第34話 公開討伐«後»


 「その辺のことは、秘密です」


 しゃあしゃあと言い放った乙葉は電柱から地面に降り立った。それを式神が厳しい顔で見つめている。


 「・・・・なんでこんな危険なことを?」


 「危険?」


 「当たり前でしょう。人格が変わるほどの霊力なんて、下手したら悪霊化するわよ」


 「しませんよ。まあ、保証はないですが」


 「・・・・・・やめなさい」


 「言われなくてもそうそうやりませんよ。今回は特別です」


 刀を右手に握りなおした乙葉は、目の前の2人に軽く頭を下げた。


 「うちの当主が舐められないためには、こうするのが一番だったんですよ。だから、もう帰ります」


 「・・・・・そうか。これから先、表舞台に出てくることはあるのかい」


 「僕はもうやりたくないですけどね」


 大頭に正直な心の内を露呈した乙葉は霧が晴れるように、妖世から現実に戻っていった。


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 (はあ~~~~~~~、つかれた)


 一応神社を覗いてから帰路についた乙葉は、疲れ切った手足を引きずるように歩いていた。


 「早く帰ろ」


 «お疲れさん»


 鴉の声が頭の中に響いてきた。


 「ああ、疲れたよ・・・・・・彼女は?」


 «大丈夫だ。ヨダレ垂らして幸せそうに寝てる»


 若干呆れ気味に漏らした鴉に、乙葉は苦笑しながら返した。


 「そうか。それならよかった」


 «早く帰って来い。お前もキツイだろうが、わしだってつらい»


 「はいはい」


 乙葉は霊装を解き、手ぶらの状態で宿に戻った。


 «おう、おかえり»


 「ああ、」


 寝ている美咲を起こさないように乙葉はゆっくりと座った。すぐさま鴉が乙葉に体を寄せてくる。


 «補給、補給»


 「あんまり吸うなよ。俺だって残り少ないんだ」


 乙葉と鴉は普段から近くにいるため、霊力の補給がいつでも行えるが、今夜は数時間の間離れていたので、鴉の霊力が減っていたのだ。


 「・・・・・・・・・・」


 「にしても、随分ぐっすり寝てるな。晩飯もまだだろう?」


 «いや、つい1時間くらい前に起き出して、寝ぼけナマコで食っておった。その後、すぐに寝てしまったがな»


 「ま、疲れたんだろう」


 «お主だって大概じゃ。今も瞼が落ちかかっておる»


 「あ、ああ。俺も、そろそろね、る・・・・・」


 フラフラと浴衣に着替え、布団を適当にしき、乙葉はすぐに目をつぶった。


 «ったく、わしから見れば両方子供じゃな»


 そばでうずくまった鴉は2人の寝顔を眺めながら、自分も休み始めた。すでに朝日が少しばかり顔を出してきた、明け方のことである。


 ※次回更新 6月20日 土曜日 0:00

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