10話 ギルド国

盗賊団の戦いを終えたサイジは、朝の5時前に帝国の受付門に着いた。


「おはよう。ジンヤさん」


「お、サイジの兄ちゃん!。今回はどうだったんだ?」


「無事に終わったよ。ふぁ〜、眠い」


「あれ?。もう1人の少年は?」


「先にギルド国に連れてってもらった。ユリナさんも一緒」


「へぇ。あれ?。てことはギルド国の調査団の連中も来たって事か?」


「そのとうりだ」


「なぁ、毎回気になるんだけどよぉ。お前さんどうやって。応援を呼んだんだ?」


「ん?。鳥を使ったんだけど」


「鳥?。どうやって呼んだんだ?」


すると、サイジはポーチからある物を取り出した。


「この笛を使って呼んだのさ」


サイジが取り出したのは緑の魔石が埋め込まれたの笛だった。


「この笛に魔力を込めて吹く事で、ギルド国にいる運び鳥を呼べるんだ。そして手紙書いて向こう送ったのさ」


「まさかぁ。そんな遠くまで音が届くわけないだろ」


「だから魔力を込めて吹くって言ってるだろ。この笛は特殊な作りになっていて魔力を込めて吹くと鳥に着けてる魔石が反応するんだ。もちろん笛と鳥、両方に着いてる魔石は同じものだ。つまり、笛に埋め込まれてる魔石に鳥に着いてる魔石が反応して、その場所に来るようなってるんだ。結構便利だぜ」


「ほぉ、向こうの国は進んでるなぁ。それに比べて帝国はまったくだぜ」


ジンヤはそう言いながら、ため息をついた。


「ジンヤさん。俺も全力を尽くして帝国の平和の為に協力するよ。だからそんな落ち込まないでくれよ」


「お前さんのその言葉にはいつも救われてるよ。そうだよな、俺も頑張らないとな!。ありがとうなサイジの兄ちゃん!」


「おう、それじゃ俺は行くぜ。はい2000ワンク置いとくよ」


「はいよ。お疲れさん!」


そう言ってサイジは門を潜り、アスクナのレイオの屋敷に向かった。


そして数十分後、サイジはレイオの屋敷に到着した。


「お疲れ様です、サイジさん。では、報告を聞きましょう」


「はい、盗賊はギルド側で全員捕らえました。そしてユリナさんを含めこちら側の被害者計3名は無事助け出しました。これはリオヤの協力のおかげです」


「リオヤくんが?。あれ、そういえばリオヤ君の姿が見えないのですが?」


「リオヤは、魔力切れを起こしてしまったんです。それで、ギルド国の調査団と一緒にそのままギルド国に連れてってもらいました。でも命に別状はありません」


「そうですか。リオヤ君がサイジさんに協力を」


「まぁ、俺は止めたんですけど。リオヤの強い覚悟に俺も負けちゃいました」


「それだけリオヤ君は、サイジさんを信じていたんですよ」


「俺の事をですか?」


「はい。信じてなければ協力なんてしません。きっとリオヤ君は、サイジさんに対して何かを感じたんだと思います」


「何かって?。何です?」


「僕はリオヤ君じゃないからわかりませんけど。僕がサイジ感じたのは、強い信念と優しさ。そして運命ですかね」


「運命?」


「はい。僕もサイジに助けられた時そう思いました。あの時サイジさんが僕を助けてくれたから、今僕は生きてここに居られるんです。あの時は本当に死を覚悟しましたから。こうしてサイジさんと出会えたのも、何かの運命だったんじゃないかと思って」


