第8話 嫌悪

「初めまして。ルベリックです」

「ブランシュよ。よろしく」


 第一印象はひ弱そうであまりいい印象は持たなかった。





 アダマント王国第2王女として生まれ、先天性スキルを持って生まれたが、アダマント家の家訓である『王族は誰よりも高潔な魂であれ』という言葉を体現しているのか、家族も先天性スキルについては何も言わなかったし、それに相応しい職に就くように強制することもなかった。


 しかし自分は負けず嫌いで、持って生まれたスキルに頼ることのない、持っていなくても負けない人になりたくて、あえて軍部という道を選んだ。


 軍部の最高責任者である元帥を始め、大将階級の人達は知っていたが、私はあえて身分を隠して士官学校へ入学した。ここでも負けず嫌いが出たのはまだ若かったからだろう。


 もちろん女性というハンデもあったが、それよりも才能という面では他に引けを取らないという自信もあった。入学式には主席入学ということで、代表の挨拶をした。


 そこで同じクラスの隣の席になったのが、ルベリックという青年であった。





 同じクラスで彼と一緒の時間を過ごすことでわかったことは、とてもゆっくりとした人で、自分とは正反対。ひ弱で実際体もそんなに強くはないそうで、運動をするとすぐ息切れをするくらいだ。軍部の兵站か衛生機関で入隊するのを希望しているほどだ。


 なんで士官学校へと思ったが、彼は元クンツァイト帝国の貴族の息子だったらしいのだが、派閥争いに負け家が取り潰しになり、父親は処罰され、母親と彼は国外追放で一緒にアダマント王国へ来たのだそうだ。


 その時、アダマント王国の隊員に助けられたため、そして軍に入れば安定した給料をもらえるのもあって、母親を養うために士官学校へ入学したのだそうだ。





 士官学校での日々は過酷なものでもあったが、負けず嫌いな性格と軍部というのは合っていたらしく、卒業時には異例の少尉まで階級を上げての卒業となり、卒業生代表で挨拶をした。配属先は特務機関へとなった。


 ルベリックは順当に准尉として、衛生機関へ配属となり卒業することになった。





 次にルベリックと出会ったのは、半年後のネフィライ連合国とクンツァイト帝国との衝突で起きた難民支援のため、帝国との国境付近に部隊と展開し、逃れてきた難民の支援と入国審査を行っていた。


 私の部隊は帝国寄りに展開していたため、元帝国の貴族であるルベリックに地理の情報を提供してもらいながら、難民支援と帝国から来る不法入国を取り締まっていたが、その際に難民の母親から子供が見当たらないということで、探すことになった。


 無事子供は見つかり、今回の作戦を終えた後、久しぶりの士官学校仲間との出会いに話を咲かせ、日を改めて食事をしようということになり、いつの間にか恋人の関係になっていた。


 もちろん私は王族だ。恋人として付き合うに辺り、王家の間諜から身辺調査がルベリックに入った。もう切れているといっても、元帝国の貴族だ。それは仕方のないことだ。


 間諜の身辺調査でも白ということがわかり、改めて恋人として家族にも紹介した時のルベリックの慌てようは、今思い出しただけでも笑えてくる。まぁいきなり王族、つまりこの国のトップと会うのだ。仕方ないこととはいえ、笑ってしまって申し訳なかった。





 1年の交際を経て、ルベリックと結婚。無事子供も授かり、そして待望の娘であるノワが生まれた。自分のお腹から生まれた子、こんなに愛しい存在は他にはない。


 神託鑑定の結果、先天性スキルは無かったが、王家ならびにアダマント王国ではスキルは努力してこそ価値がある国風だ。先天性スキルを持って生まれた自分と同じく、家族はノワのことを祝福してくれた。


 結婚を気に私が王族の人間であることは、軍部ならびに国民に知られてしまったが、みんな祝福してくれたので、特に王族ということを隠すことはもうしなくなっていた。





 そしてそれから年月が経ち、もうすぐルベリックとの2年目の結婚記念日を近日に控えた日だった。


 その頃には私もノワを乳母に預け、既に軍部に育児休業から復帰し、仕事に邁進していた。久しぶりにルベリックと休日が会ったので、ノワと私達3人、護衛2人でちょっと遠出してノワと私達2人のお揃いのペンダントを作成してくれた職人へ、お礼も兼ねて会いに行った日の帰りだった。


 それは計画的な犯行だった。行きには無かった木が道に横倒しになり、迂回するため馬車を行きとは違う道を走らせていた帰り道。


 突如御者をしていた護衛の一人と馬が矢で打ち抜かれた。


 馬車の中にいた私とノワ、夫と護衛の1人は横倒しになった馬車から這い出ると、そこには50人以上の盗賊らしき人達が囲んでいた。


「王女は捕らえろ。後は殺して構わん」


 盗賊の長らしき人物が号令を掛けると、有無を言わさず戦闘に入った。私が王女ということを知っていての襲撃。そして統率の取れた動き。盗賊の成りをしているが、明らかに違う。これは計画的な犯行だ。


 頭をフル回転し、そう見極めた私は、護衛にノワを預け戦闘に入った。今思えば慢心していたのだろう。自分が生まれた時に授けられたスキルを嫌い、努力で今の地位に昇りつめたのだ。この人数でもやれるという自信もあった。


 しかし、彼らの狙いは私ではなく、夫そして娘であるノワだった。


 馬車の中でもみくちゃになり、横倒しになったときに負傷したのだろう、夫と護衛はそれぞれ手と足を負傷していたようだ。


 まず目の前で夫のルベリックの首が飛ぶのが見えた。そしてノワを守るようにして護衛も背中を斬られる。私の記憶が鮮明なのはここまでだった。




「傍若無人」



 生まれて1度も発動したことが無かった。私自身嫌っていたスキルを発動した。




【傍若無人】

 旁かたわらに人無き者の若ごとし。

 全能力値極補正。自身の能力値限界突破。

 戦闘による高揚感上昇に伴い、戦闘停止思考の抑制不可。




 気が付いた時には、周囲には元は人間だった肉片が散らばり、血の海と化していた。




 その後、気絶した私は通りかかった商人の通報により、警備兵ならび軍の出動により回収。目撃者が多数いたため、この事件は大陸中に広まった。




 死者推定67名。生存者2名。




 人間が肉片になっていたため、武具の数で人数が割り出され、死者は推定人数となり、生存者は私と幸いにして生きていた娘であるノワの2名だけだった。


 今回の事件の計画性から、極秘に情報機関を通しで調査が入ったが、生存者がおらず、裏との繋がりが乏しいため、困難を極めたが、調査数か月後に判明したことによれば、クンツァイト帝国の侯爵家が元帝国貴族であるルベリックが、結婚したという情報をどこかから聞き、それが先天性スキルで有名なアダマント王国王家の間に子が出来たと聞いた。


 その侯爵家がルベリックの家を自身の派閥争いで負けた際、尻尾切りに使った家で、取り潰されたルベリックが王族と結婚したことが気に食わないという、自己中心的な考えの末、王族を攫い自身の子供を産ませるために襲撃したことが判明した。


 ノワが生まれたことでもわかるように、先天性スキルとは遺伝するわけではない。しかし、職人の子供には職人のスキルが付きやすいという風潮があるように、先天性スキルも遺伝するのでは、もしくはつきやすくなるのではという考えは他国では根強い。


 この考えのもと、今回の襲撃を行ったとみられ、調査終了後、数週間後には侯爵家当主は謎の死を遂げた。

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世界を呪った私の異世界との付き合い方~あなたは誰を呪いますか?~ 遣都 @Sorella

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