1話 金髪の青年

神光西暦1581年。帝国前の門の受付所で書類に記入してる1人の男がいた。


その男は腰に半曲刀の剣をぶら下げながら、黒のジャケットを着て鮮やかな金髪に美しい紫の瞳を持つ青年だ。


「はい、記入したよ。後これ、ユニオン証明書」


青年は記入書とギルドユニオン証明書を渡した。


「名前、サイジ・レナルロレード。年齢20歳。書類の記入よし。ユニオン証明書も確認完了。よし、本人確認終わりだ。後は通行料2000ワンクもらうぜ」


「はいよ、2000ワンクだ」


サイジという青年は銀のコインを2枚渡した。


「ジンヤさん、いつもありがとう。本当はギルド関連の人間が帝国に入るのはお断りなのにさぁ」


「なぁに、例を言うの俺らの方だよ。こっちも帝国騎士団のやり方に、いい加減不満が出て来てよぉ。アイツら貴族や大臣の言った仕事ばっかり優先しやがって、平民の事なんて二の次以下に考えてやがる。だからお前さんみたいに、ちゃんと依頼を受けてくれる人間がいるだけでも十分ありがてぇよ」


「やっぱり騎士団は当てにならないか。まぁこの帝国の大臣や貴族の色々な行い自体、平民に対して不平等で理不尽だからな。公平でなくとも、せめて平等に人が暮らしていけるように考えてもらいたいよな」


「ふん、あんな奴らにそんな事考える頭は無い。 アイツらの頭にあるのは、汚い金と娯楽だけだ!。この帝国の王アウミス様がいた頃はこんな事なかったのになぁ。まぁでも、ここの領主様がいい人だからこの下町も今はこの程度で済んでんだけどな。まぁそんな事いちいち愚痴ってもしょうがないし、じゃあ今回も仕事頼むよ」


「承知した。それじゃ雇い主に所に行ってくるぜ」


「おう、よろしく頼むぜ」


サイジは門を通り、雇い主が居る下町アクスナに入った。


帝国都市ファルータルカ。人口6000万人以上が住んでいる都市で、帝国の中心地でもある。サイジの雇い主がいる場所はここから歩いて30分の場所にある。


歩いて20分。商店街を抜ける通路沿いに入ろうとしたその時。


バチン!。


商店街の真ん中で、かなり大きな張り手の音がサイジの耳に聞こえた。


「なんだ?」


サイジが張り手の音が聞こえた場所に向かってみると。


「この薄汚い女!。平民ごときが僕の靴を踏むととは身の程を知れ!」


「誤解です!。私は靴を踏んでおりません!。信じてください!」


偉そうな態度をとった20代の若い男の貴族が、平民の若い女性に因縁を付けていた。


「嘘をつくな!、この薄汚い平民め、見苦しいにもほどがあるぞ!」


そう言って貴族の男は平民の女性の手を踏み付ける。


「痛い!。申し訳ありません!。申し訳なありません!」


その現場を見たサイジは。


「まったく、この帝国の貴族は腐ってやがる」


サイジは居ても立っても居られなかった。


「おい、そこの狂った頭のバカ貴族さんよぉ。あんたには人への情けって言葉が無いのか?。高貴な貴族様がよくそんな品のない真似出来るなぁ。とても紳士とは呼べないぜ」


「あ?。誰だ、僕をバカ貴族と呼んだ奴は!。出てこい!」


「え?。すぐ近くにいるじゃないですか」


「な、何!?」


するとその貴族の男は背後に不気味な気配を感じた。


「ここですよ、貴族様」


「うわ!」


ドタン!


その貴族の男は、いきなり後ろから現れたサイジに驚き、腰を抜かした。


「なっ、何なんだお前は」


「おっと失礼。あまりにも品のないバカな貴族様がいたもので、ちょっと声かけてみようかと」


「何だと!。この僕に対してなんたる侮辱、ただで済むと思うなよ!」


「ふっ、笑わせんなよ。侮辱してんのはどっちだよ。平民にありもしない言い掛かりつけやがって、挙句の果てに女性に暴力を振るうとはゲス以下にも程があるぜ」


「な、何だと!。もぉ許さないぞ、この平民風情が!」


怒り狂った貴族の男がサイジに殴りかかる!。


「おっと」


サイジはその拳を涼しげな表情でかわした。


「うわ!。おわあああああ!」


殴りかかった貴族の男はバランスを崩し地面に転んだ。


「お、お前なぜ避けた!」


「あ?。アンタに俺を殴る権利が無いから避けたんだ。後そんな遅くてチョロい拳じゃ、一生かけても俺に当てられないぜ」


「な、なんだと!。お前よくもこの僕を馬鹿にしたな!」


貴族の男は立ち上がり、再び殴る体制に入った。


「その涼しげな顔に僕の拳を叩き込んでやる!」


そう言われたサイジは。


「まったく、しょうがない貴族様だ。いいだろ、そんなに暴れたいなら俺が相手になってやる!」


「なに?。この僕に手を挙げると言うのか!。そんなの、この帝国の権力が許さないぞ!。僕の持っている権力でお前を潰すことだって出来るだぞ」


「権力ねぇ。安心しろ、俺からは一切手を出さない。ただしこれから3分間、俺はアンタの攻撃をかわす。3分以内に俺に一発でも当てられたら、俺はアンタの言う事に従う。どんな命令でも従う。ただし俺に一発でも当てられなかった場合は、この女性の言いがかりを撤回し土下座で謝罪しろ!」