「大げさですよ」


「そんな事ないですよ。サイジは今でも僕の命の恩人です」


「そんな、俺には勿体ないお言葉です。あ、レイオ様。もう1つ報告したいことがあるのですが」


「なんでしょう?」


「盗賊団の件なんですが。実は盗賊団の正体は、元帝国第3騎士団の人たちだったんです」


「な、何ですって!?。それは本当なんですか!」


「はい。盗賊団のリーダーは元第3騎士団の隊長のルオガと言う人物です」


「そ、そんな。あのルオガ隊長が」


「え、ご存知なのですか?」


「はい。ルオガ隊長は騎士団を突然退団して行方不明になっていたのですが、まさか」


レイオは下を向き複雑そうな表情を浮かべた。


「それで、ルオガ隊長はどうなるんですか?」


「正直俺にもわかりません。俺の弁護次第でどうにかなる可能性もありますが。この件を引き受けたいじょう、俺自身も出来る限り頑張ります」


「そうですか。・・・分かりました、この件はサイジさんに任せます」


「承知しました」


サイジはそう返事した。


「それはそうと。こちらからも一つ報告があります」


「報告?。一体どの様な?」


するとレイオが使用人に扉を開けさせる。


「どうぞ、お入りください」


「し、失礼します」


そこに現れたのは。


「え、リカナさん!」


「ど、どうも」


「失礼します」


入って来たのは、リカナとその両親だった。


「サイジさん、リカナさん達もギルド国に連れて行ってください」


「え、リカナさん達を?」


「はい、今回サイジさんと騎士団の一件でリカナさん達は帝国騎士団から目をつけられてしまいました。サイジさん、リカナさん達の安全を守る為にもお願いします」


レイオは頭下げる。それを見たサイジは。


「レイオ様、頭をお上げください!。話はわかりました。こちら側でリカナさん達家族を守ります。だから、俺なんかの為に頭を下げないでください!」


「サイジさん、ありがとうございます」


すると、リカナがサイジに声をかける。


「あの、サイジさん」


「はい、どうしました?」


「あの、私達はこれからどうなるんですか?」


「ギルド国に向います。詳しい話は向こうでしっかり話します」


サイジがそう言うと。リカナ父親がサイジの所へ来る。


「貴方が娘を助けてくれたサイジさん、ですね」


「はい」


「・・・その件はありがとうございます。ですが」


リカナの父親の顔が歪む。


「その件で、我々の仕立て屋の店に無期限の営業停止処分が下されてしまったんだ。この先我々の店が営業出来なかったら、・・・」


「お父さん、ごめんなさい」


「いや、リカナは悪くない。お前が無事ならそれでいいんだ。だがこのままでは、我々も生活出来なくなってしまう。向こうでは我々の仕事先があるか心配で」


そう言われたサイジは。


「その話は向こうに行かないと出来ないですが、ただその件は大丈夫です。俺が責任を持ちます」


「・・・その言葉信じていいのかい?」


「はい」


「・・・半信半疑だが、一様信じてみるよ」


「ありがとうございます」


そう言ってサイジは頭を下げた。


「では、そろそろ向かいますよ。荷物の準備はいいですね?」


「はい、出来る限りの荷造りはしました」


「分かりました。では、外で待っていてください」


「は、はい」


リカナは両親と一緒に屋敷の外に出た。


「ではレイオ様、俺もこの辺で失礼します」


「あ、待ってくださいサイジさん!。報酬をまだ渡してません!」


「・・・レイオ様、今回の報酬は頂けません」


「え?。何故ですか?」


「今回はレイオ様に助けていただいたのと、エンペラーポーションを俺なんかの為に使わせてしまった。それで報酬をもらうなんて」


「それとこれとは話は別ですよ」


「いや、しかし」


「サイジさん。サイジさんの人柄がいいのは、僕には分かってます。ですが、契約は契約です。それに今回の事は気にしなくていいと申し上げましたよね」


「レイオ様。・・・」


「僕にも僕なりの道理がありますし、サイジさんにもサイジさんのなりの道理があります。だからこそ、お互いに公平でありましょう。どうか、報酬を受け取ってもらえませんか?」


