第三章 六道の辻

十、門前の広場

 橋を渡って、灰色の林を抜けると、

 門前の広場に出た。

 

 真横に並んだ、六つの巨大な城門があり、

 広場には、大勢の人間がたむろしていた。

 マタヨシは、広場の人間たちの様子を

 不審に思って見た。


「ここにいる人たちは、

 いったい何をしているのだ? 

 だらしない姿勢で座って、

 ぼんやりと空を見上げたり、

 妙な歌を歌ったり、あちらには、

 昼寝をしている姿もある」


 六つの城門は、武装した夜叉によって

 守護されていた。夜叉は古びた槍を手に、

 門の両脇に静かに立ち尽くしている。


「たしかに近づきがたい空気はあるが、

 鎧も槍も、錆びてぼろぼろではないか」


 二人の人間がマタヨシに近づいてきた。

 小男が会釈をして言った。


「遠路はるばるよくいらっしゃいました」


 マタヨシは小男に言った。


「別に来たくて来たわけじゃないさ。

 それより、教えてくれないか? 

 この人だかりはなんだ? 

 ここはどういう場所なんだ?」


 小男は答えて言った。


「ここは、六道の辻と呼ばれている所です」


「六道の辻だと? それでは、

 あの門は、あの世に通じる門だというのか?」


「ええ、簡単に言えば、そういうことです。

 それぞれの門が、別世界に通じていて、

 六つの道あるから、六道の辻というわけでして」


「なんと! 行き先は自分で選べるのか?」


「いえ、選べるには選べるんですが、

 どの門がどの道に続いているのか、

 皆目わからねえ始末で。

 それでみんな困って、ここで足止めを

 食ってるってわけなんです」


 マタヨシはあらためて、広場の先にある

 六つの城門を見た。


「なるほどな――。こいつはたしかに難問だ。

 足が止まるのも無理はない」


「これがほんとの立ち往生、

 なんて言う人もありましてね?」


 マタヨシはいたって真面目な顔つきで、


「誰も立っていないじゃないか、

 うまく言ったつもりかしらんが。

 みな、うんざりしきった顔つきで、

 退屈という名の無為に、なんとか

 耐えているという感じだ」


「おっしゃるとおりの有様ですよ」


 小男はそう言って苦笑したので、

 マタヨシの警戒心が少し緩んだ。


「人間とまともに口をきくのは、

 ずいぶん久しぶりだからかな?

 なんだか、妙な感じがする」


「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。

 あっしは、カワバタ。

 そっちの仏頂面が、ホトケです」


「マタヨシだ」


 簡単な自己紹介が済むと、

 小男はマタヨシを誘って言った。


「ずいぶんお疲れのご様子ですね。

 汚いところでよければ、

 少し体を休めていかれませんか?」


「それはありがたい。

 思えば、こっちにきてから、

 腰を落ち着けることもなかった」


「それじゃあ、参りましょうか」


 マタヨシは二人に付いて歩いた。

 道すがら、マタヨシは思った。


  旅は道連れか。

  冥土の旅路は、

  孤独なものとばかり

  踏んでいたが、

  見ると聞くとじゃ、

  ちがいがあるようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る