「ふん、面白い。いいだろう、随分と自信があるようだな」


「お好きでしょ、この帝国の貴族様は。カ・ケ・ゴ・ト が。それでは今から3分間、塔の鐘の音が鳴った瞬間に終了だ。それでは、初め!!」


「この愚民が!、図乗るな!!」


また貴族の男が殴りかかる。


「ほいっと」


貴族の男の攻撃を余裕でかわすサイジ。


「この野郎、コノぉおお!!」


「ほい、ほい、ほっいと。なんだ本気出してんのか?」


貴族の男は蹴りを含めてサイジに攻撃するが。


「何故だ!?。何故当たらない!?」


全くサイジに攻撃が当たらない。


「おいおい、本当にやる気あんのか?。余裕すぎてあくびが出るぜ」


「ふざけるな、この愚民が!」


開始1分、貴族の男はサイジの服にカスることすら出来ない。


「く、クソ!」


「はぁ、このまま回避し続けるのもなんか飽きたなぁ。どれ少し遊んであげますか」


「な、何お!」


貴族の男が右の拳振り抜いたとき。


ビシュン!!


「な、何!。消えた!?」


貴族の男はサイジが突然目の前から消えた事で、驚いて混乱した。


「ど、どこだ!」


「だから後ろにいますけど」


サイジは一瞬で貴族の男の背後に回っていた。


「うわ!。ま、また僕の後ろに。この野郎!」


貴族の男が今度は左の拳を振るが。


「無駄だぜ!」


ビシュン!!


「ま、また消えた!」


「あらら、すごい汗だ。大丈夫ですか?」


サイジはまた後ろに回り込んでいた。


「また後ろに!?。お、お前どんな妖術を使ってんだ!?」


貴族の男は、何がどうなってるのか理解出来なかった。


「まぁ簡単に言うと、ちょっとしたステップワークだな」


「な、何だと!?」


「いちいち反応が激しいな。別にステップワークなんて基本中の基本だろ。そんなのも分かんないで俺に殴りかかってるのか?。それとお前、時間は後少ししか無いぜ。どうすんの?」


「うるせぇんだよ!。このクズでゴミの愚民野郎!。これでも食らえ!!」



怒り狂った貴族の男は、詠唱を唱え始めた。


「怒りの炎よ、我に偉大なる力を。火炎魔法!」


貴族の男が魔法を放とうしたその時。


カーン、カーン。


11時の時間を知らせる塔の鐘がなった。


「終了。俺の勝ちだ」


「この野郎!。まだ終わってないぞ。こうなったら、お前を含めてこの一帯を僕の魔法で燃やし尽くしてやる!」


貴族の男の言った言葉に、周の連中が一斉に騒ぎ出した。


「な、なんだって!」


「きゃあああ!、巻き添いなんてごめよ!」


「ダメだ!。みんな逃げろ!」


商店街一帯はパニックになり、人々は一斉に逃げだした。だが、その中でこの男だけは冷静だった。


「往生際が悪いねぇ、お前の頭大丈夫か?。いい医者紹介するぞ」


「うるさい黙れ!。お前のせいだ、お前のせいだ!。僕を怒らせたお前が悪いんだ!。この一帯丸ごと僕の魔法で焼き払ってやる!」


「そうか。なら、やってみろ!!」


「うっ」


貴族の男はサイジの怒りの目に動揺したが。


「行くぞ、火炎魔法!。フィアス、ファイヤー!!」


ボォワヒュルルル!!。


巨大な火炎の渦がサイジに向かって放たれた。


「しょうがない、あれをやるか」


サイジは自分の左手を前にかざした。


「炎の奥義、火炎吸!!」


次の瞬間!。


ヒュゥ!。シュルルル!!。


炎の渦がサイジの左手に吸い込まれて跡形もなく消えた。


「なっ、何!?。僕の魔法が!」


あまりの事に貴族の男は驚きを隠せなかった。


「お前、いったい何をしたんだ!」


「火炎吸って技だ。吸い込んだんだよ、お前の中級程度の炎を」


「何、中級だと!?。ふざけているのかお前は、今のは僕を含め貴族の数十人しか使う事のできない高等な魔法だぞ。それを中級呼ばわりするとは」


「事実を言っただけだけどな」


「ふざけるな!!。フィアス、ファイヤー!!」


貴族の男は再び魔法を放つ。


「だから無駄だって言ってんだよ!。火炎吸!」


そして再び、魔法の炎がサイジの左手に吸い込まれていった。


「ば、バカな」


「何度やっても同じだぜ。それどころかお前は俺の体力を回復させちまってる。火炎吸は相手の炎を吸収して自分の体力を癒す技だからな。だから中級程度の炎魔法じゃ俺は倒せないよ」