「レイオ様。・・・、本当にありがとうございます!」


「サイジさん、これからもよろしくお願いします」


「はい、ありがとうございます!」


そう言ってサイジは頭を下げた後、レイオから60万ワンクを受け取った。


「あ、それとサイジさん。ほとぼりが冷めるまで2週間は最低でも大人しくしてた方がいいです。貴方は少なからず帝国第3騎士団に目をつけられているので」


「第3騎士団・・・。わかりました」


「サイジが来れない2週間の間は我々が出来る限り力を尽くします」


「承知しました。では2週間後また来ます」


サイジはレイオに再び頭を下げた。そしてそのまま頭を上げ、屋敷の外に出た。



数分後、サイジ屋敷の外に出ると。


「あ、サイジさん」


外にいたのは、リカナとその両親。そしてリオヤの母親レンナだった。


「あの、サイジさん。リオヤとユリナは無事なのですか?」


「レンナさん。リオヤとユリナさんは無事です。リオヤは疲れたみたいで、2人は先にギルド国に向かいました」


「2人は、本当に無事なんですね?」


「もちろんです。俺を信じてください」


「・・・はい、サイジさんの言葉を信じます」


「ありがとうございます。では皆なさん、準備はよろしいですね」


「はい。必要な物は台車に積みました」


「私も、大丈夫です」


「よし。では参りましょう!」


サイジはポーチ中から緑の魔石の付いた腕輪を出し、右手にはめた。


「ではレンナさん。俺の左肩に手を置いて、そしてもう片方の手で台車を掴んでください」


「え、はい」


言われたとうり、レンナはサイジの肩を掴みもう片方の手で台車の取っ手を掴む。


「リカナさんのご両親のどちらか1人、俺の右肩に手を置いてください」


「それなら、自分が」


名乗り出たのはリカナの父だった。


「では、俺の肩に片手を置いてください。そしてリカナさんが真ん中に入ってご両親の手を握ってください」


「は、はい」


リカナは父の片手と母の片手を握る。


「リカナさんのお母様は、台車のとってを掴んでください」


「は、はい」


リカナの母は台車の取っ手を掴む。


「準備完了です。では、今からギルド国に向かいます」



そう言ってサイジは魔法使う。


「転送!。ギルド国の門へ!」


その瞬間サイジ達は白い光につつまれその場から消えた。



そして数秒後。


ヒュン!!。シュン!!。


「はい、着きました」


「・・・えっ、何が起こったの!?」


アスクナの屋敷から一瞬でギルド国の門に転送したので、リカナ達とやレンナが驚いてた。


「さ、サイジさん。今のは一体?」


「転送魔法です。この腕輪を使えば指定した場所に移動できるんです。ただし、決められたとこだけですけど。さて、皆さん行きますよ。荷物を持って俺について来てください」


「あっ、はい」


言われたとうりリカナ達とレンナはサイジに着いて行く。そして、門の受付に向かった。


「証明書の確認をたのむ」


「あ、サイジさん。お疲れ様です」


「そっちもお疲れ様。ルロイダさん戻ってる?」


「ルロイダさんは一足先に戻って来てます」


「そうか、無事に着いたんだ。よかった」


「でも、いきなりサイジさんにこんな無理のある依頼を頼むなんて向こうの雇い主も容赦ないですね」


「そう言うなよ。世話になってる恩人だし、これくらいは平気だ」


「もぉ、相変わらずサイジさんは人が良すぎますよ」


「褒め言葉として受け取っておくよ。それじゃ門を通るぜ。あと4人、入国させて貰うよ。はい、これ書類」



午前9時10分、サイジ達はギルド国の門をくぐると


「ええええ!!。何これ!?」


レンナとリカナ達はその光景に度肝を抜かれた。


「す、すごい!。お店が大きなたくさんあって、人々で賑わってる!」


「確かに、今の帝国では考えられないぐらいほど賑やかだ!」


「ここがギルド国、エレドスタルです」


ギルド国、エレドスタル。帝国の隣にあるクリファード大陸のもう1つの国である。現在の帝国との大きな違いは、身分制度がなく自分勝手で理不尽な差別や犯罪が許されない事である。そして都市や村などをギルド条約で結び、人々が信頼と信用で公平な商売や取引をが出来る国なのである。


「なんだか、私達が暮らしてた帝国と比べて華やかです!」


「驚くのはまだ早いですよ。こんなのまだ序の口です。今から行く所を見たらもっと驚きますよ」


「え、どこに行くんですか?」


「ギルドユニオン本部です」


「え、何なんですかそれ?」


「ざっくりと説明すると、ギルド国の本拠地で中心となる所です。そこで皆さんの住民権の手続きをします」


「住民権。あのそれってやっぱりお金がかかりますよね?」


レンナはサイジに不安そうに質問をした。


「料金に関しては再発行の場合に取られますが、最初に作る場合は基本的に無料です」


「そ、そうなんです。はぁ、よかったです」


レンナは少しホッとしていた。そして歩いて十数分後。


「着きましたここが、ギルドユニオン本部です」


「す、すごい!。何この建物!」


「まるでお城みたい。でも、本当にこの中に入っていいんですか?」


「入らないと、住民権の発行が出来ないですよ」


「あ、そうですよね」


「さ、皆さん入りますよ。一緒について来てください」


サイジ達はユニオン本部の入り口に向かった。


ギルドユニオン本部。ギルド国エルドスタルにおいて、全て中心となる場所である。大手ギルドはこのユニオンと契約をしていて、様々な依頼やクエストがここで受けれる。他にも保険や契約や相談窓口そして住民件の発行など様々な役割を果たしている。


