第35話 関係


 「ん・・・・・・・」


 「あ、起きた?」


 頬に軽い痛みを感じて、起きると、美咲の声が少し遠くから聞こえてきた。


 「あ、ああ・・・・・」


 「ふふ、今日はやけに遅かったね。夜更かしでもしてたの?」


 ふと顔を横に向けると、鴉がニシシと笑いながらくちばしを持ち上げていた。


 (さてはつついて起こしやがったな)


 指で鴉の頭をはじいて布団をはねのけると、乙葉は立ち上がった。


 「ごめん、寝すぎたな。今何時?」


 「今はね、え~っと、12:00まわったとこ」


 「・・・・・マジか」


 自分の寝癖を手櫛で掻き回しながら、乙葉はつぶやいた。窓に目をやると、静かに雨が降っている。


 (どうりで眩しくないはずだ・・・・・・)


 適当に着替えて、身支度を済ませると、美咲がバックの中から重そうなビニール袋を取り出した。


 「それ、どうしたの?」


 「起きてから、買ってきたの。ここ、お昼は出ないんだって」


 「ありがと」


 ありがたくコンビニのおにぎりを受け取り、かぶりついた。いつもなら炊き立てのほうがいいと思うのに、起き抜けの味覚には目の前のおにぎりが何物にも代えがたいごちそうに思えた。


 あっという間に食事を終えた乙葉は、荷物をまとめながら電車の切符を取り出した。


 「・・・・・時間はあるけど、どうしたい?」


 「ん~~、観光はしたいんだけど、神楽の疲れがまだ、ね」


 「無理ないさ。俺だって神楽を舞えば疲れる」


 お互いに苦笑しながらも、2人は部屋で休むことに決めた。しかし、もともと荷物が少ないので、あっという間にすることがなくなってしまった。


 「・・・・・・・ねえさ、」


 ポケ―っと携帯をいじりながら、美咲が独り言のように言った。たたんだ布団に頭をのせてうつらうつらとしていた乙葉は、気だるそうに振り向いた。


 「なに?」


 「これから、どうするの?」


 「・・・・・・悪霊討伐は、正直好きじゃないな。今までも本家任せだったし」


 「それも、そうなんだけど」


 言いにくそうに携帯を横においた美咲は、起き上がった。


 「私たちって、これからどうなるのかな」


 「・・・・・美咲はどうしたい?」


 「私はもう決まってるの! 乙葉は?」


 いつになく真剣な美咲に、乙葉も起き上がって目を合わせた。


 「俺は、正直に言うと、」


 美咲の肩と表情が、緊張で強張る。


 「美咲と過ごした時間は、まあ、楽しかったと思う。だから、このままの関係でいれたら楽しい」


 「楽しいのは、私も同じだし、このままの関係もいいと思う。でもね、私は、」


 ※次回更新 6月27日 土曜日 0:00

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