第36話 告白
「私は、」
「・・・・・・・・」
「私は、乙葉くんの特別になりたい」
「とく、べつ?」
「うん。だって、私は乙葉くんのことが好きだから」
言い切った美咲の目には、覚悟を決めた力強い視線と不安が詰まった涙が浮かんでいた。
それに対して、いつになく戸惑った表情で乙葉は答えた。
「ほ、本当に・・・・?」
「うん、本当」
「・・・・・お、俺は、」
「返事は後ででもいいから。だから、ちゃんと答えてね」
「・・・・・あ、ああ。わかった」
「そろそろ、行こっか」
「・・・・そうだな」
2人はぎこちなさげに、荷物を持って宿を出た。駅までの道のりは重たいものだったが、電車に乗り込むと、香耶が何事もなかったかのように世間話を始めた。
(・・・・・どうしよう)
世間話に頬を引きつらせながら合わせている乙葉の頭の中には、さきほどの会話が粘土のようにへばりついていた。
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地元に帰ってきた2人は、篠宮家の門前で立ち止まった。
「それじゃあ、今夜は休もっか」
「あ、ああ。お疲れ」
「・・・・・ね、ちょっとかがんで?」
「ん?」
ふいに背伸びした美咲に合わせるように、乙葉も背をかがめた。すると、頭に柔らかな感触が広がった。
「前から、一度なでてみたかったの。前よりも会う機会は減っちゃうだろうし」
「・・・・減らさなくても、いいぞ」
「え?・・・・・」
手を止めて、茫然とした美咲に乙葉は恥ずかし気に話し始めた。
「俺は、陰陽道で自分の体まで変えたくせに何もしたがらない歪な奴だし、人と関わるのも、自分が惨めに見えて嫌なんだ」
「うん」
「でも、美咲は違かった。最初はただ昔の俺を見てるみたいだったけど、俺はやっぱり、美咲とじゃないと話したくもないって思ったんだ」
「っ・・・・・・」
手を止めたままの美咲の目から、一筋の涙が流れた。
「え、なん、で?・・・・・・うれしいのに、なんで?」
「・・・・・・・俺だって、好きだって言われたときは泣きそうだったよ」
「~~~~~~」
言葉が涙でかき消されてしまった美咲は、たまらず乙葉に抱きついた。経験したことのないような気持ちでいっぱいになった乙葉も、我慢できずに思いっきり抱きしめ返した。
「・・・・・これから、遊びに行ってもいい?」
「ああ。ていうか、来てほしい」
「じゃあ、抱きしめてくれるんなら行ってあげる!」
「ああ、そうする」
「ふふふっ、不束者ではありますが、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
※次回更新 7月4日 土曜日 0:00
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