「う、嘘だろ。そんなことが」


ドサッ。


貴族の男はついに膝をついた。


「ま、まさか。お前も炎属性を」


「ああ、とっくの昔に取得してる。それと炎以外にも取得してる属性もあるぜ」


「な、何に!?」


「いや、一々驚くなよ」


「ふ、ふざけるなよ。普通の人間は魔法属性を一つしか持てないはずだ。第一に平民がそんな高等な魔法を使えるなんて例外だ!」


「は?。別に魔法なんて誰でも使えるぜ。まぁでも、帝国の人間にこれ以上何言っても通じないことは分かってるから。話はこれくらいにしといて、ちょっと寝ててもらうぜ」


サイジは右手を貴族の男の前にかざした。


「念力魔法、スリープ」


「うっ、意識が。あ、ああ」


ドタ。


貴族の男は眠る様に意識を失った。


「さて、ちょっと調べますか」


そしてサイジは貴族の男に近づき靴見る。すると何かに気づいた。


「この靴跡、この男の左足の靴の裏とサイズと形が一致してる。なるほど、やっぱりな。ま、そんな事より」


サイジは被害を受けた女性に駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


「は、はい」


被害を受けた平民女性は怯えていた。


「申し訳ありません。怖い思いさせてしまいましたね」


「いや、そんな事」


「もぉ大丈夫です。お怪我、治療させていただきます」


「いや、そんな私なんかの為に」


「いえ、女性に傷後を残す訳に参りません。それに顔の腫れも酷いですし。時間は取らないので治療させてください」


「は、はい」


サイジは目を閉じて詠唱を始めた


「癒しの力よ、彼の者の怪我を癒せ。エイドヒーリング!!」


そのとき優しい緑のオーラが彼女を包む。


「痛みが、消えていく」


女性の体から傷と腫れが無くなっていった。


「う、嘘。腫れと傷が治ってる。そ、それって回復魔法!」


「はい、初級魔法ですけど一様使えます」


「か、回復は普通の人は使えないはずですが」


「魔力に目覚める事が出来れば、努力次第出来るようになりますよ。あなたはどんな魔法お使いになられるのですか?」


「わ、私は自然属性の魔法しか使えません」


「自然属性、凄いじゃないですか。貴方は努力次第で、かなり高い回復魔法を使えるようになります」


「そ、そうなんですか?」


「はい、自分を信じてください。あ、申し訳ないないのですが。少し靴を見せてもらってもいいですか?」


「は、はい」


サイジが靴を確認すると。


「靴の裏と靴跡が一致しない。それだけじゃない靴のサイズも全く一致しない。やっぱり言い掛かりだったか」


サイジは立ち上がり再び貴族の男の所に向かう。


「スリープ解除」


「は!。僕は一体?」


「おはようございます」


「お、お前は!?」


「なぁ貴族さんよぉ、これはどう言う事だ?。アンタがどこのお偉いさんだか知らないが、お前やっぱり嘘ついてたんだな。もぉ言い訳はできねぇぞ!」


「だ、黙れ!。弱者は強者に食われて当然なんだよ!。世の中はなぁ、金と権力を持ってる者が正しいんだ!。だから平民達は黙って僕ら帝国貴族の奴隷として生きてればいいんだ!」


サイジは呆れた顔をしていた。


「テメェ、本当に外道だな。自分がいくら偉いからって、権力を振りかざして弱い者を踏みにじるなんて、許されていい事じゃねぇ!!」


サイジの目は抑えきれない怒りに溢れていた。


「わ、悪かった。許してくれ。なんでもする、なんでもするから許してくれ!」


貴族の男は、あまりの恐怖に真っ青な表情になっていた。


「あ?。なんでもするって言ったか?。じゃあ謝れ!。俺じゃなくて、この女性に。テメェに理不尽な言い掛かりつけられて挙句の果てに暴力まで振るわれて、一番傷ついてんのはこの人なんだぞ!。だからしっかり手をついて心から謝罪しろ!」


「わ、わかった」


貴族の男は女性に近づき地面に手をつけたまさにその時。


「そこのお前!。一体何をしているんだ!」


「チッ、これまた厄介な事になったな」


サイジ達の元に帝国騎士団がやってきてしまった。

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