「サイジ・レナルロレードだ。本人証明書と帝国の住民証明書の確認を頼む」


「確認します」


サイジは入口の受付場の男性に証明書を渡す。


「異常ありません。ご協力ありがとうございます」


そう言ってサイジに証明書を渡した。


「では皆さん、行きますよ」


こうしてサイジ達はギルドユニオン本部の中に入る。


「うわぁああ!。建物の中もすごく広いですね」


「た、確かに。で、でも本当に我々みたいな平民が入るには少しおこがましい気がするですが」


「平民も何も関係ないです。そもそもこの国には身分制度が無いんですから」


「そ、そうなんですか?」


「勿論です。でもこの国にも法律あるんで、ちゃんと守ってください」


「わ、分かりました」


「そんなに、心配しなくてもいいですよ。今の帝国の法律より全然マシです」


そんな会話をしながら歩いて、サイジ達は住民権の受付所に到着した。


「サイジ・レナルロレードだ。帝国からの避難者の住民権の発行手続きの申請を頼む」


「かしこまりました。では、奥の部屋で手続きがありますのでご案内いたします」


そう言って受付の女性が立ち上がり奥の部屋に案内をする。


「サイジさん。だ、大丈夫なんですか?。もしこれで、住民権の審査に落ちたら」


リカナは不安な顔でサイジそう伝えた。


「極悪な酷い悪事を働かない限り、心配しなくても大丈夫です」


「わ、分かりました」


そして、サイジ達は奥にある部屋で避難者手続きを行った。手続きの時間は1人40分ほど。以前帝国に住んでいた住所や職業や経歴など調べ、ギルド国に住むのに問題が無いか審査する。それで問題なく審査が通れば住民権を、長ければ明日までに確実に発行される。


そして4時間後。避難者全員の手続きが済んだ。


「ふう、やっと終わりました。本当に緊張しました。でもサイジさん。これで本当に住民権は貰えるんですよね」


「はい。問題がなければ早くて、今日中には貰えます」


リカナの質問に答えたサイジ。すると。


「あの、サイジさん。リオヤとユリナはどこに」


「来客用の部屋にいます、今から向かいましょう」


「は、はい」


そう言ってサイジ達はリオヤとユリナがいる来客用の空き部屋に向かう。


「サイジ・レナルロレードだ。帝国からの避難者2人に会いに来た」


「お疲れ様です。どうぞ、1人はベッド休んでます」


「ありがとう。ではレンナさん、中に入りましょう」


「は、はい」


コンコン。


「入ります」


そう言って、サイジ達は部屋の中に入る。


「あ、サイジさん」


椅子立ち上がるユリナ。その隣のベッドでリオヤ寝ていた。


「どうも、体調は大丈夫ですか?」


「はい、私は大丈夫です。ただリオヤがまだ眠っていて」


「まぁ、急激に多くの魔力を使ったんです。でも2日ぐらい寝込むのは珍しい事じゃないです。明日あたりには眼が覚めると思います。もし何かあったら知らせてください」


「分かりました。ありがとうございます。それで、母は無事に着きましたか?」


「レンナさんは無事到着しましたよ」


「ほ、本当ですか!」


「はい。レンナさん入ってください」


するとドアからレンナがゆっくり入ってきた。


「ゆ、ユリナ」


「お、お母さん!!」


「ユリナ!!」


レンナとユリナは抱き合い、涙を流した。


「ユリナ、無事でよかった!。本当に心配だんだから!」


「ごめんなさい、お母さん。お母さんも無事でよかった」


互いの無事知り、安心した2人。


「サイジさん、本当にありがとうございます」


「気にしなくていいですよ。それよりレンナさん、今日はここでユリナさん達と泊まってくことになりますが。よろしいですか?」


「はい。構いません」


「ありがとうございます。あ、俺も今日はユニオンの仕事部屋に泊まるんで何かあったら呼んでください。すぐ駆けつけるので」


「分かりました」


「それじゃ、俺はリカナさん達別の宿泊部屋に案内するので。これで失礼します」


そう言ってサイジはその場を後にした。



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