの男は、マタヨシを見るなり、

「助けてくれ!」と訴えた。


 マタヨシは男に聞いた。


「あなたはどのような罪を犯して、

 ここに縛りつけられているのか?」


「おれは何もしてねえ……。

 昼寝してたら、あいつらがいきなり、

 襲い掛かってきやがったんだ。

 信じてくれ! 神に誓って、

 おれはなんにもしちゃいない。

 頼む。この縄をほどいてくれ!」


 マタヨシは男に言った。


「おまえに酷いことをした輩に

 復讐しないと誓うなら、

 おまえの縄を解いてやろう」


「ああ、誓う! 誓うから、

 早くこの縄をほどいてくれ!」

 

 マタヨシが縄を解いてやると、

 男は荒地の方角へ走り去っていった。


 ――その夜、乱闘騒ぎがあった。


 昼間、木に縛りつけられていた男が、

 武器を手に復讐にやって来たのである。


 マタヨシが来たときには、

 男はすでに取り押さえられていた。


 凶器を弄んでいた

 町の首領格の男が言った。


「幸い、怪我人は出ていないようだ」


 マタヨシはその男に聞いた。


「誰も怪我をしていないのなら、

 どうして剣が血に濡れているのか?

 あなたは血に濡れた剣を見て、

 どうして怪我人はいないと言うのか?」

 

 男はマタヨシの顔をじっと見て、


「この男の縄を解いたのは、きさまか?」


「そうだ」


「この男を連れて行け」


 カワバタがマタヨシをかばって言った。


「ああ、勘弁してやってください! 

 この人は、昨日来たばっかで、

 まだなんもわかってねえんですよ。

 あっしからも、帰ってから

 よく言い聞かせておきますんで、

 今日のところは、どうか

 見逃してやってくだせえ!」


 首領格の男は言った。


「いいや、この男のしたことは、

 他の者の手前、見過ごすことはできん」


 男は、地面に這いつくばる

 カワバタを見下ろして言った。


「とはいえ、仲間からの

 衷心の訴えとあれば、

 無下にするわけにもいくまい。

 皆の者、どうか――? 

 ここはひとつ、この男に

 試練を与えることにするか?」

 

 居合わせた人々は、

「そうだ、そうだ」と言った。

 

 男はマタヨシに言った。


「よし。おまえに『試練』を与える。

 おまえは、夜明けとともにここを発ち、

 荒地の向こうに行け。伝承では、

 人が住む町があるはずである。

 おまえが無事行って帰ってこられたら、

 そのときは、おまえを仲間と認めよう」


 そう言うと、男はマタヨシを自由にした。


 あばら屋に戻ると、カワバタが

 マタヨシに言った。


「やつらに刃向っちゃいけねえ! 

 やつらはこの町に、

 むかしっからいる悪党で、

 人の面をかぶっちゃいるが、

 中身は恐ろしいさ。


 いいかい? これまで試練を受けて、

 帰ってきたもんなんて、

 ただの一人もいねえ!

 聞いた話じゃ、荒地の向こうには、

 何もない砂漠がずうっと

 続いてるっていうじゃないか。

 試練なんていうのは、ただの口実で、

 あんたを村八分にするのが

 やつらのねらいさ」


 カワバタは続けて言った。


「あっしにはねえ……。

 あんたはここにいちゃいけない

 人間な気がするんだ。

 悪いことは言わないから、

 あんたは夜のうちに

 こっそりここを出て、

 あの門をくぐり、

 あっちの世界に行きなせえ」


 マタヨシは答えて言った。


「あんたたち二人が

 おれと一緒に行くなら、

 おれも門をくぐって行こう」


 カワバタは、しばしの沈黙の後、

 言った。


「うちらのことは、

 どうかかまわねえでくだせえ」

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