第37話 終幕


 「・・・・・ひとまず、ご苦労だった。それと、乙葉くん。色々とありがとう」


 篠宮家に上がった乙葉と美咲は、着物姿の信三の前で正座している。


 「いえ。実際に舞ったのは、美咲お嬢様です」


 乙葉の呼び方が気に食わなかったのか、隣で美咲が不満そうに頬を膨らませた。その様子をほほえましく見つめた。


 「美咲」


 「は、はい!」


 「少しは、陰陽師がどういうものか、理解できたか?」


 「・・・・・陰陽師、というか乙葉のことならわかりました」


 乙葉は思わず、はっきりと言い切った美咲を見上げていた。乙葉の視線を受けて、美咲は照れ笑いを浮かべた。


 「つい、言っちゃった!」


 そんなセリフが聞こえてきそうだ。


 「ん、んん。あ~、乙葉くん」


 「な、なんでしょう?」


 「私も年だ。体の方はおかげで快方に向かっているが、やはり引退しようと思う。が、そうすると娘のことが心配だ」


 「は、はあ」


 信三の言いたいことがいまいち分からない乙葉は、曖昧な返事を返した。


 「しかし、信用できない者に娘を任せることなどできん。どうしたらいいと思う?」


 意地悪げにからかうような笑みを浮かべた信三は、乙葉にウィンクして見せた。


 (この人、ユーモアのセンスがおかしくないか・・・・?)


 「・・・・・・信三さん」


 「なにかな?」


 「その役目、僕に任せてもらえませんか」


 「ほほほう。具体的には?」


 「僕のすべてをかけて、彼女を幸せにして見せます。人生でも、陰陽道でも。だから、娘さんを僕にください」


 「・・・・・お前は、いいのかい?」


 頭を下げた乙葉を見ながら、信三が美咲に聞いた。


 「はい。私も彼を幸せにするためなら何でも差し出します」


 美咲も乙葉の横で頭を下げた時、ふすまが静かに空いて、美紀が入ってきた。


 「あらあら。若い子は情熱的でいいわね」


 「美紀」


 「いいじゃありませんか。あなたもその気なんでしょう?」


 「バレてたか」


 「バレるも何も、隠す気がないじゃないですか。あなたは」


 「それもそうか。・・・・・・・・・・乙葉くん」


 「はい」


 楽し気な美紀が信三の横に座ると、乙葉は顔を上げた。目の前の信三の表情は。もはや篠宮家当主のものではなく、一人の父親のそれに変わっていた。


 「どうか、娘をよろしく頼む」


 「おねがいね」


 「は、はい! ありがとうございます!」


 めずらしく感情を思いっきり表に出した乙葉の横で、美咲も喜びに顔をほころばせていた。


 「さあさ。そうと決まれば、色々と準備しなきゃね。美咲、いらっしゃい」


 「え?、あ、はい」


 「そうだな。乙葉くん、君の方の準備は私が手伝ってあげよう。おいで」


 「は、はい」


 バタバタと客間から屋敷の奥へと下がっていく4人の家族を、一羽の鴉が穏やかな瞳で眺めていた。


 第一章 「出会い編」 完。


 ※ここまでご愛読、ありがとうございました!(^^)!。第二章に関しては、気楽に待っていただけると嬉しいです。また、今後やってほしいエピソードなどがありましたら、コメント等で書いていただけると助かります(^^)。

                      B.Y.春風落花

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陰陽高校生の悪霊討伐 春風落花 @gennbu

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